人気アウトドアアクティビティであるキャンプやハイキングなど、都会を離れた自然体験には様々な楽しみ方があります。自然豊かな北欧の森の過ごし方から知る「シンプルな自然の楽しみ方」や自然保護について、北欧に魅せられた筆者の体験を交えてご紹介します。
自然そのものを体感するということ
昨今、アウトドアを楽しむ人は増加しており、次々発売されるアウトドアグッズや最新施設の増加など、初心者でもキャンプやハイキング、グランピングなどを気軽に楽しめるようになりました。その魅力にはまった方にもぜひおすすめしたいのが、「自然そのものを感じる」楽しみ方です。
便利で快適なアウトドアアクティビティももちろん魅力的ですが、自然をシンプルに楽しむことで、自然そのものを強く感じられます。
❝森と湖の国❞といわれる北欧の国、フィンランドでの体験は「自然の中で何かをする」のではなく、「自然そのものを感じる」というものでした。
初体験した北欧の国「フィンランド」の森の清浄さ
私が初めて行ったフィンランドの森は、首都ヘルシンキから1時間半ほどで行ける国立公園「ヌークシオ国立公園」。バスを降りて初めて森へ足を踏み入れたとき、思わず驚嘆の声を上げるほどその空気は澄んでいて、まさに「清浄」だったことを覚えています。
次に感じるのは「静寂」です。人工的な音が一切なく自然の音しか聞こえない環境を、今の私たちの生活ではなかなか体験することはできません。この「清浄」と「静寂」はまるで五感が開くかのような、感覚がするどくなったのかと錯覚するような体験を与えてくれたのです。
フィンランドの森での過ごし方
「森へ行く」というと、まず思いつくのはハイキングやキャンプかもしれません。ですが、フィンランドの人々はもっとシンプルに自然、森と付き合っているといえるでしょう。
フィンランドに住む友人は、「今日は森でランチをしよう」「森で読書しようかな」といった、日常に近い感覚で話します。もちろんハイキングをしたり、ベリー摘みやキノコ狩りといった目的をもって森へ行くこともありますが、もっと気軽な気分転換として森へ行く人が多いのです。
フィンランドの人々は、大勢で集まってイベント的な形や観光目的で森へ行くことは少なく、各個人の日常の中に森や自然が共存しているのだと感じました。
フィンランドの自然との向き合い方
フィンランドや北欧の国には「自然享受権」という法律があり、全ての人が自然の恵みを享受する権利があるという考え方があります。私もフィンランドの人から「フィンランドに住む人、来る人、全ての人に自然を楽しむ権利があるんだよ」と教わりました。
つまりこの自然享受権は、フィンランド人だけではなく観光客にも許されているのです。もちろんこれらは、自然を荒したりしないという責任を持つことが前提となっています。
フィンランドは国土の7割が森林ということで知られ、湖の数は20万個とも言われており、自然豊かな環境先進国というイメージがあります。しかし実は日本も国土の7割弱が森林であるということを、意外と私たち日本人は知りません。
国土面積もフィンランドのほうが少し小さいだけなので非常に環境は似ているのですが、まだまだ日本では自然そのものの楽しみ方や活かし方については、できることがありそうです。
参考:フィンランドの自然享受権
フィンランドが取り組む自然保護とは
SDGs達成度、4年連続1位のフィンランドは、サーキュラー・エコノミー(循環経済)を国を挙げて進めており、2035年にカーボンニュートラルを達成するという、他国よりもかなり積極的な目標も掲げています。
森林に関しても徹底的に管理されており、伐採量なども細かく管理されていますが、一方で、「なるべく自然は自然のままで」ということも守られているのです。
たとえば森の中で木が折れたり倒れたりしていても、それを片づけたりすることはせず、そのままの状態にしていることが多いのです。
そうすることでまた植物や生物に循環されていき、森が豊かになると考えられています。もともとフィンランドは他国よりもかなり早い時期から、環境保護や温暖化対策などにも取り組んでいるのですが、フィンランド人に「SDGs」や「サステナビリティ」といったことを聞くと、興味深いことに「あまり馴染みはない」「それほど意識していない」といった答えが多いのです。
その理由は、フィンランドの人々に自然についての教育が根付いており、当たり前のこととして環境に関する高い意識を持っているからだといえます。
参考:Carbon Neutral Finland 2035
個人レベルまで浸透した自然保護意識
フィンランドでは、小さな頃から当たり前に森や自然と接し、小学生になると森での過ごし方などを教わる「森林教育」があるそうです。例えば森での過ごし方や火の起こし方などから、森を守るために必要なこと、なぜ自然を守らなくてはいけないのかということも含めて様々なことを教育として教わり、実際に森での実地体験もしていきます。
知人のフィンランド人男性は、自分専用の「マイ・サバイバルナイフ」を所持している人が多く、森で1人で何日も過ごせる知識と技術をもっているので驚きました。また、フィンランド人に「フィンランドの良いところは?」と聞くと「森があるところ」と複数の人が答えてくれたことも印象深いです。
そのくらいフィンランドの人々にとって森や自然は身近なものであり、日常の一部として存在しているのだろうと思います。
フィンランド人の「何もしない」ことを楽しむ姿勢
これまでお伝えしてきたように、フィンランドの人々は特別なことをするために森へ行くのではなく、「ただ森で過ごす」ということが一番の目的であると言えます。気分転換や悩みがあるとき、リラックスしたいというときにも森へ行きますし、ただ自然の中で過ごすことを楽しみます。
自然の音やにおいを感じながら焚き火をしてコーヒーを飲み静かな時間を過ごしたり、夏休みなどの長期休暇は、森のコテージで電気などもない中で1カ月ほど過ごす人が多いです。
「大げさなことは何もしない」という自然との関わり方こそが、フィンランドや北欧の自然体験の醍醐味なのでしょう。もちろん森での過ごし方には知識や経験がある程度必要です。なおフィンランドは地理的な理由から、樹木以外の植物があまり高く育ちません。
そのため比較的森の中での散策が容易ですが、日本は気候的な理由もあり草木が高くなるため森林へ入るには注意が必要です。ですから、まずはできることから北欧流の自然体験にトライしてみましょう。
大荷物は必要ない
最小限の荷物で自然の多い場所に出かけ、のんびりとした時間を過ごしてみるというだけでも自然を感じることができます。身軽で出かけ、ちょっとしたサンドイッチやおにぎりだけなど、簡単に食べられるランチを準備し、あとはマイボトルなどにコーヒーなどの飲み物があれば十分です。
特別である必要はない
目的は「自然を感じること」なので、例えば事前準備が大変な大勢でのバーベキューやたくさんの道具を持ってキャンプする、といった特別感は必要ありません。
今日は天気がいいから自然の多いところへ行ってみよう、という思いつきで自然に触れることが第一歩です。日本には現在国立公園が34カ所ありますが、森に限らずこうした公園でもいいですし、果物狩りなどの収穫体験もよいと思います。
大切なのは日常的に自然や季節を感じたり、自然の中で過ごす時間を持つということです。
ライター
Konkori(コンコリ)
旅行業界や外資系企業で働き、現在はフリーランスのライターとして活動。北欧などの自然の多い国に魅せられ、数多く渡航経験もあり。
北欧のサステナブルなライフスタイルやサステナブル・ツーリズム、ヴィーガンを含む食文化などが得意分野。