地中海に囲まれているイタリア。バカンスシーズンになると人びとは町を去り、海へと向かいます。イタリア人の海への愛は深く、「夏に海に行けば冬は風邪をひかない」など、海に関するユニークな迷信も数多く存在します。イタリア在住者としての経験も含めて、イタリア人と海のかかわりについて紹介します。

イタリア人の海への信仰はどこから生まれた?

イタリア人の海への愛はDNAに組み込まれているのかと思うほど強烈。夏のバカンスに海へと向かう風潮はどのように生まれたのでしょうか。

かつては海辺のバカンスは富裕層のステイタス

イタリアの海辺の町には、古代ローマ時代の遺跡が多数残っています。普段は都市部で生活していた富裕層が、余暇を過ごす場所として海辺に別荘を持っていたためです。

古代から、地中海の人びとにとって海は心を癒す場所でした。中世の王様も、海の近くの離宮に本を山ほど持ち込んで夏を満喫したという記録が残っています。

戦後のイタリア人はフィアットに乗って海へ!

富裕層だけではなく、庶民も海でバカンスを過ごすようになったのは第2次世界大戦後のこと。それまでは電車で海に向かっていたイタリア人は、経済の発展に伴って自家用車を所有するようになり、夏は海に向かう風潮が生まれました。

1970年代のイタリア映画には、大衆車フィアットに山ほど食べ物や荷物を積み込んで海へ向かうシーンが数多くみられます。

現在も、9月に学校や職場に戻ったとき、こんがりと焼けた肌を見せ合いバカンスの思い出を語り合うのがイタリアの風物詩になっています。

8割のイタリア人が海でのバカンスを選択

イタリアの観光業界団体Federalberghiの2024年の報告によれば、年間約3600万人のイタリア人がバカンスに出かけることがわかっています。これは全人口の61%に該当します。

そのうちの8割以上がバカンスを海辺で過ごしたり海水浴をしたと答えており、イタリア人の海への愛が数字からもわかります。

引用元:Federalberghi「Imprese del Turismo」

ビーチパラソルは1週間単位でレンタル?

バカンス先に海を選ぶ場合、海辺の近くに家を借りて長期滞在するケースがほとんど。毎年同じ場所でバカンスする人も多く、ビーチパラソルやビーチベッドを1週間単位でレンタルする姿が目立ちます。

バカンスの目的はとにかく癒し!1日中海辺でゆったりと過ごします。乳幼児がいる家庭は離乳食も保冷ケースに入れて持参。夕刻まで海水浴や日光浴、昼寝をしたりゲームをして遊んだり。頭を空っぽにしてストレスを感じずに過ごすことが最優先されます。

海に関するイタリアのユニークな迷信

海への愛が高じて、イタリアには海に関するさまざまな迷信が生まれました。科学的根拠のないこれらの迷信、イタリア的に楽しいものがたくさんあります。

・夏に海に行けば行くほど冬に風邪をひかなくなる

・食後1時間は消化不良になるので海に入らない(だから昼寝をする)

・海の風は肺をきれいにする

・クラゲに刺された場合はトマトを塗布する

・足の骨折後のリハビリには砂浜を歩くのがベスト

などなど。

「子どもを海に連れて行かない親は親として失格」などといわれることさえあります。

イタリア人の海の選び方

イタリアは、日本と同じように海に囲まれた国。バカンス先としてどこの海岸に向かうのかは、多数の選択肢があります。イタリア人はどんなふうに休暇中に過ごす海や海岸を選んでいるのでしょうか。いくつかの例を紹介します。

滞在する海を決める基準

イタリア人が海を目指す場合、目的地を決める基準はいくつかあります。

まずは自宅からの距離。バカンスとして長期滞在する場合は、サルデーニャ島やシチリア島など、自分の住む場所から離れた地を好む人が多いようです。また一緒に行く人の年齢が幼児だったり高齢者の場合は、安全性が高い砂浜の海を選ぶ傾向があります。

価格も大事な要素。人気の海は周辺の宿泊施設も高額になるため、早期予約を狙う人も。また海辺にセカンドハウスを持っていたり、家族の慣習で毎年同じ海へ向かうケースもあります。

目指せ!バンディエラ・ブルー

美しい海に行きたい場合に参考になるのが、「バンディエラ・ブルー(Bandiera Blu)」です。国際環境教育基金(Foundation for Environmental Education)という組織による条件をクリアした海岸だけが得られる称号で、毎年5月ごろに発表されます。

