美しい自然を讃えるアートを通じて、環境保護への意識を広げるアーティスト、Nick Kuchar(ニック・カッチャー)さん。サーフィンやハイキングを日常に取り入れながら、ハワイの海や街、そこに息づく物語を作品に落とし込む彼のスタイルは、見る人の心に温もりと冒険心を呼び起こします。Greenfieldでは今回、来日中のNickさんにGREENROOM YOKOHAMAにてインタビューを行い、創作の源泉と環境への想い、そしてアウトドアを愛する私たちへのメッセージをもらいました。
ハワイの自然の中で生まれる作品のアイデア

「僕の作品は、ハワイの自然や場所からインスピレーションを受けています。家族と一緒にサーフィンやハイキングに出かけることが多くて、いつも外にいる。そういう時間の中で自然とつながり、創作の種が芽生えるんです」
Nick Kucharさんの創作は、海辺でスケッチを描くことから始まります。お気に入りのサーフスポットや町を訪れ、そこで感じた空気や色、音をもとに、スタジオで作品として仕上げていく。そのプロセスには、自然への深い愛と敬意が込められています。
「外に出て自然と向き合うと、アイデアが自然に湧いてくるんです。スタジオで悩むより、山道を歩いたり海を眺めたりしていると、ふと“これだ”って思える瞬間が来るんです」
アートを通じて、人を笑顔にしたい

「最終的には、作品を見て誰かが笑顔になってくれたら、それが一番うれしい」と話すNickさん。レトロな配色やミッドセンチュリーデザインの影響を受けたスタイルの作品は、見る人にノスタルジーを感じさせてくれるような温もりがあります。

「古いハワイの旅行ポスターが好きなんです。あの時代の色使いやデザインには、陽気さとポジティブさがあって、今の自分の作品にも通じるものがあると思っています」
作品をひとつひとつ眺めているだけで、Nickさんのキャラクターが伝わってくるようです。
“Leave it better than you found it”──自然へのリスペクト

「自然や海を尊重すれば、当然、それらを守りたくなるんです」
Nickさんが大切にしているのは、アメリカでよく使われる「Leave it better than you found it(来たときよりも美しくして帰る)」というマインドセット。キャンプやビーチに行ったらゴミを持ち帰る、時には他人のゴミも拾う。そうした小さな行動の積み重ねが、大きな変化につながると信じています。
「“全部をやらなきゃ”と思うと動けなくなる。でも“何か一つできることをやろう”と思えば、誰にでもできることがあるはずです。僕のスタジオでも、すべてをリサイクルするのは難しいけど、できる範囲で努力しています」
水性インクと環境への配慮

Nickさんは環境負荷の少ない水性インクを使用しています。
「水性インクは布や紙にしっかり染み込むので、手触りが柔らかくなるんです。それに洗浄も楽で、プラスチック系のインクより環境にやさしい。だから僕のスタジオでは、水性インクを使うことにしています」
ほかにも、Nickさんは作品の元になる紙材は、水力発電で稼働する製紙工場で製造されたものを使用したり、リサイクル素材の梱包材を利用したりしています。当たり前のように環境に配慮しているやさしさまで、作品のエッセンスになっているようです。
約9年訪れている日本。いろいろな場所を描いてみたい

今回の来日で、Nickさんは大阪や横浜、東京などを訪れています。ライブプリントやサイン会を通じて、日本のファンとも直接触れ合う機会を楽しんでいます。
「どの場所にもそれぞれの魅力があるし、探検するのが楽しい。ハワイと同じで、日本も“どこが一番”っていうより、“どこも特別”。新しい出会いや経験ができるのが、本当にうれしいですね」

現在は主にハワイの風景を作品化していますが、日本の風景を描いてみたいという意欲も。「時間ができたら、日本の場所もイラストにしてみたい。すでに東京の作品は一つありますけど、他にも描いてみたい場所はたくさんあります」
自由なスタイルでアートを楽しんでほしい

「ギャラリーにいると感じるんですけど、人それぞれ好きなアートのスタイルって違いますよね。だから、自分が“これ好き”って思えるものを見つけて楽しんでほしい」
Nickさんの作品も、ただ眺めるだけで楽しいけれど、時間をかけて細部を見ていくと、そこには場所の歴史や文化が刻まれているのが感じられます。
「ぱっと見で楽しめる。でも、じっくり見るともっと深く楽しめる。そんな作品になればいいなと思って描いています」
ブランドとの共創が広げる世界

PatagoniaやANAなど、Nickさんはこれまで多くの企業とコラボレーションしてきました。その中でも印象に残っているのが、2021年にANAと行ったプロジェクトです。
「ANAとの仕事を通して、日本で僕の作品を知ってくれる人がすごく増えたんです。バッグやジッパーバッグなど、いろんな商品に展開できたのもよかった」

コラボレーションには、個人制作とはまた異なるチャレンジがあります。クライアントの意向に応えつつ、自分の表現をどう融合させるか。そのバランス感覚は、製品デザインのバックグラウンドを持つNickさんならではの強みです。
「うまくいくコラボレーションって、お互いの価値観が似ているんですよね。同じ方向を見て仕事ができると、結果も良いものになります」
アウトドアを愛するすべての人へ

アウトドアを楽しむGreenfieldの読者へ、Nickさんはそんな温かいメッセージを届けてくれました。
Nick Kuchar(ニック・カッチャー)

ハワイのオアフ島在住のアーティスト。出身地のフロリダ州でサーフィンと絵を学んで育つ。大学でインダストリアルデザインを専攻し、 インテリアディスプレイのデザイナーとして活躍。その後、自身のブランドをスタートし、レトロハワイのトラベルマップシリーズがシグニチャーアートとして人気を集めている。
住所:神奈川県横浜市中区新港1-3-1 MARINE & WALK YOKOHAMA 1F
電話番号:045-319-4703
営業時間:11:00 – 20:00
ライター
朝倉奈緒
ファッション誌の広告営業、音楽会社で制作やPRを経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・自然食を中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を守りながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。キャンプ・ヨガ・野菜づくりが趣味で、玄米菜食を実践中。