佐々木徳教さんのプロフィール
ジャッジという仕事
ージャッジになるのに必要な資格はあるのでしょうか?
はい、FWTジャッジの資格試験みたいなものがあります。課題となるFWTの動画を見て、選手の滑りに対して、どういうジャッジをするかをチェックされます。きちんと加点できてるか、ミスを見逃さなかったかを添削されるんです。
ー佐々木さんもジャッジの資格試験を受けられたのですね。
私も4年前、アライの大会でジャッジクリニックというのを受け、合格して大会のジャッジをはじめました。
そのときは確か、「君はまあちゃんと見れてるけど、こういうとこはちょっと足りないね。今回のヘッドジャッジにちゃんと聞いて、点数つけられるようにしてくださいね」みたいなところからスタートしてます。今は自分がヘッドジャッジをやっていますけど。(笑)
日本選手のレベル進化とこれから
ージャッジから見て、年数や回数を重ねるにつれて、選手のレベルが上がっていると感じるところはありますか?
そうですね。年々レベルは上がってると思います。
もともとパウダーを滑る目的の大会ではありませんが、イメージ的にフリーライド=パウダーを滑る大会みたいなイメージが強いですよね。
そのため、最初の頃は、パウダーを滑る愛好家の方たちがたくさん参加されていました。大きな技は決められないけど、「パウダーのなかなら勢いで飛んでみよう」という選手が多かったんです。
その後、ジャンプ系をやっていたフリースタイルの方々が参加するようになり、スロープスタイルやビッグエア、ハーフパイプなどのジャンプ系フリースタイルの一線を退いて、フリーライドの世界に入ってくるケースが増えてきたんです。結果、ジャンプのレベルが格段に上がりましたね。
ー選手のレベルが進化してきたんですね。
はい。4年前に最初にジャッジさせてもらったときは、ただジャンプしただけというのが多かったんですよ。たとえば、バックフリップ(後ろに1回転)か、スリーシックスティ(横に1回転)などです。
でも、最近はコークセブン(斜めに2回転)という、モーグルの選手がやる技など、いろいろな大技も出てきてます。ジャンプのレベルはめちゃくちゃ上がってますね。
基本的な滑走技術も、これからもっとレベルは上がってくると思います。
日本人でも、主催者推薦のワイルドカードを手に入れる人もいる。FWTというワールドツアーに出場した選手や、海外のビッグマウンテンで滑り込んでいるプロライダーたちもいる。加えて、その憧れの選手たちと同じ舞台で滑り、刺激をもらう大人たち。それをかっこいいと憧れる子供たち。
どんどんよい連鎖が起きて、全体のレベルはますます伸びていくと思います。
海外への挑戦
『FWQ FINALS』が、いよいよ今シーズンからスタート。FWQ FINALSでは、ワールドツアー(FWT)と予選シリーズ(FWQ)の両方のライダーが、翌年のFWTへの出場権をかけて直接戦うことが可能となります。
2022年の白馬大会とアライ大会の合計ポイントの上位選手が、来年2023年に世界で行われるFWQ FINALSに出場できることとなった(男子スキー・スノーボード各2名、女子スキー・スノーボード各1名)。※同率順位の場合、白馬大会が上位だった選手が優先。従来、FWQに参戦していた選手は、リージョン1(ヨーロッパ・日本・オセアニア)とリージョン2(南北アメリカ)の上位6名ずつ、合計12名が自動的にFWTに昇格するシステムだった。
今回より、2月末までの全世界のFWQ33大会が終了した時点で、各リージョンのFWQランキング上位選手が、3~4月に行われるFWQ FINALSに出場する権利を獲得する。
FWQ FINALSに出場できるのは、各リージョン1・2で2月末までに40~60位以内に入った選手。これにFWT第3戦まで終了した時点の下位20~25名が加わり、合計60~75名でFWQ FINALSが行われる。
それぞれのリージョンは、3つの大会で構成されている。そのうちよい成績の2大会のポイントで、FWQ FINALSの最終ランキングを算出。各リージョンからスキー男子4名、スキー女子2名、スノーボード男子2名、スノーボード女子1名が選ばれる。
こうして合計18名のライダーが、翌シーズンのFWTへの参加資格を得られる。
本来ならば、ポイントを貯めていないとチャンスが訪れなかったところ、日本のライダーにも最高峰のFWTに参戦するという世界への門が開かれることになりました。
海外選手とのレベルの差とは
ー海外の選手と日本の選手との大きな違いはありますか?
やはり比べてしまうと、普段滑っている斜面が違うので、差は出てきますね。
海外は日本と違って、ハードなコンディションが多いんです。バーンがカチカチだったり、岩だらけのタイトな急斜面を滑り込んでいたり。
ー日本は海外と比べて、環境的に不利なのでしょうか?
