セイルスポーツに革命をもたらしたウィンドサーフィン
セイルを用いて風の力を利用し、水面上を進んでいくセイルスポーツは、長い間ヨットというセイルで船(ボートorシップ)を走らせる形態でした。
ヨットの船を板(ボード)に変えたセイリングは、ヨットだけだったセイルスポーツに革命をもたらしました。
そのイノベーションの中身は数々ありますが、なかでも最たる点は、前に進むセイリングそのものではなく、パフォーマンスを楽しむようになったことです。
さらにしばらくするとそのパフォーマンスのフィールドは、水面を離れ空中に拡大するとともに、波もフィールドとして取り込んでいきました。
競技としてもそれに合わせてスピードと順位を競う競技だけでなく、パフォーマンスを採点する競技が誕生したのです。
そのひとつが『フリースタイル』であり、もうひとつが『ウェイブパフォーマンス』です。
一度は消え、別次元に進化し驚異の復活を遂げる
フリースタイルはその名の通り、自由なパフォーマンスでセイリングを楽しむ種目です。
さまざまな技があり、その総数は定かではありませんが、今では300を越えるとも言われています。
競技では個々の技やパフォーマンス全体の出来映えを採点して競われるサーフィンコンテストやフィギュアスケートと同じ採点競技となっています。
ウィンドサーフィンの自由さがフリースタイルを生みだすのは必然
フリースタイルが種目として登場したのは1977年。
1968年にアメリカ・カリフォルニアでウィンドサーフィンが誕生してから9年後、1974年に初の世界選手権が開催されてから3年後のことです。
この頃の創成期のウィンドサーフィンは全長が350cmを越える長いボードを使用し、ボードの上に立ってセイルをつかみ、弱めの風のなかフラットな海面を優雅に走る、カジュアルなヨットという感じのスポーツでした。
しかし、ボード上に立っていること、セイルが360度立体的に動くこと、安定さと不安定さのバランスが絶妙なこと、滑るように走ることなど、ヨットにはない自由度の高さが魅力のウィンドサーフィンは、変わった体勢でセイリングするなど、人々の遊びごころに火がつくには時間はかからなかったのです。
こうしてフリースタイルは自然発生的に誕生しました。
微風の中でのパフォーマンスがオールドスタイル
初期のフリースタイルは、通常のセイリングと同様に、弱めの風の中で通常とは異なるさまざまなポジションや体勢でセイリングすることがメインでした。
そして、それぞれに技には名前がつけられました。
基本的な技の呼び方
フリースタイルには多くの技がありますが、最も基本的な技の一部をご紹介します。
- セイルの向きが反対で進む……クリューファースト
- ボードの向きが反対で進む……スターンファースト
- 風をセイルの反対側で押すように捕らえて進む……リーウォードサイド
- 背面でセイルをつかみ操作して進む……バックトゥセイル
- ボードをヨコに垂直に立て、縁に乗って進む……レイルライド
- ボードの最後端を大きく沈める……テイルシンク
- ボードの最先端を大きく沈める……ノーズシンク
- セイリング中に両手を離して体を1回転させ、またつかむ……ピロエット
- 両足を大きく前後開脚しながらセイリングする……スプリット
- セイルを潜るようにして方向転換/風上周り……ダックタック
- セイルを潜るようにして方向転換/風下周り……ダックジャイブ
これらは、今ではオールドスタイルと呼ばれる主なフリースタイルの技です。
さらにこれらの複合技やタンデムで行うスタイルもあるため、オールドスタイルの時点でもフリースタイルは大きな広がりを見せていました。
そして、それが競技になっていくのも当然の帰結でした。
また、ウィンドサーフィン=ウインドサーファーという1艇種の時代であったため、フリースタイル=ウインドサーファー艇という図式となっていたのです。
このスポーツの急激な進化と変化によって、消えていくのも必然
1981年に沖縄でウインドサーファークラスの世界選手権が開催されました。
フリースタイルも行われ、日本人は石渡三起子・チャールス・ワイナンス組がタンデムクラスで見事優勝を遂げています。
そのあと数年間ほど、フリースタイルはウィンドサーフィンの中で、一定のプレステージを保っていました。
しかし、80年代に入るとウィンドサーフィンそのものが、強風下で楽しむことに一気にフォーカスされ、エクストリーム・スポーツとして発展・拡張が始まり、道具もそれに伴い革新的な変化が相次いだため、微風で楽しんでいたウインドサーファー艇は衰退していきました。
さらにウィンドサーフィンは1984年にヨット競技の1つとしてオリンピックの正式種目になりましたが、その使用艇種にも落選し、フリースタイルも種目になりませんでした。
こうしてフリースタイルは競技として表舞台から退場するだけでなく、楽しみ方としてもほぼ完全に消えてしまったのです。
ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
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