色鮮やかなサンゴ礁は、多くのダイバーやシュノーケラーを魅了する海の宝物です。しかし、何気ない行動が知らないうちにサンゴを傷つけていることもあります。フィンで触れてしまったり、浅瀬で立ってしまったりと、悪気のない行動がサンゴにダメージを与えるケースは少なくありません。海の環境を守りながら楽しむことは、これからのマリンレジャーに欠かせない考え方です。本記事では、サンゴを守る必要性や傷つけてしまう原因を説明するとともに、ダイビングやシュノーケリングで実践できるサステナブルな楽しみ方を紹介します。
なぜサンゴを守る必要があるのか?

「サンゴが大切なのは知っているけれど、具体的にどうして?」と思う人もいるかもしれません。サンゴを守ることは、単に美しい景色を維持するだけでなく、地球全体の環境を維持することに直結しています。
海の生態系を支える重要な存在
サンゴ礁は「海の熱帯雨林」と呼ばれるほど、豊かな生物多様性を支えています。海洋全体に占める、サンゴ礁の面積はわずか0.2%未満にすぎません。しかし驚くべきことに、全海洋生物の約25%(およそ4分の1)がサンゴ礁を住処や産卵の場として利用しているのです。
サンゴの隙間には小さな魚やエビ、カニなどの絶好の隠れ家になります。それを狙って大きな魚が集まり、さらにそれを狙う鳥や大型の海洋生物が集まるという見事な生態系のサイクルが、サンゴを中心に回っています。
もしサンゴが死滅してしまえば、そこに暮らす無数の生物たちも行き場を失い、海の生態系は崩壊してしまうのです。
私たちの暮らしにも関係している
サンゴ礁の恩恵を受けているのは、海の生き物だけではありません。陸に暮らす私たちの生活にも深く関係しています。
- 天然防波堤
サンゴ礁は外洋から押し寄せる高波や津波のエネルギーを吸収・分散させ、沿岸部の暮らしや地形が侵食されるのを防いでいます。 - 地球温暖化の抑制
サンゴ礁はCO2(二酸化炭素)を骨格に取り込んで固定したり、CO2を吸収する海草やマングローブを育む穏やかな浅瀬を作ったりします。これらは「ブルーカーボン(海の炭素貯留)」と呼ばれ、温暖化を抑える重要な役割を果たしています。 - 観光、水産業への貢献
美しいサンゴ礁は観光資源として地域経済を支えるほか、多くの魚介類のすみかや産卵場所となることで漁業を支え、私たちの食卓にも豊かな海の幸を届けています。
サンゴを守ることは、巡り巡って私たちの命や豊かな暮らしを守ることにつながっているのです。
ダイビングやシュノーケリングでサンゴが傷つく主な原因

多くのダイバーやシュノーケラーは「海が好き」だからこそ海を訪れているはずです。しかし、悪気のない「うっかり」がサンゴを破壊している現実があります。
ここでは、どのような行動が原因となっているかを見ていきましょう。
フィンや足で踏んでしまう
最も多い原因の一つが、足やフィン(足ヒレ)で踏みつけてしまうことです。
サンゴは植物のように見えますが、実はクラゲやイソギンチャクの仲間である「動物」です。表面は非常に繊細な生きている組織(ポリプ)で覆われており、成長するまでに膨大な時間がかかります(種類によっては1年に数ミリ〜数センチ程度)。
浅瀬で疲れたからといって安易に足をついた場所がサンゴの上だった場合、その重さによってサンゴは簡単に折れ、潰れてしまいます。
また、大きなフィンを履いている感覚に慣れていない初心者が、後方や下方を確認せずにキックした際、フィンがサンゴに激突してへし折ってしまうケースも多発しています。
スキル不足による接触
特にダイビングにおいて、浮力コントロールのスキル不足(中性浮力がとれないこと)がサンゴへの接触を招きます。
体が上手にコントロールできないと、以下のような事態が起こります。
- 浮力が足りずに体が沈み、海底のサンゴの上に落下してしまう
- 慌てて手をついた場所がサンゴだった
- ゲージ(残圧計など)やオクトパス(予備の呼吸器)などの器材を体に固定せずブラブラさせたまま泳ぎ、それらがサンゴに引っかかってへし折ってしまう
悪気がなくとも、スキル不足のままサンゴの密集地帯に近づくことは、サンゴにとって大きな脅威となります。
サンゴに触れる、持ち帰る
「綺麗だから触ってみたい」「記念に写真を撮るために掴まりたい」という軽い気持ちでの接触もNGです。
人間の体温は冷たい海に生きるサンゴにとって高すぎることがあり、直接触ることでサンゴの表面の粘膜が剥がれ、病気の原因になることがあります。また、骨格が尖っているサンゴに触れると、人間側が怪我をするリスクもあります。
ビーチに打ち上げられた死んだサンゴの骨格であっても、地域の条例や国立公園のルールによって「持ち帰り禁止」とされている場所が数多くあります。これらは将来的に細かくなって美しい白砂のビーチを作る大切な要素だからです。生きていても死んでいても、海のものは「持ち帰らない」が鉄則です。
サンゴを傷つけない楽しみ方

