伊藤達哉さんのプロフィール
北海道出身。小さい頃より冬の間はほぼスキーの毎日。激強の北海道という土地で、学生時代は競技スキーに専念する。自身がスキーヤーということから、ロッテアライリゾートの魅力を最も発信できる、マーケティングチームを担当。
FWQオペレーションの開催地側の、プロジェクトマネージャー的存在である。
フリーライドの聖地、ロッテアライリゾート
ーアライリゾートへのFWQ誘致や、コース管理などの受け入れについてお聞かせください。
FWT/FWQの日本での運営をしている株式会社Pioneerworkの後藤さんと連携して、FWQをアライリゾートに導入したのは、当時の僕の元上司でした。
その元上司は、もともとニセコビレッジで、管理エリア外をアバランチコントロール(雪崩管理)し、滑走エリアとして開放させていた人です。5年前のことですが、今以上にフリーライドの大会開催に理解と受け入れ体制があったんですよ。
彼はのちにダイナミック・アバランチ・ジャパン(DAJ)の代表になりました。雪崩コンサルティングをする、ダイナミック・アバランチ・コンサルティングの日本法人です。
現在のアライリゾートには、そのDAJに所属するオペレーターが在籍しています。アバランチコントロールをして、安全管理をしているんです。
ーアライリゾートの価値観やブランディングを高めるためには、FWQの誘致は有効な手段だったのではないでしょうか?
そうですね。初年度からFWQの大会を開催させてもらっていますが、フリーライドというスキー・スノーボードの新しいスタイルが、日本のウィンタースポーツのマーケットに影響を与えていると感じています。
Pioneerworkの後藤さんの思いとともに、インバウンドのよい影響もありました。フリーライドは新しいスタイルなので、受け入れ側としても新たな可能性を感じているんです。
ウィンタースポーツ市場には、いろいろなジャンルがあります。アルペンや基礎系、パーク、ハーフパイプなど、さまざまです。ここ数年、フリーライドというマーケットが拡大しはじめたところに、後藤さんがFWTを日本へ持ち込み、目をかけてくれたことで現在があると思っています。
ー大会に関わる部署や、スタッフ構成を教えていただけますか?
基本的には全部の部署が絡みます。入り口としては、僕が所属しているマーケティングチームのところに「この日程でこういう大会をやりましょう」という話がきます。そして、ある程度の内容を集約したうえで、社内の各部署に伝えるんです。
また、マウンテンチームと呼ばれる部署もあります。スタッフ構成でいうと、パトロールやリフトを動かす索道、コース整備などをする圧雪オペレーターがいます。
索道はリフトの早朝乗車や、お客様のご案内。圧雪オペレーターは物品搬送や、「ゴールエリアを少し広げてください」などの依頼をして、整備をしてるんです。
ー大会はゲレンデを使うイベントなので、やはりマウンテンチームの存在は大きいですか?
そうですね、一番大きいですね。打ち合わせも最も密にやっている部署です。
加えて、アバランチコントロールをする、アバランチフォーキャスターもあります。そこは、いわゆるパトロールの親分のようなところです。
そのほかにもスタッフの宿泊の手配をする客室チーム、食事を用意するFB(フードアンドビバレッジ)と呼ばれる部署もあります。ドローンを飛ばす場合は、警備安全の部署なども絡んできます。
どっちかというと、社内の調整のほうが大変ですね。このイベントに限ったことではないですけど。
ーいつ頃から大会の準備をはじめるのでしょうか?
基本的には、春先くらいから大会の開催日程などを決めます。後藤さんと最低でも月1回以上、Webで会議をして、会社の決裁をとり、各署に共有していくというイメージですね。
コロナ禍での葛藤
ーコロナ禍の影響で、なかなか意思決定しづらい場面があったと思います。大会が開催となった背景には、なにかあったのでしょうか?
一昨年(2020)については、残念ながら、だいぶ早い段階で大会開催の中止を選択しました。
昨年(2021)に関していうと、幸いタイミング的にはよかったんです。まん延防止等重点措置も、緊急事態宣言も出ていなかったので、開催できました。屋外で行う競技なので、きちんと対策をすれば、そんなに弱気にならなくてもよいのではと。
そういう考えで、今回の2022年の冬も無事開催に至りました。とはいえ、屋内系のイベントは、コロナ対策に関する判断が、今も慎重に行われています。
アライリゾートの魅力とは?
