8月下旬、3泊4日で北アルプスの秘境・雲ノ平を縦走しました。双六岳(すごろくだけ)から鷲羽岳(わしばだけ)、水晶岳、黒部源流をめぐるルートはまさに“天空の大地”。稜線から眺めるパノラマや山小屋のグルメなど、歩くからこそ出会える瞬間がありました。これから雲ノ平を計画する方の参考になればうれしいです。
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【1日目】新穂高から双六小屋へ。鏡池と山荘グルメを味わう一日

新穂高温泉登山口(60分)→中崎橋(10分)→笠新道登山口(10分)→わさび平小屋(20分)→小池新道登山口(60分)→秩父沢出合(90分)→シシウドヶ原(60分)→鏡平山荘(60分)→弓折分岐(70分)→双六小屋キャンプ場/全コースタイム(7時間30分)
新穂高温泉第三駐車場〜わさび小屋

深夜2時ごろ、約250台を収容できる新穂高(しんほたか)温泉第三駐車場に到着しました。日曜日ということもあり、すでにほぼ満車。残りわずかのスペースに何とか駐車できました。周辺にはいくつかの駐車場がありますが、第三駐車場は無料で利用できるためとくに人気があります。シーズン中は早朝でも満車になることが多いので、できるだけ早めの到着がおすすめです。
駐車場には仮設トイレが設置されており、登山口へ向かう途中の「奥飛騨温泉郷観光案内所」のトイレも利用可能です。仮眠をとって身支度を整え、午前5時30分に出発しました。駐車場から登山口までは徒歩で約10分。そこからはわさび平小屋を目指します。
登山道はなだらかな砂利道が続き、歩きやすい道です。谷間を抜ける冷たい風が心地よく、眠気も一気に吹き飛びました。笠新道への分岐点には水場と案内板があり、ここで水を補給する登山者も多く見られます。

登山口から1時間ほどで、わさび平小屋に到着。名物の新鮮なトマトやきゅうりが並び、思わず手が伸びそうになります。ここは帰りの楽しみにとっておき、軽く行動食を口にして先へ進みました。
わさび小屋〜秩父沢出合

ここからはいよいよ本格的な登りの始まりです。小池新道に入ると、石畳の石段や大きな岩が現れ、足元は変化に富みます。道はしっかり整備されていて歩きやすいものの、緩やかな登りがじわじわと体力を奪っていきます。途中の秩父沢では、台風で流された橋が新しく架け替えられており、無事に通過できました。
秩父沢出合〜鏡平山荘

標高が上がるにつれ、チボ岩など特徴的な岩場が現れ、背後には穂高連峰や西穂高岳の雄大な姿が広がります。やがて木道が現れると、鏡池はもうすぐ。到着したときはあいにく雲がかかり、槍ヶ岳(やりがたけ)の姿は見えませんでしたが、水面に映る景色の美しさに癒やされました。
鏡平山荘には11時30分頃に到着。山荘前は多くの登山者で賑わっていましたが、ちょうど空いたテーブルで牛丼と名物のかき氷をいただき、エネルギーを補給しました。冷たい氷は火照った体に染みわたり、至福の休憩時間となりました。
鏡平山荘〜双六小屋キャンプ場
お腹もいっぱいで足取りはやや重かったものの、道端にはチングルマの綿毛やさまざまな高山植物が咲き乱れ、気分を盛り上げてくれます。弓折乗越(ゆみおれ のっこし)は本来なら眺望が楽しめる場所ですが、この日はガスが濃く、残念ながら視界は限られていました。分岐点からは双六小屋方面へ。気温はやや高めでしたが、曇り空のおかげで直射日光を避けられ、比較的歩きやすかったのが救いです。

弓折乗越から20分ほどで花見平へ。砂地に広がる緑とのコントラストが美しく、言葉では言い表せない景観が広がります。花の見頃はやや過ぎていたものの、西斜面にはまだ高山植物が咲いており、目を楽しませてくれました。雷鳥と出会えることで知られるエリアですが、今回は姿を見られず残念でした。

