夏の暑さや異常気象に、以前とは違う変化を感じている人も多いのではないでしょうか。気候変動は、私たちの暮らしだけでなく、スポーツの現場にも少しずつ影響を及ぼし始めています。

こうしたなか、Jリーグでは気候変動に向き合う新たな挑戦として、「スポーツポジティブリーグ(SPL)」を始動しました。クラブごとの気候アクションを可視化し、互いに学び合いながら前進していくというものです。本記事ではその概要と、評価項目のひとつ、プラントベースフードを通じて広がる新しいスタジアムの取り組みを紹介します。

気候変動とサッカーの関係

Jリーグ

気候変動とサッカー。一見すると別々のテーマのように思えるかもしれません。けれど実際には、私たちが感じている異常気象の増加は、すでにサッカーの現場にも影響を及ぼし始めています。

たとえばJリーグでは、大雨や台風などの影響で試合が中止となった件数が、2018年以降で以前の約5倍に増加。観戦を楽しみにしていたファンにとっても、クラブにとっても、天候によって当たり前の試合開催が揺らぎ始めています。

さらに深刻なのが、暑さによる健康リスクです。熱中症による救急搬送件数は約1.4倍に増加しており、気温の上昇は選手だけでなく、観客や運営スタッフにとっても軽視できない課題となっています。真夏のスタジアム観戦に、不安を感じる人も増えているかもしれません。

このまま十分な対策が進まなければ、2100年頃には世界の平均気温が、産業革命前と比べて最大4.4℃上昇するとの予測もあります。「4℃くらい」と感じるかもしれませんが、その変化は競技環境や自然環境、私たちの暮らしを大きく変えてしまう可能性があります。

今まで当たり前だった「週末にスタジアムで応援する」「子どもたちが外で思いきりボールを蹴る」「夏に屋外スポーツを楽しむ」そんな日常が、難しくなってしまうかもしれません。だからこそ今、スポーツ界でも気候変動への対応が求められているのです。

参考:Jリーグ気候アクション
IPCC AR6 WG1 Summary for Policymakers

海外サッカークラブで進む気候アクション

Jリーグ

気候変動によって、試合の開催や選手の安全、ファンがスポーツを楽しむ環境まで揺らぎ始めている今。課題に正面から向き合い、「スポーツの力で未来を変えていこう」と動いているチームや団体があります。

環境への配慮は、もはや一部の先進的な取り組みではなく、これからのスポーツ界にとって、欠かせないテーマになりつつあります。ここでは、世界のサッカー界が取り組む、気候アクションの事例をみていきましょう。

世界一エコなサッカークラブの挑戦

気候アクションの先駆けとして、世界的に注目されているのが、イングランドのクラブ「フォレスト・グリーン・ローヴァーズ」です。同クラブは、スタジアムで使用する電力を再生可能エネルギーでまかない、ピッチの管理にも環境負荷の少ない方法を採用しています。

さらに、スタジアムで提供される食事もヴィーガン対応にするなど、クラブ運営全体でサステナブルな挑戦を続けています。その先進性から、「世界一エコなサッカークラブ」として知られ、多くのメディアやスポーツ関係者から注目を集めています。

プレミアリーグでも進むサステナブルなスタジアム改革

世界最高峰リーグの一つ、イングランド・プレミアリーグでも、環境に配慮したスタジアム運営が進んでいます。その代表例が「トッテナム・ホットスパー」です。本拠地スタジアムでは、プラントベースフードの提供や、再利用可能なカップの導入を進めるなど、観戦体験そのものをサステナブルに変える取り組みを実施しています。

さらに、スタジアム内にはクラフトビールの醸造設備を備え、輸送に伴うCO2排出量の削減にも配慮。太陽光発電や省エネ設備、再生可能エネルギーの活用など、施設全体で環境負荷を減らす工夫も行われています。

