「自然学校」とは?
自然学校が扱うテーマは「自然体験活動」全般。
キャンプやハイキング、自然観察、農業・漁業体験、田舎暮らしなどの生活体験、アウトドアでのスポーツ、環境保全活動など、多岐にわたります。
それを行うための「場」「プログラム」「指導者」を提供できる施設や団体を「自然学校」と呼んでいます。
最近では、エコツアーのような旅行業や、不登校や引きこもりなどの悩みを持つ青少年への支援、アウトドアのスキルを持つネットワークならではの被災地支援、企業研修など、従来の自然体験の枠に収まらず幅広い分野で活動しています。
「自然学校」って学校なの?
自然学校はおもに自然を舞台にした学校ですが、義務教育で通う学校とは違うの?という疑問を持つ方も多くいらっしゃると思います。
制度の面で言えば、学校として認可されている自然学校はありませんし、自然学校が行う教育は先の林間学校のようにあくまで学校教育の補完、あるいは学校教育外の社会教育の一つとなります。
また、目的の面で見ると、学校での教育とはそもそものスタンスが少し違う所からスタートしています。
少し長くなりますが引用してみます。
“学校では知識を習う。学力といわれているものに類する知識を習う。しかし学校では知恵を教わる事は少ない。これに対して、毎日山や川で遊んでいると、いろいろなものにチャレンジし、決断を迫られる。そのつど瞬間的に自分で判断する。自然のなかで子ども同士で遊びまわることは、生きる力を磨くことになる。”
引用:岡島成行『自然学校をつくろう』山と渓谷社2001年
自然学校では自然のことを習うようでいて、実は自然体験を通じて人間性とも言える「生きる力」を学ぶ…。このスタンスはよく、
“自然がティーチャー(先生)、あなたがリーダー(指導者)”
引用:自然体験活動推進協議会/CONE
というキャッチフレーズで表現されたりします。
自然は単に知識の対象ではなく、それ自体が教育力を持ったもので、指導者ができることと言えば、安全にスムーズに参加者が自然と交流できるようにリード(指導)すること。
「自然の教育力」を信じてその活動を行っているかどうか。それが自然学校とそうでない活動を分けるポイントかもしれません。
「自然語」を操る人を育て、持続可能な社会を目指す。自然学校の使命とは
自然学校が生まれた背景には、現代の課題に対する危機感があります。
自然学校のルーツは、大正・昭和初期のYMCA・ボーイスカウトの青少年教育キャンプにまで遡ることができますが、戦後、国立青年の家などの公立の施設が設置され、民間の有志も自然学校を全国各地で立ち上げ始めました。
この初期の時代に自然学校を創設したパイオニア的存在である広瀬敏通氏(ホールアース自然学校)は「自然語」という概念を使って、自然学校の使命について語っています。
“…「自然語」とは「自然と対話する能力や感性」であり、古来から自然と対話しながら生きてきた人類の知恵でもある。40年ほど前までは生活の一部であった里山などの身近な自然が開発により消失し、また都市型、消費型の生活が浸透するなかで、こうした自然との対話能力が失われてしまったことが、いまの環境問題や子どもたちの心の問題などにも影響していると考え、「自然語」をとりもどし、また「自然語」が操れるようになって、人類の未来について見通していけるようになることが自然学校の使命であると述べている。”
引用:『日本型環境教育の知恵』自然学校による地域の実践より、小学館2008年
自然のちょっとした変化に気付くことが、いま環境がどのような状況に置かれているか、これからどう変わっていくのかを直感して理解する力になる。
このような感性は、自然の中で長く生きてきた人間にとっては生死を分ける大切な感覚だったはずですが、現代の便利で安全な暮らしの中では使う必要がなく、錆びついてしまっているかもしれません。
あたかも「自然語」習得の「語学学校」のように、自然学校は様々な自然をフィールドに自然の見方、自然を感じる感性、自然との付き合い方などを学び直せる場所とも言えます。
そんな「自然語」を習得した個人が増えていくことが、地道な取り組みではあっても、持続可能な社会につながっていくという使命感が、自然学校の根底にはあるのです。
都市と地方。それぞれの場所で「自然」と「人」と「地域」をつなぐ
自然をフィールドに人の教育とその先の「持続可能な未来」を見据えている自然学校ですが、都市と地方ではそれぞれ抱えている課題が違うため、アプローチに少し違いがあります。
農山漁村などの地方では、過疎化・人口流出などによるコミュニティの持続不可能性が顕著になってきています。
それに加えて、ライフスタイルの変化による地域の智恵・文化も失われつつあるのが現状です。
そこに自然学校が触媒として関わることで、例えば、昔ながらの智恵・文化が体験活動としてプログラム化されることで地域の人達に伝わるということが起こっています。
また、自然学校の事業により、外から人を呼び込み、地域の「新しい産業」や「担い手」を創り出すことに成功している例も全国に数多くあります。
行政や学校、企業などとも連携しながら、地方において自然学校は「社会的企業」の役割を果たしつつあります。
一方、都市においては、地方のような差し迫ったニーズに対応するというよりは、都市化により貴重なものとなってしまった「自然体験」や「野外活動」の提供が主となっています。
都市の子ども達はじめ自然にあまり触れたことがない人たちを対象に、都内の自然が残る場所でプログラムを実施したり、あるいは地方と東京の二拠点に事務所を置き、参加者を地方へ連れ出して自然体験の機会を作ったりしています。
都市であれ、地方であれ、自然について知ることは、必然的に「自然とどのように付き合ってきたか」という地域の文化を学ぶことにもなります。
「自然の中で遊びたい」「自然のことをもっと知りたい」、あるいは親からの「子どもに自然体験をさせたい」というニーズがよく聞かれます。
それは、人間は長く自然の中で自然と共に暮らしてきたのに、その生き方から今離れてしまっているが故に、その本来の在り方にもっとつながりたいという帰属欲求から発せられているような気がします。
それに応え、自然と人、地域と人、人と人とをつなぎ直すことも、自然学校の使命と言えるでしょう。
ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。