黒ユリベンチで小休憩。ちょうどオヤマリンドウやアオノツガリンドウが見頃で、斜面一面に咲き誇る様子はとても可憐でした。アップダウンを繰り返しながらハイマツ帯を抜けると、正面に鷲羽岳、眼下には双六小屋が見えてきます。ここまで来ればゴールは目前。自然と足取りも軽くなります。
午後3時頃、双六小屋に到着。その頃にはガスも晴れ、目の前に祖父岳から燕岳まで連なる大パノラマが広がり、思わず見とれてしまいました。受付を済ませてテント場へ。双六小屋から徒歩2〜3分ほどのテントサイトは、150張ほど収容できる広さがあります。設営を終え、準備してきた夕食に小屋で購入したおでんと生ビールを添えて、山の夜を楽しみながら眠りにつきました。
- 予約:特定日予約制
- 料金:1名:2,000円(水代込み)(中・高校生1,000円、小学生500円)
- 外トイレ利用:200円/回
- 問い合わせ:双六小屋|双六小屋グループ
【2日目】凛々しい鷲羽岳を越えて、天空の楽園・雲ノ平へ

双六小屋キャンプ場(70分)→双六岳(15分)→中道稜線分岐(50分)→三俣蓮華岳(30分)→三俣山荘(90分)→鷲羽岳(60分)→ワリモ北分岐(40分)→祖父岳(45分)→スイス庭園(25分)→雲ノ平山荘(25分)→雲ノ平キャンプ場/全コースタイム(7時間30分)
双六小屋キャンプ場〜双六岳

朝食を終え、テントを撤収して出発したのは午前5時30分。朝日を浴びながら歩き出すと、気持ちが自然と高まります。双六岳へは「巻き道」「中道」「稜線ルート」の3つがありますが、今回は稜線コースを選びました。標高を上げるごとに景色は壮大になり、振り返ると槍ヶ岳へと続く「天空の滑走路」と西鎌尾根が迫力たっぷりに広がっています。山頂からは360度の大パノラマ。あまりの美しさに、思わず何度も足を止めてしまいました。
双六岳〜三俣山荘
ここからはアップダウンが続きますが、稜線歩きならではの絶景に励まされ、疲れを忘れて進みます。中道稜線分岐から三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)へ向かうハイマツ帯は、雷鳥に出会えるポイントです。運よく遠くに雷鳥の親子を見つけることができ、心が和みました。

三俣蓮華岳の山頂もまた展望抜群。眼前に広がる大自然に心が解き放たれます。さらに進むと、トンネルのように木々が覆う道を抜け、鷲羽岳と三俣山荘の赤い屋根が視界に飛び込んできました。目的地が見えると、自然と足取りが早くなりますね。
三俣山荘〜鷲羽岳

三俣山荘ではサイダーで喉を潤し、行動食を口にしてひと休み。元気を取り戻して鷲羽岳へ向かいます。ザレ場や急登は堪えますが、振り返れば後方に広がる絶景が背中を押してくれるようです。

山頂に立つと、雲ひとつない青空が広がり、北アルプスの名峰が次々と姿を現しました。足元には、エメラルドグリーンに輝く火山湖・鷲羽池。まさにここでしか見られない光景に心を奪われます。
鷲羽岳〜雲ノ平キャンプ場
鷲羽岳をあとにし、いよいよ憧れの雲ノ平を目指します。振り返れば先ほど立った鷲羽岳が堂々とそびえ、その姿に見送られるような気持ちに。そしてワリモ岳と祖母岳の登り返しを踏ん張ります。

ハイマツに覆われた木道を抜けると、視界が一気に開け、広大な大地「雲ノ平」が目の前に広がりました。その瞬間、長い道のりの疲れが吹き飛び、思わず胸いっぱいに深呼吸しました。まさに感動の一瞬です。この日の幕営地・雲ノ平キャンプ場に到着。平日にもかかわらずテン場は混み合っており、まずはテントを張る場所を確保。ゴロゴロした岩や傾斜地も多いため、いい場所を狙うなら早めの到着がおすすめです。
設営を終え雲ノ平山荘へ向かう木道を歩くと、高山植物が広がる大地の景観に、憧れの地に来た実感がこみ上げてきました。山荘にはカップラーメンやおやつ、お酒なども販売されています。あまりに気持ちよかったので、木道途中のテーブルで夕食を済ませてからテントへ戻りました。
【3日目】名峰・水晶岳を経て黒部源流へ