そうですね。日本で雪が多い地域としては、北海道や長野、この新潟などがあります。しかし、海外のような急斜面でギリギリのラインを狙う滑りとなると、日本人選手たちは環境的にあまり慣れていないと思うんですね。
なので、海外選手と比べるとレベルの差はあるのかなと思っています。ハードなコンディションの練習の場は、日本にはそんなにあるものではないので、仕方ないですね。海外に遠征に行ってるなどでない限り。
ー日本人選手の伸びしろは、どういうところにあると思いますか?
ジャンプ以外の滑り下りてくる技術については、日本人選手にはもっと伸びしろがあると感じています。ジャッジのメンバーは、海外でハードな環境でも滑ってきています。難しい斜面などの滑りに対して、見極めができるんですね。
フリーライドはどうしてもジャンプなどの派手な技が注目されがちだと思うんですよ。でも、フリーライド競技も他のスキー・スノーボード競技と同じく、基本的には滑りの技術が前提となる競技です。だからジャッジングで一番見ているのは、ライン取りや流れです。その流動性みたいなところを、もっと大事にできるようになれたらいいなと思っています。
浅川友里さんのプロフィール
一番選手に近い運営事務局スタッフ。もともとはフリーライドのファンというところから、どんどんFreeride World Tourの魅力に惹きこまれたのがきっかけ。留学で培った英語力を活かし、本国との通訳も務める。
幼少期、週末などによく家族でスキー・スノーボードに出かけていたが、現在も妙高をベースにウィンタースポーツを楽しむ。また、サーフィンや登山などもこなすアクティブ派。選手たちからも慕われ、大会運営側との架け橋のような存在である。
いちファンからFWT運営事務局スタッフへ
ーFWTとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?
もともとフリーライドのファンだったんです。Peak-Performanceというスウェーデンのブランドのスキーウエアが好きで、そこの商品にFWTとのコラボアイテムがあって。
このロゴはなんだろうと調べていったら、YouTubeでFWTの映像を見つけたんです。とてつもない斜面を滑っていて、「なんだこれ!なんだこの人たち!」というのが第一印象でした。
そんなタイミングで、日本でも大会を開催するという情報を知ったんです。好きだったPeak-Performanceの日本人ライダーの楠泰輔さんも白馬の大会に出場すると知って。
ちょうどそのとき、私は白馬で違う仕事をしていたので、実際に観戦しに行ってライダーの人に会いました。そういう機会もあってすごく好きになりました。
ー運営チームに参画されたきっかけは、なんだったのでしょうか?
観戦したのが1シーズン目で、そのときのご縁で少し事務みたいなことを手伝うようになったのですが、お仕事として一番最初にやったことは通訳でした。2019年の白馬大会のとき、スイス本国のスタッフがくるので、そのスタッフと白馬村観光局の間の通訳をしてくれないかと。
このときはFWQだけのお手伝いで行ったんですが、その後すぐFWTが開催されたので、観に行かせてもらいました。そこでFWTの選手や、新たにスタッフとも知り合えて、「楽しいな」くらいの感じだったんです。
その次の年は別の仕事をしていたので、白馬大会のみ現地にお手伝いに行くという形でした。ほかはオンラインで参加してたんですよ。
ーそこから徐々に中心スタッフになられたのですね。
そのうち、選手の問い合わせ対応などもするようになりました。問い合わせに応えるために、本国の方に確認しながら。そうやって少しずつシステムを理解していったら、いつの間にかいろいろなことをするようになっていました(笑)。
今では運営面もほぼすべてを担当しています。
選手に寄り添う、選手に近い運営スタッフ
ー大会の様子などを見ていると、選手とのコミュニケーションなど、すごく近い距離感だと思いました。そのあたりでなにか心がけていることはありますか?
選手の方々に対して、何よりも「すごいな、かっこいいな」という気持ちがあります。本当にみんなのことを応援したい気持ちなんです。「かっこよかったです」とか、選手に声をかけると覚えてくれますし。
大会後、事務局のほうにお礼にきてくれる選手も多くて、ファンとしてそれはすごく嬉しいですね。
ー選手とコミュニケーションをとるようにしているのですね。
はい、ちょっとした場面でお話ししたり、SNSでつながったり。運営の事務局側として近くにいるほうが、選手も相談しやすいんじゃないかと思っています。「受付で顔見ると安心する」と女子の選手からいわれたときは、めっちゃ嬉しかった。もうそれだけで頑張れる、みたいな感じです。
大会自体まだ小さくて、そんなにみんなが知っているようなジャンルではありません。でも、一緒に盛り上げていくために、少しでも選手の近くにいたいと思っています。
ー海外戦などの出場選手と一緒に、日本の運営チームとして帯同されることはありますか?