バンディエラ・ブルーの称号を得るには、水質はもちろん、衛生状態が良好であったり環境意識の啓発運動がなされていたりなど、将来も考慮した条件が課されます

見知らぬ土地の海に行きたい場合、バンディエラ・ブルーを目安にすれば間違いありません。

イタリアでとくに人気の海

イタリアには、海外からのバカンス客も魅了する人気の海がいくつかあります。

たとえばイタリア北東部にあるリミニ。遠浅の砂浜が続く海は家族連れに人気で、バカンス先の定番になっています。海辺の施設が充実しているうえ、若者たちにはうれしいナイトライフも華やか。毎年、北欧や中欧からやってくる女性たちとイタリア人男性の恋のドラマが生まれます。

南イタリアのプーリア州、ガッリーポリも大人気。イオニア海に面しているせいか海水温が高く、食べ物がおいしいのも人気の理由。フォトジェニックな景色も魅力的です。

イタリア人の海のバカンス、実践例

イタリア在住者である筆者も、何度か海でのバカンスを実践。どんな経験をしたのか紹介したいと思います。

総勢14人で訪れたサルデーニャ島

家族や親せきとだけではなく、友人とその家族が集結してバカンスをともにするケースもあります。

娘が幼い時、夫の大学時代の友人4人とその家族とともにサルデーニャ島でバカンスをすることになりました。乳幼児も含めて総勢14人!大きなヴィラを借りたので、スペースは問題ありませんでしたが、食事の支度でてんてこまい。

ヴィラの家主さんがスーパーも経営していたので、必要な食材を配達してくれたのは幸いでした。赤ちゃんの離乳食、10歳以下の子どもたちのパスタ、大人たちの食事、とキッチンは大忙しでしたが、それもまた楽しい思い出です。

ローマの郊外チヴィタヴェッキアからカーフェリーが運航しているため、島内を自由に移動できるのもメリット。

サルデーニャ島は人気の海岸のほかにも、訪れる人が少ない砂浜が数多くあります。海に飽きたら内陸部へ向かえば、手つかずの自然が迎えてくれます。海岸沿いに遺跡が残る地域もありビジュアルは抜群。

1度サルデーニャの海の美しさに魅入られるとリピーターになる人が多いのも納得です。

魚が寄ってくるプーリアの海

南イタリアはバカンスシーズンの主役。物価が安く食べ物がおいしく、多くのイタリア人がプーリア州へ向かいます。

プーリア州は遠浅の砂浜が多く、家族連れに大人気。透明度の高い海に入ると、魚がやって来て足をつついてきます。水中の魚を観察するために、思わずゴーグルを衝動買いしました。

水色の海と白い砂浜は飽きることなく美しく、水平線の向こうに太陽が沈む時間まで楽しめます。

お気に入りの海岸が見つかり日参するようになると、同じ顔ぶれが揃うようになります。娘はトスカーナから祖父母とバカンスに来ていた男の子と仲良くなり、毎日一緒に遊んでいました。

プーリア州にはユネスコの世界遺産であるカステル・デル・モンテやアルベロベッロもあり、海に飽きた日は観光も楽しめます。

「バカンスは山派」の我が家も水着とタオルは車に常備!

実は我が家、バカンスは山に向かうことが圧倒的に多いのが実情。夫はイタリア人ですが、それほど海に執着はしないタイプです。

午前中は山でトレッキングを楽しみ、昼食をとって木陰で昼寝。夕方に海に向かうこともあります。夕暮れが近くなり、海水浴客が減ったころに悠々と泳ぎを楽しむのです。

バカンスは山へ向かうという人も、水着とタオルを車に積んで、気が向くままに海を楽しみます

バカンス前に登場する「おすすめの書籍」特集

海のバカンスの目的は海水浴だけではありません。1日のんびりと過ごすことにあります。暇つぶしの書籍やゲームは必需品。

毎年、バカンス前になると新聞や雑誌で特集されるのが「今年のバカンスにおすすめの書籍」。スマホの隆盛で本の出番は少なくなったといわれますが、やはり中~高年を中心にバカンスには本を持参するという人が多いようです。

いつもは「時間がないから」と積読になっていた本を、我が家もそれぞれ持参しました。

バカンスといえば海へ向かうことが多いイタリア人。海風のなかで過ごす時間は、ストレスを発散し人生をリセットするための有効な手段。イタリア全土に広がる美しい海岸では、海を愛し楽しむ陽気なイタリア人の幸せな姿を見ることができます。

 

cucciola

ライター

cucciola

ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。

学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。

アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。