雲ノ平キャンプ場(60分)→祖父岳(40分)→ワリモ北分岐(50分)→水晶小屋(40分)→水晶岳(30分)→水晶小屋(40分)→ワリモ北分岐(40分)→黒部源流(45分)→三俣山荘(155分)→双六小屋/全コースタイム(8時間20分)
雲ノ平キャンプ場〜水晶岳
3日目は雲ノ平キャンプ場を午前5時に出発しました。祖父岳を越えると、眼下に雲ノ平の広大な大地が広がり、そのスケールに圧倒されます。ワリモ北分岐からは稜線歩きが続き、水晶小屋へ。ここまで来ると、黒部源流域を取り囲む山々の姿が一段と近くに迫ってきました。

荷物をデポして水晶岳へピストン。山頂まではザレ場や岩場の続く道ですが、登り切った先には「黒部の守り神」と称される名峰が堂々とそびえ立ちます。振り返れば槍・穂高、さらに遠くには立山や剱岳(つるぎだけ)まで一望。思わず時間を忘れてしまうほどの大展望でした。
水晶岳〜黒部源流
水晶小屋に戻り、名物の「力汁」でエネルギーをチャージ。ニンニクのきいた味噌汁にお餅が2個入り、体の芯から力が湧いてくる一杯。本当におすすめです。

分岐から黒部源流へと下ります。この日は早朝から熊の目撃情報が相次ぎ、茂みの深い源流コースは少し不安を感じたので、熊スプレーを手元に準備して歩きました。
それでも、沢沿いの道は空気がひんやりとして心地よく、透明度抜群の流れに思わず手を浸してリフレッシュ。ここが日本一の大河・黒部川の源流だと思うと感慨深く、自然の偉大さを実感しました。
黒部源流〜巻き道〜双六キャンプ場
黒部源流から登り返して三俣山荘へ。ここでしっかり食事をとり、ケーキとサイフォンコーヒーをいただきながら、ゆったりとした時間を過ごしました。休憩後は巻き道を選び双六小屋へ。アップダウンが少なく、ときおり振り返るたびに広がる絶景を楽しみながら無事に到着しました。
【4日目】稜線の絶景を胸に、4日ぶりのお風呂へ

双六小屋キャンプ場(70分)→弓折分岐→(30分)鏡平山荘(40分)→シシウドヶ原(50分)→秩父沢出合(40分)→小池新道登山口(20分)→わさび平小屋(10分)→笠新道登山口(10分)→中崎橋(45分)→新穂高温泉登山口→ひがくの湯と登山食堂/全コースタイム(5時間15分)
双六キャンプ場〜新穂高登山口
いよいよ最終日。テントを撤収し、朝の澄んだ空気の中を出発しました。この日は午後から雨予報が出ていたため、美しい景色に名残惜しさを抱えつつも足早に下山を続けます。

だんだんガスが濃くなってきたころ、花見平では行きでは出会えなかった雷鳥の親子に会うことができました。
秩父沢を渡り、小池新道を下っていくと、水音が次第に大きくなります。山を下りてきた実感がじわじわと湧くころ、わさび平小屋に到着。
軒先には、名物の冷えたトマトやきゅうりがずらり。その鮮やかな赤と緑を見た瞬間、思わず笑みがこぼれます。初日に食べずに楽しみにしていた分、ひときわおいしく感じました。みずみずしい味わいが、疲れをそっと癒やしてくれました。
ひがくの湯と登山食堂

下山後のお楽しみは、登山口近くにある「ひがくの湯と登山食堂」。温温泉に浸かると、4日間の疲労がじんわりと溶けていくようで、心身ともにリセットされます。湯上がりには、登山食堂でいただくボリューム満点の山ごはん。ビールを片手に今回の山旅を振り返る時間もまた、縦走の醍醐味だと感じました。
下山後の温泉と食事は、縦走登山の締めくくりに欠かせないご褒美。雲ノ平を目指した4日間の旅を、最高の形で締めくくることができました。
ライター
yuki
幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。
