穂高連峰の中でも屈指の展望を誇る北穂高岳(きたほたかだけ)の山頂を目指し、稜線上の北穂小屋で1泊する山旅をしました。岩稜歩きが続く険しい道のりですが、テラスから眺めるご来光や槍ヶ岳の姿は、言葉を失うほどの美しさです。この記事では、登頂までのルートや北穂小屋泊の魅力などを実際の体験を交えて詳しく紹介します。

北穂高岳ってどんな山?

北穂高岳 登山 小屋迫

穂高連峰の北端にそびえる標高3,106mの双耳峰(そうじほう)、北穂高岳。懐には、四季折々の表情を見せる美しい涸沢(からさわ)カールを抱き、晴れた日にはその雄大なスケールに息をのむほどです。

ただし、北穂高岳への道のりは決して容易ではありません。アプローチが長く、岩稜帯には鎖場やハシゴが連続するため、しっかりとした体力と登山経験が求められます。

基本情報

山域 南部
位置 長野県・岐阜県
標高 3,106m
天気と登山指数 北穂高岳の天気|てんきとくらす
アクセス 上高地公式ウェブサイト

槍ヶ岳と360度の大パノラマ

北穂小屋からわずか1分ほどで立てる山頂は、まさに天空の展望台。槍ヶ岳(やりがたけ)や奥穂高岳を間近に望み、遠くには白山や富士山までも見渡せる絶景が広がります。

ロッククライミングの聖地

北穂高岳の西側には、「鳥も通わぬ滝谷」と呼ばれる断崖絶壁がそびえています。剱岳(つるぎだけ)、谷川岳と並び「日本三大岩場」に数えられるこのエリアは、多くのクライマーを魅了してきました。

また、山頂付近から南へと続く縦走路は、南岳、そして槍ヶ岳へと連なります。その途中に立ちはだかるのが、岩稜の切れ落ちた「大キレット」。日本屈指の難所として知られますが、確かな技術と体力があれば挑戦できる“憧れのルート”です。穂高連峰の雄大さと険しさを肌で感じられることでしょう。

北穂小屋泊の魅力

北穂高岳 登山 小屋迫

標高2,992mの稜線に建つ北穂小屋は、日本でも有数の“天空の山小屋”。目の前には槍ヶ岳、背後には穂高連峰、眼下には涸沢カール。まさに自然と一体になれる特別な場所です。

3,000mの稜線で味わう絶景テラス

夕暮れ時、オレンジ色に染まる槍ヶ岳や穂高の峰々を眺めながら、テラスで過ごすひとときはまさに至福の時間。稜線を吹き抜ける風、ゆっくりと色を変えていく空のグラデーションに、日常の喧騒を忘れてしまいます。

そして夜には、満天の星の下で飲むコーヒーが格別。どんな高級ホテルの夜よりも、贅沢で静かな時間が流れますよ。

ボリューム満点でおいしい山ごはん

北穂高岳 登山 小屋迫

北穂小屋の夕食のメインは、名物の「豚の生姜焼き」。ボリュームたっぷりの副菜に、圧力釜でふっくら炊かれたごはん、湯気の立つ味噌汁が並びます。おかわり自由なのもうれしく、何度もよそってもらう登山者の姿も。温かい香りとともに、食堂には笑い声があふれていました。

昼の人気メニュー「ダモンカレー」は、スパイスが香る本格派メニューです。デザートには、イタリアの伝統スイーツ「カッサータ」が山の上で食べられますよ。

気配りの行き届いた設備

北穂高岳 登山 小屋迫

小屋の中は木の温もりが感じられ、清潔で心地よい空間となっています。筆者たちが宿泊した部屋は、上下二段に仕切られており、個室のようになっていてとても過ごしやすかったです。自由に使える充電スペースがあるのもありがたく、登山者への細やかな配慮が随所に感じられました。

水場はありませんが、大きなポットに水が常備されており、自由に汲めるようになっています。また、乾燥室が完備されており、濡れた衣類やタオルを干せるため、高山での滞在がより快適になりました。

【1泊2日】3,000m峰の頂へ!北穂高岳のルートを紹介

北穂高岳 登山 小屋泊

北穂小屋からの槍ヶ岳を眺めながら山でのんびりと過ごしたくて9月中旬に北穂高岳を訪れました。上高地から涸沢カールを経由する人気のコースです。山頂までの道のりや北穂小屋の雰囲気など、写真とともに紹介します。

コースデータ

総距離:約35km
タイム(目安):1日目:約9時間10分/2日目:約8時間40分
難易度:★★★★

【1日目】小屋から眺める大キレットの絶景

コースタイム

沢渡駐車場→上高地(120分)→徳澤(70分)→横尾(180分)→涸沢(180分)→北穂高岳/(合計タイム9時間10分)※山と高原地図参照

上高地へ――ダモンカレーを目指して出発!