クラブは2040年までにCO2排出量実質ゼロを目指す方針も掲げ、未来のスタジアムのモデルケースにもなっています。

Jリーグが始める「スポーツポジティブリーグ(SPL)」

Jリーグ

世界のサッカー界で気候アクションが進むなか、Jリーグでも2026年から新たな取り組みが始まります。それが「スポーツポジティブリーグ(SPL)」です。SPLとは、サッカーの力で気候アクションを広げるために、各クラブの取り組みを見える化する新しい仕組みです。

ここでは、SPLで実際にどのような取り組みが行われるのか、その特徴や仕組みをわかりやすく紹介します。

12項目で評価する仕組み

SPLでは、クラブの気候アクションを12の分野に分けて評価します。

主な評価項目には、次のような内容があります。

  • 再生可能エネルギーの活用
  • 廃棄物削減・リサイクルの推進
  • 移動時のCO2排出量管理
  • スタジアムの省エネ対策
  • 地域と連携した環境活動
  • 選手やスタッフへの環境教育
  • ファン参加型のサステナブル施策
  • プラントベースフードの提供

エネルギー・食・移動・教育・地域連携など、多角的な視点から取り組み状況が確認されます。単に一つの活動だけを見るのではなく、クラブ全体でどれだけ気候アクションができているかを評価する点が、スポーツポジティブリーグの特徴です。

順位表形式でランキングを発表

評価結果は、サッカーファンにもなじみ深い「順位表」の形式で発表されます。

2026年シーズンでは、各クラブの評価対象期間を2026年1月〜6月とし、その結果をもとに11月に初回ランキングが公表される予定です。また、2026年後期〜2027年シーズン以降は、評価対象期間を毎年7月〜翌年6月の1年間とし、同様に毎年11月にランキングを発表する予定とされています。

単発の企画ではなく、継続的にクラブの取り組みを見える化していく点も、制度の特長です。順位表を発表すること自体が目的ではなく、Jリーグ全体で気候アクションを前進させるための指標として大きな意味を持っています。

参考:「スポーツポジティブリーグ(SPL)」Jリーグ気候アクション

プラントベースフードから始まる気候アクション

 Jリーグ

スポーツポジティブリーグでは、再生可能エネルギーや廃棄物削減、地域連携など、さまざまな取り組みが評価対象となります。

そのなかでも、私たちにとって身近で参加しやすいテーマのひとつが「プラントベースフードです。何を食べるかという選択も、気候変動対策として大きな可能性を秘めています。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界全体の温室効果ガス排出量の約14.5%は、畜産業の生産から流通までの過程に由来するとされています。これは世界中の輸送手段が排出するCO2総量を上回るともされ、「食べること」が環境と深く関わっていることがわかります。

そこで注目されているのが、植物由来の食材のみで作られる「プラントベースフード」です。

年間のべ約1,350万人が訪れるJリーグのスタジアムで、プラントベースフードという新しい食の選択肢が広がっていけばどうでしょうか。観戦を楽しみながら、自然に環境へ配慮した食の選択を積み重ねていくことで、やがて大きな気候アクションにつながっていくかもしれません。

「食べて、応援して、未来につながる」そんな新しいサッカー観戦の形が、始まろうとしています。

参考:FAO(2013) Tackling Climate Change Through Livestock

スポーツには、人を熱狂させ、地域をつなぎ、社会を動かす力があります。多くの人が集まり、同じ時間を共有するスタジアムは、新しい価値観を広げる場所にもなり得ます。
気候変動という大きな課題に対して、個人でできることには限界があると感じる人もいるかもしれません。しかし、クラブの取り組みを知り、共感し、応援することも立派なアクションです。たとえば、スタジアムでプラントベースフードを選んでみることも、環境負荷を減らす一歩につながります。無理なく楽しみながら、これからの気候アクションに、できることから参加してみてはいかがでしょうか。

AYA

ライター

AYA

静岡県出身。海と山に囲まれた自然豊かな環境で育ち、結婚後に、タイ・バンコクへ移住。病気がきっかけで、ヴィーガンのライフスタイルに目覚める。現在は、2児の母として子育てに奮闘しながら、人と環境にやさしいサステナブルな暮らしを実践中。自身の経験をもとに、ヴィーガン、環境問題、SDGsについて情報を発信している。