「この虫、家に持って帰ってもいい?」「焚き火したい」「おしっこ出ちゃう」子どもがこんな発言をしたとき、正しく判断してきちんと伝えたい、と思ったことはありませんか?そんなときに役立つのがリーブノートレースの考え方です。この記事では、誰もがいつまでもアウトドアを楽しめるように、自然へのインパクトを最小限に抑える考え方と実践について、子どもへの関わりという視点から紹介します。

リーブノートレースとは

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Leave No Trace(リーブノートレース)とは、アメリカで生まれたアウトドアのための行動基準で、「痕跡を残さない」という意味です。

1960年ごろのアメリカでは、アウトドア活動の人気が高まるにつれ、植生破壊やゴミによる汚染、野生動物への影響などが問題となりました。

リーブノートレースは、人々を自然から遠ざけて解決するのではなく、自然を大切にしながらアウトドアを楽しめるよう、科学に基づいた実践的な方法を示しているのが特徴です。

世界96か国で取り入れられているリーブノートレースですが、日本では2021年にLeave No Trace Japan(LNTJ)が設立され、今後の普及が期待されています。

※2025年6月、GreenfieldはLNTJの団体メンバーに加盟しました。公認メンバーとして、LNTJとよりよい野外活動について考え・発信していきます。

環境へのインパクトを抑える7原則

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リーブノートレースの考え方と実践方法を分かりやすく示しているのが、7原則(The 7 Principles)です。7つのテーマごとに、自然環境への影響を小さくするための具体的な方法が示されています。

もともとは奥山の原生的な自然に焦点を当てていましたが、公園やキャンプ場などでの活動にも幅広く応用可能です。ここでは、子どもとのアウトドアで役立つポイントを紹介します。

事前の計画と準備

安心して活動するために、目的地の天気や施設のほか虫捕り網などの使用や焚き火が禁止されてないか、利用できない道はないかなど規制事項について調べておくことをお勧めします。

楽しみにしていたことができないとわかったときの子どもの悲しみは、大人の何倍も大きいもの。現地での急な予定変更を子どもに納得させるよりも、できることとできないことを事前に伝えておくほうがストレスは小さいでしょう。

すべて計画通りに進むわけではありませんが、情報収集して準備しておけば臨機応変に対応できます。

影響の少ない場所での活動

整備されたトレイルや施設だけを利用することが基本です。トレイルを外れて、誰も通っていない所を通ろうとする子どもには、「植物や土が踏まれて元に戻せなくなってしまう」と伝えればトレイルに戻って来てくれるかもしれません。

休憩などでどうしてもトレイルの外を利用する場合には、岩・砂利・砂など影響を受けにくい地面を利用するとされています。一緒に活動するメンバーの人数が多いほど負荷が大きくなるので、できるだけ分散しましょう。

ゴミの適切な処理

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発生したゴミは、すべて持ち帰るのが鉄則です。炊事や休憩をしたあとに、ゴミが残っていないかよく確認しましょう。特に落としてしまった食べものは、野生動物をひきつけます。

人間の食べものをえさとして覚えてしまうと、将来的な獣害につながる恐れもあるので注意が必要です。また残飯などを燃やすと、燃え残りが野生動物のえさとなる可能性があるので、燃やさずに持ち帰りましょう。

料理で発生したプラスチックやアルミホイルを燃やすのも、もちろんNGです。発生するゴミを最小限にするためには、おやつなどの包装を取り除いてタッパーやジップロックなどにまとめることをお勧めします。

見たものはそのままに

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木の枝に生えた天然のシロキクラゲ

発見したもの、気に入ったものなどは、持ち帰らずに記憶にとどめるか写真に撮ります。きれいな花や木の枝を採っても、少しならば影響はないかもしれません。しかし、それが多くの人によって繰り返されると、復元できない大きなダメージになり得ます。

座るためにどかした枯れ木や石も、用が済んだら元の場所に戻すのが基本です。

焚き火の影響を最小限にする

焚き火をするときは、熱の影響を防ぎ焚き火の跡を残さないことが重要です。焚き火の熱が直接地面に伝わると、地中の虫や微生物に影響します。また、岩などに残った焚火の焦げ跡は長期間消えません。

さらに、落ちている枝も多くの生きものが利用しているので、薪として必要以上に使わないことが大切です。

野生動物の尊重

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野生動物とは、距離を取るように心がけます。近づきすぎたり大人数で観察したりすると、不必要に怖がらせた時には攻撃されることもあり危険です。少人数で離れた場所から静かに見守ることで、野生動物の自然のままの姿を見ることができます。

また、水場は野生動物が生きるために不可欠な環境です。動物が自由に水場を利用できるように、テントサイトや活動場所は水場から60m以上離すよう示されています。

ほかのビジターへの配慮

ほかのビジターのことを考えるのも、リーブノートレースの特徴です。レアな虫、きれいな花を、自分の物にしたいと思う気持ちはよく分かります。

でも、あとから来る人もきっと見たいはずと想像力を働かせることは、子どもが成長するきっかけとなるはず。自分が楽しみたいことは、ほかの誰かも楽しめるようにしなければなりません。

親子で活かせるリーブノートレースの実践例

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リーブノートレースの7原則は、子どもとのアウトドアですぐに活用できます。これからもずっと自然のなかで遊ぶために自然を壊さないようにしなければならないことは、子どもにも理解できるはず。

そのための具体的な手段を子どもに分かりやすく説明する際に、リーブノートレースの考え方が役立ちます。具体的な場面ごとに紹介します。

生きもの探しのテクニック

生きもの探しをする際には、「見たものはそのままに」することが基本です。大きめの石や枯れ木を動かして、その下に生きものがいるかどうか確かめたあとは、石や枯れ木を元に戻しましょう。

自分で見つけた虫などは持ち帰りたくなりますが、その場でじっくり観察して最後は元の場所に返します。石ころ一つ、小さな一匹も生態系の中で役割があるからです。

「ほかのビジターへの配慮」も大切。「あとから来る人が楽しめるように」と子どもが考えて行動できたときには、心の成長を喜び合いたいですね。

焚き火のテクニック

焚き火の熱が地面に伝わらないように、焚き火シートやビニールシートを使う点がポイントです。シートの上に砂利や砂、または落ち葉などが混じっていない土を10cmほど盛って、その上で火を焚けば地面への影響を抑えられます。

薪集めは子どもの仕事にぴったりです。落ちている指くらいの太さの枝を選んで拾うことを伝えましょう。薪は炭になるまで完全に燃やし、最後は炭を砕いて広範囲にばらまき、使った盛り土も元の場所に戻します。

トイレのテクニック

近くにトイレがなく、子どもが野外で用を足すことがありますが、尿は植生や土壌にほとんど影響を与えないとされています。しかし塩分が動物をひきつける可能性があるので、最後に水筒の水で洗い流すと安心です。

大便の場合には、まずトレイルや水源から60m以上離れた場所を選んで、深さ20cmの穴を掘ります。用を足した後は、黒土と混ぜて埋めると分解を早められます。使ったトイレットペーパーは分解に時間がかかるので持ち帰った方がよいでしょう。

生活と自然が切り離されてしまった今、日本で受け継がれてきた自然との向き合い方を私たちは忘れつつあるかもしれません。海外で生まれたリーブノートレースですが、自然からの恩恵を受け続けるために必要な行動が日本でも求められています。もっと知りくなった方は、ぜひ講習会やイベントを探してみてください。

参考:Leave No Trace|特定非営利活動法人リーブノートレイスジャパン

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。