深夜0時前に沢渡第三駐車場に到着。沢渡では深夜0時を過ぎると2日分の料金になるため、あえて日付が変わってから駐車しました。普通車は1日800円と利用しやすい料金です。

歩いて上高地行きのバス停へ向かうと、すでにチケット売り場には行列ができています。今回は北穂小屋の名物「ダモンカレー」を食べたいという目標があったため、少し贅沢してタクシーで上高地へ。料金は4,600円ほどでした。小屋でランチを食べるには、13時までに到着する必要があります。

午前5時30分、上高地バスターミナルを出発。梓川のせせらぎを聞きながら、朝もやの中を歩き出します。道はよく整備されてスタートは緩やかな登りです。

河童橋を渡り、徳沢へ向かう途中にはかわいらしい野鳥の声が響き、川の冷たい空気が肌に心地よくペースもあがります。新緑の森を抜けると、少しずつ山の世界に入っていく実感が湧いてきます。

横尾で登山者チェックと本格登山の始まり

北穂高岳 登山 小屋迫

横尾に到着すると、登山ゲートで装備や登山届のチェック、山岳保険加入を確認する試行的な安全確認が行われていました。外国人ハイカーも増える中で、こうした取り組みはとても大切だと感じます。

吊り橋を渡ると、いよいよ本格的な登りの始まりです。ここから涸沢まではガレ場の急登が続きますが、振り返ると穂高連峰の大パノラマ。息を切らしながらも、その雄大な景色に励まされます。

涸沢カールから北穂高岳へ――岩稜地帯を慎重に

北穂高岳 登山 小屋泊

標高約2,300mの涸沢カールに到着すると、目の前に広がる大岩壁とモレーンの風景に圧倒されます。青い空と岩肌の白、そしてテントのカラフルな色が織りなす光景はまるで絵画のよう。

涸沢小屋でヘルメットを着用し、いよいよ北穂への岩稜帯へ挑みます。はしごや鎖、急な岩場を手足を使ってよじ登りながら、一歩ずつ慎重に進みました。風が強くなる場所もあり、緊張感と達成感が交錯するルートです。

北穂小屋に宿泊 天空の小屋で味わう絶景と小屋ごはん

北穂高岳 登山 小屋迫

標高3,000mの標識が見えたら、あと一息、テント場が見えてきます。そこから15分ほどで、北穂高岳の山頂に到着。少し下れば山荘です。この日はがんばってコースタイムを2時間ほど短縮できたおかげで、お目当ての「ダモンカレー」にありつけました。スパイスの香りが食欲をそそり、疲れた体にじんわりと染みわたるおいしさ。山頂の風を感じながら食べる一皿は、まさに自分へのご褒美です。

北穂高岳 登山 小屋泊

テラスから眺める景色は、刻々と表情を変えていきます。夕暮れには山肌が茜色に染まり、やがて夜になると満天の星が広がりました。「あぁ、ここまで登ってきて本当によかった」——そんな言葉が自然とこぼれる、心から満たされる時間でした。

【2日目】体力があるならぜひ寄りたい!絶景のパノラマコースへ

北穂高岳 登山 小屋泊

コースタイム

北穂高岳(20分)→南陵山頂(115分)→涸沢(5分)→パノラマコース(70分)→屏風の耳(30分)→屏風の頭(20分)→屏風の耳(140分)→徳澤(120分)→上高地→沢渡駐車場→温泉/(合計タイム/8時間40分)※※山と高原地図参照

朝焼けに染まる山々――南陵山頂へ

北穂高岳 登山 小屋泊

2日目も天候がよく、山々がモルゲンロートに染まるころ、大キレットに向かう人たちは足早に小屋をあとにします。筆者はギリギリまで絶景を堪能し、名残惜しくも7時に出発しました。北穂高岳の山頂は2つあり、岩場を慎重に下りながら、南陵の頂上へ。南陵の山頂に立つと、涸沢カールと穂高連峰の雄姿が一望でき、そのスケールに思わすシャッターを連写するほどです。

