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全国各地に広がる自然学校は、自然豊かな「農山村」に位置することが多く、過疎化や住民の高齢化により地域コミュニティの存続の危機に直面しています。それぞれの地域が持つ魅力をアピールしながら、再生に成功している自然学校の事例をご紹介します。

NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部(新潟県)

山里で生きる知恵を「生活技能」として引き継ごう

NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部(以下「かみえちご」)は、新潟県上越市の西部中山間地域(桑取、谷浜、中ノ俣、正善寺地区)、通称「桑取谷」を拠点に活動しています。

桑取谷は、大・小25の集落が集まって形成されています。日本は国土の約80%が中山間地域と言われますが、そのなかでもここは最奥の、まるで秘境のようなエリア。

桑取谷の中ノ俣という集落までは、上越の市街地から峠を4つ越えなくてはならず、「まさかこんなところに人が住めるとは…」と、初めて訪れる人々を圧倒します。

市街地から立地的に孤立しているからこそ、この地域で千年以上も前から培ってきた「自然と共生する知恵」が残されているとも言えるでしょう。

2001年に実施した調査によると、水車が作ることができる、炭焼きができる、魚を素手で捕まえられるなど、里山における生活技能が、桑取谷には100以上あることが分かりました。

ところが、それらの技術を保持するのは高齢者が多く、あと10〜15年で多くが消滅してしまう可能性が出てきました。

その調査結果をレッドデータブックとして、地域の伝統と文化を守ろうと2002年に立ち上がったのが、かみえちごです。

賛同する地域住民80名も発起人として参加し、地域活性化のために動き出しました。

若者と地域住民の付き合いが地域を変える

かみえちごには、全国から出身や専門の異なる若者8名が集まり、スタッフとして活動の主軸を担いました。

彼らはこの地域の文化と伝統に敬意を持ち、「教えてもらう」というスタンスで高齢者の元を訪れ、次第に地域に溶け込んでいきました。

集落によっては、70歳以上の住民が半分以上を占めるいわゆる「限界集落」と呼ばれるところも多く、途絶えてしまった伝統行事などもあったそうです。

若いスタッフたちの移住により、横畑集落では今まで若者の不在で開催が難しかった、小正月の「馬」という奇祭や、昔ながらの盆踊りが数十年ぶりに復活しました。

さらに、結婚式を挙げていなかったスタッフを花嫁として、昔ながらの風習である「里の結婚式」も再現されるなど、歴史のある里山の風景を取り戻しました。

かみえちごの企画するイベントは、子ども向けの「自然体験」や、年齢を問わない「わら細工」「郷土料理」などの里山体験、棚田の保全や稲作を体験できる「棚田学校」など通年型のプログラムもあります。

イベントやプログラムには、地域の高齢者が講師として招かれ、参加者へ“まかない(※)”の知恵や技術を伝えています。

(※)“まかない”=人、食、天然資源、文化、技術、景観、地域内経済、地域内産業など、生存に必要な要素を、地域にあるものを生かしながら自給してゆくこと。かみえちごは地域が自立していくためには、10種類の“まかない”が必要だとしています。(米野菜、海産物・塩、天然採取物、木材資源、エネルギー、水、民族伝統、教育、文化、産業)

桑取谷には、まるでタイムスリップしたかのような、茅葺きの古民家や棚田などの昔ながらの風景が広がっています。

NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部」のスタッフをはじめ、ここでの暮らしや生き方に惹かれた人たちが、全国から訪れるようになり地域活性化につながっています。

桑取谷を故郷のように感じる人たちを、地域の一員として緩やかに受け入れ、都市と地方で“まかない”を支え合いながら交換していく…そんな新しいコミュニティのカタチが生まれています。

 

NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター(長野県)

山村留学で人間の土台を育もう

NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター(以下「グリーンウッド」)は、長野県下伊那郡を拠点に地域活性・地域再生を支える活動しています。

