「働き方改革」や「ウェルビーイング」が語られる時代に、私たちは本当に“自然”に働けているのでしょうか。 そんな問いに、生命科学と組織開発の視点から新たな解を提示しているのが、Fungii代表・鈴木恭平さんです。 ホルモンや神経系、菌類の生態からヒントを得て、組織に“生命性”を取り戻すという彼のアプローチには、アウトドアを愛する私たちにとって深く共鳴するものがあります。 自然と働くこと、生きているように働くこと。その可能性について、お話を伺いました。

組織もまた「生き物」である

「組織って、森みたいなものだと思うんです」と鈴木さんは語ります。

生物工学を学び、生命科学を起点に組織開発の分野に進んだ鈴木さんは、チームや会社を“生きた存在”として捉えています。 現在は、自身が立ち上げた組織開発コンサルティング会社Fungii(ファンジー)を通じて、「菌類のように関係性でつながる組織」「神経系のように反応するチーム」など、自然界の仕組みを取り入れた組織づくりを実践しています。

「効率や統制を重視するマネジメントのあり方は、ある意味で人間がつくり出した人工的な構造です。でも、自然界はもっと豊かで、柔らかい秩序で動いています。組織もそこにヒントがあるはずなんです」と鈴木さん。

自然界に目を向けてみると、菌類は土壌の中で静かにネットワークを築き、情報や栄養を交換しています。森の中で木々が互いに支え合うように、組織の中でも「見えないつながり」が生まれれば、もっとしなやかで持続可能な関係性が築けるのではないでしょうか。

パタゴニアに見る、“自然と働く”組織のかたち

環境保護と経営を両立するアウトドアブランド・パタゴニアは、そうした考え方の実例ともいえる存在です。 同社では、従業員の自律性を重視し、チーム単位での意思決定を推奨しています。

ホラクラシー的な構造の中で、社員は自ら判断しながら動き、ときには「波が来たらサーフィンに行っていい」とさえ言われるのだとか。「自然のリズムで働く」という姿勢が、単なる福利厚生ではなく、組織文化として根づいているのです。

「パタゴニアは、思想をビジネスとして形にしている好例だと思います。自然を“外”のものとして扱うのではなく、組織の一部として関わっている。それが強さになっているんでしょうね」と鈴木さんは話します。

また、同社は働きながら環境保護活動にも取り組めるよう、柔軟な勤務形態や制度が整っており、その実践がブランドイメージにも貢献しています。個人の価値観と社会的ミッションが一致することで、社員のエンゲージメントも高まるのです。

Fungiiのアプローチ:「生命性」から組織を捉えなおす

鈴木さんのアプローチのユニークさは、「生命科学」という根本的な視点にあります。ホルモンの伝達、神経の反射、菌類のネットワーク。そうした“生き物の仕組み”をメタファーとして用いることで、組織に“循環”と“共鳴”を取り戻そうとしているのです。

「たとえば、人間の体はホルモンで感情が変わり、環境に反応して自律神経が働きますよね。組織にも、そういう“見えない関係性の流れ”があると思うんです。そこに目を向けていくことで、本当の意味でのチーム力が生まれると感じています」

Fungiiという社名も、菌類(Fungi)のように“静かに、しかし強く、つながり合う”組織への願いが込められています。また、生命科学を土台としたアプローチにより、従来の組織論では見落とされがちだった「感情」や「直感」も、重要なファクターとして再評価されています。

数値やロジックだけでなく、人間らしいゆらぎや曖昧さも含めて設計していく。その柔軟性が、現代の複雑な社会や働き方に適応する力になるのです。

自然と人、組織と環境が“生かし合う”ためにできること

パタゴニアが「自然との共生」を経営の中核に据えているように、Fungiiもまた、「自然そのものの仕組み」を組織運営に活かしています。 両者に共通するのは、「人間と自然は主従関係にはなく、人間も自然の一部」という思想です。