ここからはガレ場を慎重に下ります。涸沢カールのダイナミックなU字谷を眺めながらの下山は心が躍ります。カールの底に降り立つと、まるで別世界。青空の下、岩壁に囲まれたその場所はまさに「北アルプスの聖地」と呼ぶにふさわしい場所でした。

穂高連峰を一望できるパノラマコース

北穂高岳 登山 小屋泊

ここで体力と時間に余裕がある人におすすめしたいのが、「パノラマコース」。その名のとおり、穂高の絶景を見ながら歩けます。ただし、破線ルートで登山道は狭く滑りやすいため、経験と体力がない人にはおすすめできません。

飛騨の頭――360度の大パノラマに包まれて

北穂高岳 登山 小屋泊

絶景の稜線をしばらく歩くと、「飛騨の頭」へ。開通したばかりで人が踏み入れていなかったせいか、登山道は整備されておらず、ハイマツの中をくぐり抜けてやっとの思いで山頂へたどり着けました。道迷いの箇所もあったので、注意が必要です。

北穂高岳 登山 小屋泊

山頂からは槍ヶ岳、笠ヶ岳、そして遠く乗鞍岳(のりくらだけ)まで見渡せる360度の展望が待っています。疲れも一気に吹き飛ぶ瞬間でした。手前の「飛騨の耳」も素晴らしい景観ですが、時間に余裕があれば頭まで行ってほしいですね。

天気がよければ、ここで軽く行動食を食べて休憩するのもおすすめ。北アルプスの山々を眺めながら、登ってきた道のりを振り返る時間は格別です。ここから徳澤園までが単調で長く感じ、なかなかハードな下山でした。

山旅の締めくくり――温泉で癒やすご褒美の時間

下山後は、山の疲れを癒やしに駐車場の近くにある「さわんど温泉 梓湖畔の湯」へ。汗と疲れを流しながら、ゆっくり旅の余韻に浸ってくださいね。

北穂高岳登山の注意点

北穂高岳 登山 小屋泊

北穂高岳は、美しい岩稜と大パノラマが魅力の一方で、自然の厳しさを肌で感じる山でもあります。だからこそ、「安全に登る」という意識は、自然への敬意そのもの。装備や準備を整えることは、山と調和しながら登るための第一歩です。

小屋の予約は早めにする

北穂小屋は人気が高く、週末や連休はすぐに満室になります。標高3,000mを超える環境では、テント泊もよいのですが天候次第で危険を伴うことも。安全で快適な山行のためにも、事前の予約を忘れずにしましょう。計画段階で余裕を持つことで、結果的に心のゆとりにつながります。

ヘルメットを着用する

岩場が多い北穂高岳では、落石や滑落のリスクがあります。ヘルメット着用推奨地帯なので、ヘルメットは「万が一」ではなく「当然」の装備です。ヘルメットを着用している姿そのものが「安全意識が高い登山者」という安心感を周囲に与えます。

相手が石を落とした場合でも、ヘルメットがあれば頭部への直撃を防げる可能性があります。逆に自分が不用意に足元の石を落としてしまうこともあるため、ヘルメットは“お互いを守るためのマナー装備”とも言えるでしょう。互いに安心して山を楽しむためにも、岩稜地帯では装着を習慣にしたいですね。

体力をつけてから挑戦する

アプローチが長く、高低差も大きい北穂高岳。日帰り登山とは違い、標高3,000mの世界では一歩一歩に体力が試されます。事前の筋力トレーニングや日帰り登山で慣れておくことで、事故を防ぐことができます。自分の体力を見極めて挑戦しましょう。

初めて登った北穂高岳。目の前に迫る槍ヶ岳の刻々と移りゆく姿が胸に焼きつき、下山してから数日たっても、心は北穂の稜線に置いてきたままな感覚でした。朝焼けに染まる穂高の峰、風に揺れるハイマツの音、そして小屋で食べたダモンカレーの香り。ゆっくりと時間を過ごせるのは、小屋泊ならではの醍醐味です。あの静寂と感動をぜひ一度、味わってみてくださいね。

yuki

ライター

yuki

幼少期からキャンプや釣り、スキーなどを楽しむアウトドアファミリーで育つ。10代後半は1人旅にハマりヨーロッパや北米を中心としたトラベラー期となる。現在もスキー、スノーボード、ダイビングなど海や山で活動中。「愛する登山」は低山から厳冬期の雪山まで季節問わず楽しむhike&snowrideなスタイル。お気に入りの山は立山連峰!Greenfield登山部/部長の任命を受け部活動と執筆活動に奮闘中。