日本ではヴィーガンと聞くとダイエット効果が取り沙汰される菜食主義をイメージすると思います。しかしヴィーガンのライフスタイルは地球環境の保護と動物愛護の精神がコアになっているのです。今回は世界中で注目され増え続けているヴィーガニズムを考察します。

ベジタリアンとヴィーガン

菜食主義と言う大枠では、ベジタリアンという言葉の方が馴染みもあると思います。

もともと健康趣向から生まれた菜食主義は、古代から取り入れられていた食文化です。

ベジタリアン ヴィーガン菜食主義者の総称をベジタリアンと呼び、菜食の目的や思想、宗教上の理由など、さまざまなタイプに分類されます。

日本では主に健康趣向やダイエット目的に広がりをみせてきました。

ベジタリアンの中でも完全菜食主義(ヴィーガニズム)を貫いているのがヴィーガンと呼ばれる人たちです。

ヴィーガンは単なる健康趣向ではなく、倫理的観点から一切の動物製品を取り入れないライフスタイルを送ります。

動物を虐待することにより得る生活に異議を唱え、食のあり方から地球の環境問題までも見直そうとする原理がヴィーガンのライフスタイルなのです。

 

ヴィーガニズムという思想

ヴィーガンにもいくつかのタイプがあります。

主に食品に特化して動物製品を口にしないダイエタリー・ヴィーガニズム、

革製品や羽毛など、食物だけではなく、あらゆる動物製品を使用しないエシカル・ヴィーガニズム、

畜産業そのものを否定しているエンバイロメンタル・ヴィーガニズムに分類されます。

ベジタリアン ヴィーガン古くからベジタリアンを実践してきた人たちの中で、健康上の理由だけに留まらず、倫理的観点から、動物を利用して造られる製品すべてを避けるべきとする人たちが議論、主張を重ね1944年にイギリスでヴィーガン協会が発足します。

全ての動物の命を尊重して、その尊い命を犠牲にすることなく生きるライフスタイルをおくることを理念に世界中に賛同者が広がっていきました。

近年、カール・ルイスやスティーブ・ジョブズ、アリアナ・グランデなどの著名人がヴィーガンであることを発表し注目されたこともあり、ヴィーガニズムへの関心は高まりを見せ、ヴィーガン向けの食品やレストランも増えてきました。

また、ヴィーガニズムの思想の中には、地球環境の保護も含まれており、世界中で大量の温室効果ガスを放出する畜産業に対して否定的な見解を持っています。

動物を犠牲にして、なおかつ地球環境までも脅かしている現代の食肉文化を否定している思想がヴィーガンの原理と言えます。

環境問題とのかかわり

菜食主義と環境問題にどのようなかかわりがあるのかを疑問に思われる人もいるのではないでしょうか。

ヴィーガンが口にしない動物製品は、食肉だけではなく牛乳や卵も含まれます。

これら動物製品を生み出す畜産業が地球規模の環境汚染を引き起こしているとしています。

ベジタリアン ヴィーガン

国連食糧農業機関(FAO)の発表によると世界人口の増加と経済的な発展を背景に、食肉や乳製品の消費は急速に伸びているといいます。

そのため特に途上国を中心に酪農、畜産業も増加し、飼育頭数が莫大に増えることから、餌になる草木を伐採することになり、干ばつや砂漠化、森林破壊による酸性雨などの気候変動などの原因にもなっていると報告されています。

また、畜産業からの温室効果ガスの排出量は、世界で排出される温室効果ガスの18%を占め、これは、自動車や飛行機などの排気ガスすべてを合せた量よりも多いことになります。

特に酸性雨の原因とされるアンモニアは64%、メタンガスは37%、亜酸化窒素は65%が畜産から排出される量となり、地球温暖化の元凶の一つと位置づけられました。

 

参照:国際食糧農業機関

 

私たちの食卓に上る肉や牛乳、卵などは、動物たちの飼育から始まっています。

家畜として育てるためには広大な土地と餌、水を消費し、その成長過程で環境破壊を招いています。

今、世界の途上国を中心に、これ以上畜産業を増やさないように話し合われる世界サミットが開かれています。

しかし、途上国にとって畜産業は経済的に重要な資金源です。

先進国と途上国、開発と環境保護、相まみれない議論が毎年続けられているのです。

動物由来の食生活を見直すことで、環境保護に繋がるとするヴィーガンのライフスタイルには、このような地球規模の背景が存在します。

ベジタリアン ヴィーガン

日本でも地球温暖化の問題やエネルギー問題は取り上げられることも多く、世界規模の温室ガス規制にも、日本政府は率先してイニシアティブをとってきました。

しかし畜産が地球環境に影響を及ぼすことは、一般的に知らされているとは言えません。

昭和30年代から始まったパイロットファーム政策や、近年の輸入牛肉の規制など、国内の畜産業を守る政策を多く行ってきたことも、起因しているのではないかと思います。

日本には、精進料理という宗教的な菜食文化がありますが、これは中世に仏教が広まったことから始まったものです。

古代から狩猟、食肉文化のある日本では、諸外国と比べてヴィーガニズムが理解しにくい土壌があるのかもしれません。

 