いいえ、海外戦は選手のみで行きます。一緒には行けませんが「いってらっしゃい!頑張ってきてください!」と送りだします。
今回、ジュニア(FJT)のほうでチャンピオンシップに出た子が3人いて、コロナ禍での申請など現地入りするまでにやることが多くて大変でした。現地の状況もあまりわからなかったので、本国のスタッフとやり取りして、フォローできるところはサポートしました。
1年かけての準備期間
ー日本事務局の活動は、何月くらいからスタートされるのですか?
そうですね、冬だけでなく、一年中ずっと動いているといえば動いています。
たとえば、シーズンの大会が全部終わってから、スポンサー企業に「こういう結果でした」と報告するのが4月くらい。本国からいろいろなデータなどをもらって、まとめるのが5月頃。その後、正式なデータとして出来上がるのが、6月あたりになります。
ー次回のための準備も必要ですよね。
はい。いろいろな活動と並行して、春先から次回の開催地のスキー場と、大会の予算が組めるように話し合いをします。こちらでどんな感じにしたいのかイメージを伝えて、スキー場側で社内検討してもらうんです。
そんな活動が年中あるので、冬が終わったら落ち着くということはないんですよ。どう次の大会をやるか、常に考えている感じですね。
これからの日本事務局の関わり
ー浅川さんのポジションから見た、今後こうなってほしいと思うところはありますか?
ちょうどさっきも選手と一緒に、「どうしたら盛り上がると思う?」と話していたところなんですよ。
今回のFWQが予選。そこでポイントを稼ぐことでFWTという世界大会へ行けるようになる。さらに、今年からできたFWQ FINALSでも、FWTへの出場権が得られるようになりました。このあたりが多くの人に知ってもらうためのアピールポイントでしょうか。
ーより扉が開かれた感じですね。
そうですね。オリンピックやワールドカップで日本代表になる事と同じように、「この大会の先で世界につながっている」ということを、うまく広く伝えていきたい。盛り上げていきたいと思っています。
外国の選手を見てて思うのが、バックグラウンドが本当にいろいろな選手が多いなと。レースをやっていた人もいれば、フリースタイルやバイクの人もいたりして、さまざまです。
FWQやFWTに出場した選手が、いろいろなジャンルの人たちを誘って、次の大会にはひとりふたりと友達を連れてきてくれたら、すごくいいですよね。たくさんのカテゴリーの人たちが集まって、交流も深まるだろうし、楽しくなりそうだなと思ってます。
そういうフレキシブルな考えの人たちや、「ちょっとフリーライドをやってみよう」と気軽に参加してくれる人が増えたらいいなあと思います。
ー今は休止中ですが、FWTアカデミーも再開できるといいですよね。
はい。今年はFWTアカデミーという形ではできませんでしたが、舞子の大会が終わったあとに、選手たちがジャッジの人と一緒に滑るというジャッジセッションをしました。短い時間ですが貴重な機会ですよね。
子供たちを対象にすると、学校を休まなくていいように土日に行う必要があります。でも、大会が土日だったので同じ日にやることはできず、なかなかスケジュール面でも難しかったですね。
週末のイベントにして教える人を確保することも課題です。参加したいと思ってくれる子供たちや親御さんはたくさんいると思うので、また開催できたらと思っています。
ー大会にエントリーするにあたって、技術レベルなど条件はありますか?
いいえ、普通に滑れれば大丈夫なんです。もちろん初心者は出場できず、参加条件は「スキーかスノーボードで滑走できること」となっています。「それってどんなレベル?」と、最初は私も思ってしまいましたが、1*(ワンスター※大会レベルのこと)なら、ゲレンデを上から滑れるくらいの技術があれば誰でもエントリーできます。
ー間口は意外と広いのですね。
はい。コアなスキー情報雑誌などで、FWTやFWQのことが記事になることもあります。一方で、あまりライトな層には、きちんと届いていない感覚があるんです。ランクの高い白馬大会のハードなイメージが先行しているのかもしれません。
ごく限られたエキスパートだけが挑むような、そんな大会のイメージを変えていければと思っています。
とくにFWQは1*〜4*までランクがあって、1*なら滑れれば誰でも挑戦できる大会だということをもっと伝えたいですね。なにより、フリーライドの世界を多くの人に楽しんでもらいたいと思っています。
ライター
Yoco
山岳部出身の父のもとに生まれ、自然を相手に楽しむ事が日常的な幼少期を過ごす。学生時代は雪なし県ザウス育ちの環境で競技スキーに没頭し、気がつけばアウトドアスポーツ業界での勤務歴は20年程に。ギアやカルチャーに対する興味は尽きることなくスキー&スノーボード、バックカントリー、登山、SUP、キャンプなど野外での活動がライフワークとなりマルチに活躍中。最近ではスケートボードや映像制作にも奮闘中。