では、大好きな海を存分に楽しみながら、サンゴを傷つけないためにはどうすれば良いのでしょうか。海の中での具体的な行動と、日常生活から意識できることの2つのアプローチを紹介します。
海の中で意識したいこと
サンゴに触れない、立たない
海に入る時は「何も触らない、何も残さない」が基本です。疲れたら仰向けに浮いて浮力を確保するか、安全な砂地・ボート・フロートに掴まって休みましょう。
中性浮力を身につける
ダイバーであれば、最優先で「中性浮力」のスキルを磨きましょう。息を吸うと体が浮き、吐くと沈むという感覚をつかみ、水中でピタッと静止できるようになることがサンゴを守る最大の防御になります。
また、器材がぶら下がらないよう、エントリー前に必ず全てのホース類をホルダーに固定する習慣をつけましょう。
フィンキックを意識する
サンゴの近くでは大きなあおり足(平泳ぎのようなキック)や、上下に大きく振るバタ足を避け、コンパクトなキックを心がけましょう。砂や泥を巻き上げるキックは、サンゴの上に砂を堆積させ、日光不足で窒息させる原因になります。
適切な距離から観察する
生物を観察したり写真を撮ったりする際は、サンゴから少なくとも1〜2mは距離を保ちましょう。カメラに夢中になると、自分の足元や周辺への意識が薄れがちです。「写真を撮る時はまず周りの安全(サンゴがないか)を確認してから」を徹底してください。
日常から意識したいこと
環境に配慮された日焼け止めを選ぶ
一般的な日焼け止めに含まれる「オキシベンゾン」や「オクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)などの化学物質は、サンゴの白化現象(サンゴがエネルギーを失って死んでしまう現象)を引き起こす原因として指摘されています。
ハワイやタイ、パラオなどの主要なビーチリゾートでは、これらの成分を含む日焼け止めの持ち込みや使用が法律で禁止されています。
海に入る際は「リーフセーフ(Reef Safe)」や「サンゴに優しい」と明記された、紫外線吸収剤不使用(ノンケミカル)の日焼け止めを選びましょう。また、ラッシュガードやレギンスを使用して、日焼け止めを塗る面積自体を減らす工夫も効果的です。
日焼け止め成分とサンゴの白化現象の関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ゴミを持ち帰る
プラスチックゴミがサンゴに絡まると、日光が遮られたりサンゴの組織が擦り切れ、病原菌に感染しやすくなったりします。
海を訪れた際はもちろん、普段の生活でもプラスチックのゴミを適切に処分し、ポイ捨てを絶対にしないことが大切です。
保全活動やビーチクリーンに参加する
地域のビーチクリーンアップ活動や、サンゴの植え付け・保全活動を行っているNGOなどのイベントの参加もおすすめです。海の現状をより深く知ることができ、海への愛着がさらに湧くはずです。
サステナブルな海遊びは未来の海を守る第一歩

私たちが海で遊ばせてもらうとき、そこは多くの生き物たちの「家」であることを忘れてはなりません。一人ひとりの意識が少し変わるだけで、守られるサンゴの命が無数にあります。
「自分一人が気をつけても変わらない」と思わず、まずは自分の足元、自分の使う日焼け止めから変えてみませんか?
自然をリスペクトし、環境への負荷を最小限に抑える「サステナブルな海遊び」の実践こそが、あの美しく色鮮やかな水中世界を未来への世代へとつなぐ、確かな一歩となります。
ライター
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マリンスポーツのジャンルを得意としたwebライター。海遊びの楽しみ方やコツを初心者にも伝わるよう日々執筆活動中。スキューバダイビング歴約20年、マリンスポーツ専門量販店にて約13年勤務。海とお酒と九州を愛する博多女です。