ヴィーガンと動物愛護

ヴィーガンの中でもエシカル・ヴィーガニズムを実践している人たちは、特に動物愛護精神が強い傾向にあります。

エシカルの哲学的な思想を持つヴィーガンは、肉、魚、畜産製品などの食べ物の他、動物に由来する全ての製品を使用しません。

ベジタリアン ヴィーガン

革製品や衣服、成分に動物由来のものが含まれる化粧品や動物実験が行われた製品の購入も避けています。

あまり一般的には知られていませんが、製造時に鶏卵を用いるインフルエンザワクチンや動物実験を行った医療品の使用も拒んでいます。

ヴィーガニズムの根底に動物を犠牲にする生活はしないという思想があります。

日常の生活の中で、犬や猫といった動物に愛情を注いでいる人も多いでしょう。

ペットや家畜、種類や個体の大小に関わらず、全ての動物は人間に食べられるための命ではないとするヴィーガンの考え方は、動物愛護の極論とも揶揄されることすらあります。

文明社会に生まれ育った人々と、狩猟や放牧の民として育った人たちとでは考え方も文化も違います。

「動物愛護」=「ヴィーガニズム」を実践する人もいれば、そうではないと思う人もいるのが現実です。

しかしながら、行き過ぎた経済発展のために犠牲になっている動物たちが数多くいるのも事実であり、警鐘を鳴らす人々の活動により過剰な市場主義への歯止めとなることも忘れてはいけないと思います。

食物と人の健康

ベジタリアン ヴィーガン

そもそも人は生命を維持していくうえで、必要なエネルギーを食べることで得ています。

身体の筋肉や骨などの組織は栄養素によって構成されていて、人は生命維持のために、食べることによって栄養素を摂取し続ける必要があります。

必要不可欠な栄養素は、糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルで、これは五大栄養素と言われます。

生命維持のためだけを考えた食事は味気ないものです。

そこに会話であったり、マナーであったりといったメンタルヘルス的な要素も含まれて、さまざまな食文化が生まれていきました。

「食欲」や「摂食障害」などの言葉からも、食事がただの栄養補給だけではなく、精神的要素も重要だということがわかります。

食べることで幸福度を増すように、シチュエーションも含めた調理方法や素材、盛り付けなど、様々な料理手法はカルチャーとして根付いていきました。

ベジタリアンやヴィーガンの食事も、単に肉を食べないということではなく、思想やポリシー、自らが信じる哲学などにより、栄養摂取する素材を精査しています。

それもひとつのカルチャーとも言えるライフスタイルなのではないでしょうか。

 

ヴィーガン料理のポイント

ジャンクフード・ベジタリアンと言われる人々をご存知でしょうか。

若年層に多い傾向ですが、肉や魚を食べない代わりに、お菓子やパンなどのジャンクフードを大量に摂取する人たちです。

ベジタリアン ヴィーガン

ベジタリアンやヴィーガニズムに賛同して、動物性食品を食べないと決めたものの、何を食べていいのか解らず、無計画に目の前の植物性食品だけを食べてしまうようです。

当然、健康被害をもたらし、栄養失調や肥満の原因になったりもします。

ヴィーガン料理は、全て綿密に計画された素材選びと調理法を用いています。

糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素を、動物由来の食品、調味料を一切使わずに、効率よく摂取するために考案された料理です。

アバウトに野菜だけを食べて満腹感を得ようとするダイエット料理とは、全く違うものだという認識が必要です。

ヴィーガンの人々の中には、アスリート、妊婦及び授乳期の女性、児童、老人など様々な人々がいます。

またヴィーガンの人を対象にしたトライアスロン大会も開かれています。

一方では、菜食生活により健康被害に陥る人々がいることも事実です。

この違いは、必要不可欠な栄養素を計画的に摂取できているか否かの違いでしょう。

本来、ヴィーガン料理は、人が健康的に生活するためのものであり、病気の予防などにも一定のメリットがあるものとされています。

ヴィーガン料理を食べよう、作ってみようと思うなら、栄養素をはじめとした食の健康についての知識は必要不可欠です。

世界中でヴィーガンが増え、環境問題、動物愛護問題への関心が高まっているのがわかります。2021年東京オリンピックには、世界中からヴィーガンの人々も来日するでしょう。全ての人が同じライフスタイルをおくることは無理でも、環境問題など倫理的ポリシーは理解し合えるはず。食文化の違いだけではなく、背景にある真理を理解することで、ヴィーガニズムへの関心が高まり、地球環境への配慮も生まれるのではないでしょうか。

ライター

Greenfield編集部

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