都内で凍る滝が見られるのをご存じでしょうか?都心から1時間半ほどの場所にある檜原村の払沢の滝です。滝の全面結氷が有名ですが、近年では100%凍ることが減ってしまいました。今回は払沢の滝の事例から、地球温暖化の結氷への影響や原因、私たちにできることを考えてみましょう。
払沢の滝とその周辺の魅力
東京都の西多摩地域には、島以外では都内で唯一の村である檜原村があります。豊かな自然に恵まれた、人口2千人あまりの檜原村。かつては林業や炭焼きが盛んで、一大消費地であった江戸に材木や木炭を供給していました。
奥秋川が流れ山々に囲まれた村の大半が秩父多摩甲斐国立公園の区域となっており、滝の名所が13か所もあります。なかでも冬にお勧めしたいのが、日本の滝百選にも選ばれている払沢の滝(ほっさわのたき)です。
払沢の滝は冬季でもアクセスしやすく、小さい子どもと一緒でも安心して歩けるウッドチップの歩道が整備されています。滝までの道は、針葉樹と広葉樹が混じり、清らかな川が流れる変化に富んだ環境です。
川の流れや野鳥の声を楽しみながら緩いアップダウンを進むと、途中で人懐っこいヤマガラに出合えるかもしれません。
払沢の滝は4段からなりすべて合わせると高さ約60mですが、滝壺から見えるのは最下段のみで、26.4mの高さです。毎年12月から「払沢の滝冬まつり」が開催され、滝の結氷率が毎日公表されています。
最近で完全結氷となったのは、2018年1月下旬でした。完全に凍っていなくても、迫力ある自然の造形美は見ごたえがあります。結氷率が高くなるのは、例年1月下旬から2月中旬ごろですので、ぜひ足を運んでみてください。
払沢の滝へのアクセス
払沢の滝は、公共の交通機関でもアクセス可能です。自家用車の場合は、雪が積もっていなくても路面が凍結している恐れがあるため、スタッドレスタイヤが必要となります。
電車とバス
JR武蔵五日市線の終点、武蔵五日市駅から西東京バスを利用できます。武蔵五日市駅までは、中央線特快で新宿から1時間ほどです。
武蔵五日市駅の改札を出て、1番乗り場から下記のバスに乗車してください。
・藤倉(ふじくら)行き
・払沢の滝入口行き
・やすらぎの里 経由 数馬(かずま)行き
・払沢の滝入口 経由 数馬(かずま)行き
25分ほどで「払沢の滝入口」バス停に到着し、とうふ屋さんの脇の道を進むと滝への歩道の入口があります。
なお、数馬(かずま)行きのバスは払沢の滝入口には停まらないので、手前の「本宿役場前」で下車します。バスの進行方向にあるT字路を右に曲がり、約5分歩くと「払沢の滝入口」バス停があります。
自家用車
中央道を使う場合は、八王子インターチェンジから滝山街道経由で約50分、または上野原インターチェンジから甲武トンネル経由で約50分かかります。
圏央道を利用の場合は、あきる野インターチェンジから滝山街道経由、または日の出インターチェンジから五日市街道経由で約30分の道のりです。カーナビをセットする場合、東京都西多摩郡檜原村本宿5545を目的地に設定しましょう。
歩道入口に無料駐車場があり、普通車約28台と中型車3台を収容可能です。
減少する全面結氷と気になる地球温暖化
かつては毎年のように全面結氷していた払沢の滝ですが、近年はすべて凍る姿は稀となりました。生活の中でも、氷が張ったり霜柱が地面を覆う日が以前よりも減ったと感じている人もいるかもしれません。
気象庁によると、日本の冬の平均気温は、変動を繰り返しながら上昇傾向で、100年あたり1.24℃の割合で上昇しているとのこと。平均気温が上昇している原因は、地球の温暖化です。
地球温暖化の影響
地球温暖化の悪影響がすでに顕在化している例があります。
地球温暖化に伴う気温の上昇は、人の健康にも直接的な影響を及ぼし、熱中症による死亡者数は増加傾向です。また、気温の上昇で快適な生活が難しくなったり、従来の季節感とのずれが生じたりする可能性があります。
また、冬の気温の上昇にともない全般的に積雪が減少する一方で、地域によっては雪が増加するリスクが指摘されています。暖冬によって大量の水蒸気を含む大気が、気温の低い地域で大雪をもたらすからです。本州日本海側や北海道の記録的な大雪も、温暖化の影響といえます。
さらに、豪雨や強力な台風、大雪などにより、市民生活や各種のインフラが損害を受ける懸念があるほか、食料生産を担う農林水産業への影響も心配されています。
生態系にも変化が起きています。ニホンジカが高標高まで生息できるようになり、希少な高山植物や林床の植生が食い荒らされ、山の風景が一変してしまうほどです。地球温暖化の悪影響は、今後さらに増えるかもしれません。
地球温暖化の原因
地球温暖化の原因は、CO2などの温室効果ガスです。温室効果ガスは、太陽によって温められた地表の熱が宇宙に放出されるのを防ぎ、地球全体を適切な温度に保つ役割を果たしています。
温室効果ガスがない場合、地球の平均気温はマイナス19度になるとされていますが、逆に増え過ぎて地表の熱が放出されず気温が上昇してしまうのが地球温暖化です。
温室効果ガスの中で75%を占めるCO2は、特に産業革命以降の化石燃料の使用や森林破壊によって急増しました。
人間の活動が大気中の温室効果ガスを増やし地球温暖化を加速させてきたことは疑う余地がなく、世界各国はCO2削減目標を掲げ、対策を進めています。
日本の目標は、2050年カーボンニュートラル。2050年までに温室効果ガスを削減し、吸収量を加味して実質的にゼロにすることを目指しています。
払沢の滝を守るために私たちができること
私たちのちょっとした心がけが、温室効果ガスの削減につながります。まず、石油やガソリン、ガスなどの化石資源の消費に注目してみましょう。
払沢の滝を訪れる際は、ガソリンを消費して自家用車で移動するよりも、公共の交通機関を利用するのがお勧めです。
また、プラスチックは燃やすとCO2を増加させますが、石油のかわりに木材・紙などの天然素材やリサイクル資源を原料としたものを選ぶことでCO2排出を削減できます。
凍った滝を見るための防寒装備などを購入する際には、天然素材の製品や環境に配慮した認証マークがついたものを選択するとよいでしょう。お土産に、檜原村をはじめとする多摩産の木材製品を選ぶのもいいですね。
さらに、ごみの焼却でもCO2が排出されるので、物を長く大切に使うことも重要です。使い捨てはなるべく減らし、安い物を何度も買い換えるのではなく、高くてもいい品を愛用できるのが理想的といえます。
私たちを癒してくれる豊かな森は、成長過程で大気中のCO2を吸収し固定するはたらきをもち、CO2の吸収源としても重要です。アウトドアを楽しみながら、檜原村の林産物を利用し、森林の価値や変化に関する気づきを発信することも森を守ることにつながります。
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。