ビッグマウンテンスキーヤー、山木匡浩さんのインタビュー最終回。前回までのインタビューでは、山木さんが基礎スキーからバックカントリーシーンに転向されたきっかけや、国内外の山々への挑戦についてお話をうかがいました。今回は雪上以外での活動として、スキーを文化として発信する取り組みに注目。今後の方向性もお聞きしています。
山木匡浩さんのプロフィール
1975年生まれ。出身は北海道帯広市。学生時代は基礎スキーに取り組み、滑りのベースを構築。その後、2000年のマッキンリー(現・デナリ)挑戦を機に、山岳スキーの世界へ。これまで世界各国の山々に挑み続け、アラスカ・グリーンランド・パキスタン・スロベニアなどに遠征。活動の幅はスキーシーンにとどまらず、スキーをきっかけとしたムーブメントを起こすべく、ブランド「新しいスキー様式」を立ち上げ、文化的発信にも力を入れている。

バックカントリーシーンの盛り上がり

山木匡浩 バックカントリー

ーコロナ禍になって、屋外スポーツやスキーが再び注目されはじめました。同時に、バックカントリーシーンも盛り上がっていますね。

正直なところ、うれしい反面って感じですね。国内のフィールドは、それほど広くありません。スキーをする人が増えれば、必然的にスキー場が混みあいます。やる人が増えると、事故も増えますからね。

ー不十分な装備で、安易にバックカントリーシーンに挑戦する人が増えているようですが。

そこは個人の判断ですよね。行きたいと思ったら、誰がなんといっても行きたいんですから。ただ、準備をしていないと痛い目にあったり、不都合が生じたりする可能性は高まります。

そういったスキーヤーのためにも、ノートラックやパウダーを楽しめるフィールドがもう少しあるといいですよね。スキー場の非圧雪コースも、増えるといいのかなと思います。

ーバックカントリーで滑る人が増えて、ギアも進化しているのでは?

ギアの進化は、ここ数年のことですね。これまでは各メーカーとも、「技術はあったけど作らなかった」というほうが正しいのかもしれません。最近のギアは、一般の人も使いやすくなってると思います。

ー具体的に、ギアはどのように進化しているのでしょうか?

たとえば、テックビンディングのような技術はもともとあったんです。世の中に広く受け入れられなくても、少しずつ進化していました。それがここに来て、「急に日の目を見た」って感じで注目されてますね。

選択肢も増えましたよ。例を挙げると、「スキーブーツのつま先をテックピンで挟み、かかと部分はコバで挟む」とか、「コバで挟んでかかとが上がる」とか。バリエーションが増えたんです。それぞれのスキーヤーが、趣向に合わせてギアを選びやすくなったのは、いいことですよね。

ーこれまでゲレンデで滑っていたスキーヤーも、バックカントリーシーンに参入しやすくなりますね。

そうですね。「歩き重視で楽しみたい人」もいれば、「滑り重視でアイテムを揃えたい人」もいますよね。今はスキーヤーのニーズやレベルごとにギアの選択肢が増えて、より細分化されてます。それがバックカントリーシーンに入りやすくなっている要因かと思います。

 

「新しいスキー様式」でムーブメントを起こす

山木匡浩 バックカントリー

ー数年前、山木さんは「新しいスキー様式」というブランドを立ち上げられました。ブランド設立のきっかけについて教えてください。

グッズがあって、ロゴがついているので、ブランドっぽく見えますよね。じつは、ムーブメントを起こしたかったんです。「スキーが社会現象みたいになればいいな」という思いで立ち上げました。「スキーをスポーツではなく、文化的に捉えて発信したい」って思ったんです。

ーブランド立ち上げの構想は、いつ頃から練られていたのでしょう?

コロナ禍になってからですね。世の中がトーンダウンして、「スポーツの意義は?」「プロのスポーツ選手とは?」と問われているように感じました。そんな状況のなかで、我々スキーヤーはなにができるのか、考えたんです。

表現方法は、もしかしたら自分本位なのかもしれません。でも、「文化として培われてきたスキーを、どこまで未来につなげていけるか」を突き詰めたときに、今回のような形になりました。

ーいろいろな商品を展開されていますよね。すべて山木さんが発案されたのでしょうか?

はい、そうです。キャップやネックチューブ、Tシャツ、パーカーなども作ってます。でも、無理のない範囲で、できることからやってる感じです。

これでも結構、思いは壮大なんですが(笑)。「我々が新しくスキーの様式を提案し、構築し、みんなで実践していこう」みたいな感じです。まずは、できることからですね。

ー確かに、スキーメーカーにはない発想を感じます。

ありがとうございます。一応、「新しい発想・新しいデザイン」のところを狙ってます。

たとえば、キャップに「新しいスキー様式」というロゴを入れる。漢字やカタカナが書かれたキャップって、普通はないので、恥ずかしいかもしれない。でも、そこが大事なんですよね。うちのブランドの商品を見て、「え?なにあれ?」って思ってもらえるか。そこがポイントなんです。

街で「新しいスキー様式」のキャップをかぶってると、全然スキーを知らない人に声をかけられたりするんですよ!「なんですか、それ?」って。

ー思わず声をかけたくなる気持ち、わかります(笑)。

それこそが、自分が求めてたブランドの提唱の仕方なんです。スキーをしない人が、「スキー」って書いてあるものに対して目を留めてくれる。しかも、それについて質問や意見までしてくれる。これがもうまさに、新しいスキー様式ですよね。

ー日常の会話で、「スキー」というワードが飛び交うのはうれしいことですね。

ええ、うれしいですね。「新しいスキー様式」のグッズを身につけてると、先日も飛行機を降りる間際に、CAさんから「それどういう意味ですか?」と聞かれました。西日本でレンタカーを借りるときに、「それなんですか?スキー様式ってなんですか?」って聞かれたり。

商品がコミュニケーションのツールとしても、一役買ってくれるんですよ。そこからいろいろな会話に発展するのが、おもしろいんです。

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この記事を書いた人

MORITAX

スキー専門誌にライター・編集者として在籍し、現場取材から選手スキー技術解説記事、ニューアイテム紹介まで幅広く担当。現在はライター・編集者として、スキーのみならずアウトドア関連の情報発信にも携わる。趣味はスキーヤーとキャンプで、スキー歴は30年以上。最近はカヌーでいろいろな湖に行くのが楽しみの一つ。