ーFWTを開催するうえで、大きなメリットはどのようなところでしょうか?
メリットは、なんといってもブランディング的な意味合いが一番大きいと思っています。
フリーライドという部門のなかで、聖地じゃないですけど、大会が行われているスキーリゾートになれる。僕自身も「アライリゾートでやらずに、どこでやるんだ」というふうに自信をもっています。
ーFWTを開催するまでに、大変なこともあったのでは?
そうですね。昨年6月くらいの時点では、「今期はやらない」となっていたんです。
でも、プロジェクトマネージャー的な立ち位置としては、やはり開催したい。できるようにするにはどうしたらいいか、いろいろ考えました。
後藤さんと相談しながら、2か月かけて夏の間につくり込んだんですよ。とにかくいろいろなメリットを盛り込んで。たとえば、選手向けの宿泊プラン、リフト券の優待、ガイディングプログラム、セーフティーワークショップなどです。
難しいのは、なかなか費用対効果を出しづらいところです。というのも、大会参加者の方々は、普段からアライリゾートにきてくださるお客様なんですね。春にアルペンスキーの強化の大会もやりますが、アルペンの選手って普段なかなかこない方たちなので、すごく効果測定しやすいんです。
ーFWQの場合、いつもきている方たちが参加者なのですね。
そうなんですよ。つまり、FWQの大会をやることで、「こういう新しい売り上げが生まれました」というのを説明するのが難しいんです。
そこで、宿泊プランなどの商品づくりを今年初めてやってみました。そして、「黒字化を目指せるイベントにできる」というプレゼンを社内へ行ったんです。
結果、社内からの理解を得て、開催できました。そのときは後藤さんにも現地まできていただいたんですよ。
ー黒字化を目指すためには、さまざまなニーズを満たす必要があるのではないでしょうか?
そうですね。まず、2つのニーズがあります。ひとつは、アクティビティがメインのインバウンドやファミリー層。そして、バックカントリースキーやスノーボードを行うハードコア層。それぞれのニーズに応えるためには、一筋縄ではいかないところがありました。
ー大会が終わった今、結果の手ごたえはいかがでしょう?
参加人数としては、おそらくロッテアライリゾートの大会の出場者が一番多いと思います。ジュニアまで入れると、今年110名になりましたし。
また、しっかり数字を追い求めていくと、赤字なイベントではない形になったんですよ。リフトの優待や宿泊などの収支を拾い上げていくと、そんなに悪い形じゃない。こういうリゾートが展開するイベントで、黒字化できるものって、なかなかレアだと思っています。
ー大会の内容がレベルアップしてきている感じでしょうか?
それは感じます。最初は、やることだけに意義を感じて、開催していたところもありました。今は数字的な満足度も含めて、大会の内容がレベルアップしてきている。あれだけの斜面であれだけの装飾をして運営ができるのって、ほかにはないと思いますし。
パトロールスタッフも協力的で、「常駐2名でよいですよ」というところに、常に4~5人いてくれます。選手の応援をすごくしてくれたりとか。チームワークの厚みがあるんですよ。
ーアライリゾートの魅力は、どのようなところにあるのでしょうか?