環境に“支配される”のではなく、“ともに生きる”存在として自然を扱う。その姿勢が、働く人々の意識を変え、組織の可能性を広げていくのです。ただし、アプローチは少し異なります。 パタゴニアは明確なビジョンをトップが提示し、そこに組織が共鳴する構造。一方Fungiiは、ビジョンを一方的に示すのではなく、「関係性そのものが意思決定する」という、より“生態系に近い”組織像を目指しています。

「自然界では、“誰かがリーダーで、誰かが指示を出す”ということはありません。役割はその場その場で変わるし、必要なら調整される。組織にも、そうした柔軟さが必要なんです」と鈴木さんは言います。

この視点を持つことで、リーダーシップもまた新しい意味を帯びてきます。リーダーとは何かを命じる人ではなく、つながりを紡ぎ、場の“流れ”をととのえる存在。まさに、風のように自然に働きかけることが求められているのかもしれません。

森のようなチームで働く未来へ

鈴木さんが描く未来の組織は、自然の生態系に似ています。「指示や命令ではなく、共鳴や信頼でつながるチーム。生き物としての人間の在り方を取り戻すことで、もっと自然に、そしてしなやかに働けるようになると思います」

そして、それは個人のウェルビーイングにも直結します。「自然の中にいると、副交感神経が優位になってストレスが軽減されたり、免疫系が整ったりするというデータもあります。山や森に行ってリフレッシュできるのは、きちんと“科学的な理由”があるんですよね」

さらに、自然のなかでの活動は、チーム内の関係性にも大きな変化をもたらします。普段は言葉にしづらい気持ちも、焚き火を囲んだ場では自然とこぼれ出る。身体を動かすことで、会話にリズムが生まれ、チームの空気もほぐれていく。そんな“間”をデザインすることも、これからの組織づくりには欠かせない要素となるでしょう。

アウトドアが好きなあなたは、きっと良いチームをつくれます

自然の中で働くこと、自然とともに組織を運営することは、特別なことではありません。 むしろそれは、私たちが本来もっている「生命としての知恵」を思い出すことなのかもしれません。

「アウトドアが好きな人って、たぶん“自分の感覚”に素直だと思うんです。自然の変化に敏感だったり、人との関係を大事にしたり。そういう人たちは、すごく良いチームビルダーになると思いますよ」と鈴木さん。

感覚を信じること、違和感に気づくこと。自然の中で育まれるその力は、組織の中でも確かに役立ちます。あなたの「自然好き」こそが、チームを変える種になるかもしれません。

感性を動かし、関係を深める──“自然のチカラ”を活かしたチームづくりへ

自然の中で本音を語り、感覚をひらき、信頼を育む。そんな場を、実際に体験できるプログラムがあります。 それが、アウトドア研修サービス「Nature Build」です。

キャンプ場での焚き火や料理づくり、ブラインド設営など、五感と身体性を活かした研修を通して、「共鳴するチーム」をつくることを目的としています。自然の中でこそ、人は感性を取り戻し、関係性もあらわになります。そんな体験が、これからのチームづくりに必要なのかもしれません。

都市のオフィスでは見えなかった“チームの温度”が、自然の中では可視化される。互いの違いを尊重しながら、共にひとつの目標に向かって動く。その原体験が、働く喜びや信頼を育むきっかけになるはずです。「自然に戻る」ことは、過去に戻ることではありません。未来に向かって、もっと人間らしく、もっと自由に働くための第一歩なのです。

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アウトドア研修とは?導入事例や実施方法を解説
アウトドア研修とは?導入事例や実施方法を解説

 

鈴木恭平

大学で分子生物学やたんぱく質工学、エピジェネティックスなど生命科学を幅広く学ぶ。「研修者になりたい」という志を持って入学したが、研究室の風土が合わず挫折を経験する。また、大学アメフト部での活動中、チームの雰囲気の良さによって個人のパフォーマンスやチームのモメンタム(勢いや流れ)が大きく変わる事を体感。自身の探求テーマは「生命の原理原則に基づいた人材育成」「場に命を与える組織開発」。

朝倉奈緒

ライター

朝倉奈緒

ファッション誌の広告営業、音楽会社で制作やPRを経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・自然食を中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を守りながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。キャンプ・ヨガ・野菜づくりが趣味で、玄米菜食を実践中。