グリーンウッドは山村留学から活動を開始し、地域住民の数を超える交流人口を生み出しています。

山村留学とは、自然豊かな農山漁村に小中学生などが一年間単位で移り住み、地元の学校に通いながら様々な体験を積む活動のことです。

1980年代、多くの学校で校内暴力やいじめ、子どもの自殺といった問題が深刻になりました。

学校に居場所がなかったり、テレビゲームの普及などにより外で遊ぶことが少なくなったりした子どもたちに、山村で暮らしながら真の「生きる力」を身につけてほしい。

そんな思いから、1986年に長野県の泰阜(やすおか)村で、グリーンウッドの前身である「通年合宿所だいだらぼっち」が立ち上がり、山村留学「だいだらぼっち」がスタートしました。

2017年度には、留学生として18名の小中学生が、親元を離れて共同生活をしながら、地元の学校に通っています。

山村留学では「自分のことは自分でやる」をモットーに、一年間のプログラムをすべて子どもたちが決めます。

毎日の食事づくりや掃除洗濯、薪での風呂焚き、その薪割りに至るまでの生活に関わる全てのことを、基本的に自分で、あるいは当番を決めて行います。

グリーンウッドでは、山村留学をはじめとする活動を通じて、人間の土台をつくる「ねっこ教育」を大切にしています。

スキルやテクニックを身につけることを優先する現代の教育の風潮に対して、グリーンウッドでは、「感じる心」「楽しむ心」「生み出す心」という、人間形成の土台となる“根っこ”を育んでおく必要があると考えています。

外部との交流が地元民の意識を変えた

グリーンウッドが活動を始めた当時は、国道や信号、コンビニなどもない泰阜村に「よそ者」として入っていったため、地域住民の理解を得ることは容易ではありませんでした。

地域活性を目指した活動趣旨を伝える説明会では、「村の純真な子どもの血が、都会の悪い子の血で染まる」とまで言われたそうです。

しかし、グリーンウッドのスタッフやその家族が泰阜村で暮らすことで、定住人口を創出するなど、少しづつ交流を深めていきました。

現在は地域活性などの事業を通して、外部から人を呼び込むことで生まれる交流人口は、村の人口(約1,700人)以上、総収入は約1億円となり、村内でも一目置かれる団体となりました。

「信州こども山賊キャンプ」は、グリーンウッドが開催するイベントのなかでも大規模で、夏と冬に全国から子どもとボランティアが泰阜村に集い、“行列のできるキャンプ”と言われるほどの人気ぶりです。

あえて少し不便な環境に身を置き、「食う寝る遊ぶ働く」を経験するシンプルなキャンプで、山村留学を希望する子どもの多くは、山賊キャンプへの参加がきっかけになっているそうです。

子ども1,100人とボランティア350人がひと夏に約1.6トン(2010年)の野菜を食べ、その約90%を泰阜村の農家から調達しています。

農家にとっては経済的な利益が得られるだけでなく、子どもたちの喜ぶ顔がモチベーションにもなり、「子どもたちが食べるものだから」と、低農薬の野菜づくりを始めた農家もいるそうです。

暖房、風呂、登り窯の燃料には、大量の薪が必要になるために、子どもたちと里山から木を切り出しています。

この活動が、地主が管理できず放置された山をきれいにすることにもなり、お互いにとってプラスに作用しています。

過疎の村に子どもたちの元気な声が響き、訪れた子どもたちからのリアクションや外部からの評価を経て地域活性化が進み、住民が自分たちの地域に誇りと自信を取り戻しています。

NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター」は「あんじゃね」(大丈夫だ、心配するな、安心せよという意味の方言)な社会の実現を目指し活動を展開しています。

地域活性・地域再生に大きく貢献する2つの自然学校の例をご紹介しました。どちらも一見「何もない」とされがちな過疎の農村で、その土地にある自然・暮らし・人などの資源を最大限活用して活動をはじめました。単なる自然体験でなく、山村の暮らしに入りこむことで、自然や人と深く関わることができる自然学校は、人と自然をつなぐだけでなく、地域住民と外部の人たちをつなぐパワーを持ち、地域活性化の担い手となっています。

ライター

Greenfield編集部

【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。