リフトでアクセスできて、3*(スリースター※大会レベルのこと)を開催できるところですね。たぶん世界的に見ても、まれなのではないでしょうか。
「2*(ツースター)が3*(スリースター)になった」といっても、一般的には伝わらないところかもしれません。でも、僕らにとっては「評価されている」という意味になるので、そこは誇りに思っています。
「国内のゲレンデで、スリースターを開催している」ということは、価値のわかる方には本当に理解してもらえる。選手が一番応えてくれています。
とくにスキーの男子など、かなりレベルが上がってきているんですね。選手のレベルアップを見ているとうれしくて、昨日は僕も運営そっちのけで、はしゃぎっぱなしでした。本当に、続けてきてよかったなと思います。
去年の夏、こんな無理をしないで開催中止の決定をしていれば、今この時期は全然楽なんですけど。ちょっとプライドが許さなかったんです(笑)。
1年先を見据えた今の活動と、その先の希望
ー伊藤さんのメイン業務の『マーケティング』は、広範囲にわたってお仕事がありますよね。詳しく教えてください。
1年間でいうと、基本的には1月にスキー場がオープンしたあとに、来期のスキー場の営業計画を決めます。
営業計画だけでなく、最低限の料金や営業期間なども、春の時点で決まっていないと海外に売り込みに行けません。1年後のことを、1月にはもう決めているんです。
2月と3月は、イベント運営や映像撮影などのアテンドがメインになります。この時期、雪上に出ている機会は多いですね。今年も40日弱くらいあったので。
4月になると、夏の商品をつくったり、プロモーションを仕掛けたり。5月6月くらいになってくると、来期の早割券の造成が入ってきます。秋口は全国の会場に行って、パンフレットをお配りしたり、SNSのフォロワーの促進をしたりなどですね。
僕が担っている部分をわかりやすくいうと、リフト券の現地窓口以外での、販売とWebのプロモーションを全部やらせてもらっています。
ー個人的に描いている今後の展望はありますか?
FWQとFJTに限っていうと、最終的には「ロッテアライリゾートでワールドツアーを開催してみたい」というのがあります。
自分のハンドリングでそのイベントが成功すれば、それ以上のことはないですね。現状もっているゲレンデだけだと、開催できる基準を満たしているというのは、なかなか難しいのかもしれませんが。
ーほかのスキー場と比べて、アライリゾートの現状はいかがでしょうか?
現在、アライリゾートの来場者数は、近隣のスキー場さんと比較しても全然少ないんです。雪が降らないとお客さんがこないですし。今日だって100人いるかいないか。
でも、雪が降ると、平日でもパウダー目当てに1,000人くらいがきて、ゴンドラが2~3時間待ちとかになっちゃうんです。
アライリゾートのリフト券は正規価格で6,000円。高いといわれることもありますが、正直、僕自身6,000円以上の価値のあるものを提供していると思っています。単価を上げても、おそらくそんなに来場者数って変わらないんじゃないかな。
ーコロナ禍でインバウンドのお客さんは減りましたよね。
はい。もともとうちのゲレンデは、7~8割が海外からのユーザーなんです。それがコロナ禍になって、昨年からぱたっとゼロになってしまいました。そこで、国内の方に足を運んでもらいやすいよう、早割券やディスカウントなどもはじめました。その効果は出てきています。
新潟県内でも、昨年度対比のパーセンテージで見ても、うちのスキー場は決して悪くはないんです。外国人ユーザーという主たるお客さんの大半は、いなくなっているにも関わらずです。
自分たちがやっていることを、現場のスタッフにももっと誇りに思ってもらえたらうれしいですね。
リフト券の売り上げだけで見ると、おそらく妙高エリアは国内でもトップレベルの売上と単価が取れている。でも、古きよき日本のザ・スキー場みたいな感覚があります。
海外のリゾートみたいに、もっと適正単価で満足度の高い運営ができればと思っています。このままだと安売り合戦になって、スキー場が疲れちゃうのではないかと。
ーウィンター業界のさらなる盛り上がりを期待したいところですね。
そうですね。後藤さんも、全国30か所のスキー場で使えるリフト券の定額サービス『アースホッパー』を立ち上げました。今までとは違ったスキー場の選び方ができるようになるとよいですよね。オリンピックでの平野歩夢くんとかの活躍もありますし。
実は、日本は世界で2番目にスキー場の数が多いんです。うちみたいなリゾートから町営レベルのスキー場まで、すごいいっぱいあるので。
このJAPOW(Japanとpowder snowを組み合わせた造語)といわれている観光資源は、世界にはないものです。より多くの世界中の人たちに選んでいただけるよう、さまざまなプロモーションを続けていきたいと思います。
ライター
Yoco
山岳部出身の父のもとに生まれ、自然を相手に楽しむ事が日常的な幼少期を過ごす。学生時代は雪なし県ザウス育ちの環境で競技スキーに没頭し、気がつけばアウトドアスポーツ業界での勤務歴は20年程に。ギアやカルチャーに対する興味は尽きることなくスキー&スノーボード、バックカントリー、登山、SUP、キャンプなど野外での活動がライフワークとなりマルチに活躍中。最近ではスケートボードや映像制作にも奮闘中。