ムゼオ・ディフーゾという言葉は比較的自由に解釈されています。一方、法律で定義が明確になっているのが、エコミュージアム(Ecomuseo)です。持続可能な美術館ともいわれるエコミュージアムとはどのようなものでしょうか。もうひとつの体験型美術館である野外美術館とともに紹介します。

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自然とアートを巡るイタリアの“ムゼオ・ディフーゾ”とは?広がる新たな文化体験【前編】
自然とアートを巡るイタリアの“ムゼオ・ディフーゾ”とは?広がる新たな文化体験【前編】

イタリアにおけるエコミュージアムとは

エコミュージアムは州ごとの差異こそあれ、法的な定義があります。

私が住むラツィオ州の法律によると、エコミュージアムは

地域の歴史、文化、景観、環境の特異性を生かした統合的なプロジェクトを通じて、コミュニティの文化的アイデンティティを保存・伝達・更新することを目指す博物館形態”※

と定義されています。地域の住民が先導し、アイデンティティを意識しながら運営するという点は、アルベルゴ・ディフーゾとよく似ています。

※引用元
Consiglio regionale del Lazio:Riconoscimento e valorizzazione degli ecomusei regionali

ムゼオ・ディフーゾ、エコミュージアム、野外美術館、その違いは?

エコミュージアム(Ecomuseo)とよく似た形態を持つ美術館として、ムゼオ・ディフーゾや野外美術(博物)館(Museo al cielo aperto )などがよく知られています。

ムゼオ・ディフーゾは地元との関連はありますが、展示されている作品は必ずしも地元出身のアーティストのものとは限りません。実際、ラツィオ州のムゼオ・ディフーゾ“森の分散型美術館(Museo Diffuso del Bosco)”の顔ともいえる“フローラ像”を制作したのは、ヴェネト州出身のマルコ・マルタラル。災害の被害を受けた木の彫刻で有名な芸術家です。

もうひとつ、野外美術館というカテゴリーがあります。一般的に、法律で定められている野外美術館は、対象が考古学関連の施設です。しかし実際には、大自然の中に彫刻などを設置して“野外美術館(Museo al cielo aperto)”と名乗っている場所があり、こちらも明確な定義はありません。

ヴァッレ・ダオスタ州のモンテ・ファッレーレ野外博物館(Museo all’aperto Mont Fallère )

トレッキングが盛んなヴァッレ・ダオスタ州には、山好きのあいだで有名な野外博物館があります。それが“モンテ・ファッレーレ”です。

標高1,775mから2,385mにいたる道沿いには、山小屋のオーナーによる400点もの彫刻が置かれています。当時小学5年生だった娘とともに歩いて、片道3時間ほどでした。

あまりに自然と溶け込んでいるため、見つけるのが難しい作品もあるほど。ラツィオ州の“森の分散型美術館(Museo Diffuso del Bosco)”もそうでしたが、野外美術(博物)館の特徴は、自然が主役であるということ。アート作品は、自然と調和して出しゃばり過ぎないのが特徴です。

モンテ・ファッレーレ野外博物館もこの傾向がより強く、木々の間に置かれた動物や妖精だけではなく、人物の彫刻も、まるで本物のように風景の中に溶け込んでいました

“坂道頑張って”

400点もある彫刻、実際には50点ほどしか見つけられなかった記憶があります。宝探しのような感覚で山歩きを楽しめました。

参考
TASCAPAN ECCELLENZE DELLA VALLE D’AOSTA:rifugio mont fallère 

世界で広がるサステナブルな美術館という新しい形

現在イタリアには、250を超えるエコミュージアムがあります。ムゼオ・ディフーゾのコンセプトを生んだフランスを始め、世界各地にこの概念を共有する美術館が生まれています。

その理由のひとつは、エコミュージアムが持続可能であるという点です。

日本にもエコミュージアムがある

日本にもエコミュージアムがあることをご存じでしょうか。意味するところはイタリアとよく似ており、地域の生活や自然、文化を保存し展示することで地域の発展に寄与することを目的”としています。※

日本国内の例としては、山形県朝日町や「阿蘇たにびと博物館」のエコミュージアムが知られています。

山形県朝日町の取り組みは、“まち全体が博物館、町民すべてが学芸員 ”をモットーに、産業のワインやブナの原生林、遺跡などを統括してエコミュージアムとしています。

阿蘇たにびと博物館によるエコミュージアムは、広大な阿蘇地域全体を博物館とする壮大な企画です。博物館であることを強く意識し、調査や研究に力を入れています。

引用元※
文部科学省:エコミュージアムについて

発祥の地フランスが誇るスケールの大きさ

フランスには、50以上の主要なエコミュージアムが存在します。

コンセプト発祥の地だけに、フランスのエコミュージアムはスケールが壮大。最も有名な“アルザス・エコムゼー(Écomusée  d’Alsace)”では、失われつつあった伝統的な古民家を70棟以上も敷地内に移築。巨大な村を再現し、農村での農作業、工房の職人芸など、体験型の美術館となっています。 

実際にそこに生きているような体験ができることで、高く評価されています。

サステナブルな美術館と呼ばれるわけは?

エコミュージアムやムゼオ・ディフーゾは、“サステナブルな美術館”と呼ばれます。

地域の自然・文化・歴史を保護し、住民と訪問者が地域への理解を深めるという姿勢は、国連の掲げるSDGsの理念と重なります。さらに、観光のために新たな建物を建造せず、地域にもともとあるものを活かすことで、環境負荷を抑えられることも大きな意義があるといえるでしょう。

徒歩で、あるいは自転車で、ゆっくりと巡るスローツーリズムとの相性も抜。自然の中でアートや地域文化に触れる体験は、心身のウェルビーイングにもつながります。 

目的地を目指すだけではなく“道中”を楽しめたムゼオ・ディフーゾ

同じ“美術館”であっても、ムゼオ・ディフーゾは体験後に湧いてくる感情がずいぶん異なります。一般的な美術館や博物館を訪れることは充足感を与えてくれますが、傑作のエネルギーに圧倒されたり、学びの難しさを感じたりすることも珍しくありません。

一方今回体験したムゼオ・ディフーゾは、アートが圧倒的な主役ではありません。主役はあくまで自然であり、2,000年前の人びとが作った石畳の道を歩きながら、視界に入ってくる現代アートを見るという不思議な体験でした。美術品は主張しすぎることがなく、目的地にたどり着くまでの道連れ。光や緑とのハーモニーを感じられるのは、“森の分散型美術館(Museo Diffuso del Bosco)”ならばこそです。

参照元
Universita` Ca’Foscari Venezia:Il censimento degli ecomusei italiani
文部科学省:エコミュージアムについて
Écomusée  d’Alsace
Regione Umbria:Cos’e` un ecomuseo?

地域そのものが展示空間となるムゼオ・ディフーゾやエコミュージアムは、名画を鑑賞することとは一味違う喜びを与えてくれる場所。自然に触れ、人びとと触れ合い、その地域に刻まれた記憶をたどることで、刺激的な文化体験ができます。季節ごとに変わる色や空気とともに楽しみましょう!

cucciola

ライター

cucciola

ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。

学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。

アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。