地球温暖化を抑えるため、いま世界中の企業が「カーボンニュートラル」を目指して動き出しています。それは、自然を愛するアウトドアブランドも例外ではありません。難しそうに感じるかもしれませんが、「好きなブランドの挑戦」から見ると、カーボンニュートラルはぐっと身近に感じられます。本記事では、実際に行動を起こしている企業の取り組みをわかりやすく紹介します。

カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み

カーボンニュートラル 企業 取り組み

大企業だけでなく、中小規模のメーカーを含めた幅広い業種がカーボンニュートラルに取り組み始めています。

カーボンニュートラルとは、CO2など温室効果ガスの排出量から、植林などによる吸収量を差し引き、実質的に「ゼロ」にすることを指します。

地球温暖化の影響は暮らしのなかでも感じられ、大雨や猛暑などの異常気象が続くのも、温室効果ガスの増加が原因とされています。深刻な地球温暖化を防ぐため、2015年のパリ協定で「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度以内に抑える」目標が定められました。

この「1.5度目標」を守るには、大気中の温室効果ガスの増加を止める必要があるため、各国は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しているところです。

日本政府も、再エネ導入企業への補助金や中小企業向けの支援制度を整え、企業の取り組みを後押ししています。ここでは、温室効果ガスを減らす具体的な手段について紹介します。

再生可能エネルギーへの転換

まず注目されるのが、再生可能エネルギーの導入です。電力を火力発電に頼ると、石油や天然ガスの燃焼で大量のCO2が排出されます。

太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーは、発電時にCO2をほとんど排出しません。企業が自社の工場やオフィスで使う電力をクリーンなものに切り替えるだけで、排出量を大きく減らせるのです。

製造工場の電力をすべて再生可能エネルギーに切り替えたり、太陽光パネルを設置して自ら発電したりする企業もあります。電力の契約先を、再生可能エネルギーを扱う事業者に切り替えるのも有効な方法です。

原材料の見直し

製品づくりにおいて、原材料の選び方も重要です。石油から作られるプラスチックや化学繊維は、原料調達や製造、廃棄の段階で多くのCO2を排出します。

原材料にリサイクル素材やリユース可能な部品、さらには植物由来のバイオプラスチックを活用すればCO2削減につながります。また、製品を包む梱包資材を減らす工夫も見逃せません。

アウトドアブランドの中には、使用済みペットボトルからリサイクルフリースを製造したり、リサイクルダウンを使った寝袋を販売したりする企業もあります。不要となった素材を捨てずに循環させることで、資源のムダ遣いを減らしつつ、CO2削減にもつながります。

輸送や販売の効率化

輸送や販売の効率化も、CO2削減につながる大切な取り組みです。原材料を遠方から仕入れると、それだけ運搬にかかる燃料が増え、CO2排出量も膨らみます。そこで、使う場所の近くに調達先を切り替えたり、製造工程での無駄を減らしたりする工夫が進んでいます。

例えば、工場から店舗までの輸送ルートを見直し、トラックの積載効率を高めることも、有効なCO2削減策のひとつです。オンライン販売を強化し、在庫や輸送を最適化する仕組みを導入している企業もあります。

こうした物流や販売の改善は、規模の小さな企業でも取り組みやすいのが魅力です。

カーボンニュートラルに取り組む企業の例

カーボンニュートラル 企業 取り組み

カーボンニュートラルの取り組みは、アウトドア業界にも広がっています。ここでは国内外の代表的な企業を取り上げ、具体的な取り組みを見ていきましょう。

Snow Peak

新潟に本社を構えるSnow Peak(スノーピーク)は、「自然と人、人と人をつなぐ」理念のもと、CO2削減の挑戦を続けています。

直営キャンプフィールドや主要拠点で使用する電力は、100%再生可能エネルギーに切り替え済み。さらに本社にも大規模な太陽光パネルを設置し、自ら電力を生み出しています。

製品には「永久保証」を掲げ、長く愛用できる設計を徹底。リサイクル繊維や羽毛の活用など、資源循環型の商品開発にも力を入れています。また、日本製鉄と共同で開発した環境配慮型チタン素材の採用や、ゴミを減らすパッケージデザインの改善も進めています。

LOGOS

ファミリーキャンプでおなじみのLOGO(ロゴス)が展開する「ロゴス・バイオプラント」は、竹を主原料にした、カーボンニュートラル志向のシリーズです。

竹は成長過程でCO2を吸収するため、使用後に燃やしてもその排出量は吸収量と相殺され、結果として大気中のCO2濃度を増やさない素材です。使用後は生分解して土に還り、焼却しても有害物質を出しません。

さらに、山に向かう車によるCO2排出を埋め合わせる「カーボン・オフセット」キャンペーンにも参画しています。「カーボン・オフセット」とは、排出したCO2を植林などで吸収・相殺する仕組みのこと。消費者は対象商品を購入することで、この取り組みへの支援ができます。

patagonia

アウトドア業界全体のカーボンニュートラルをリードしているのが、patagonia(パタゴニア)です。同社は、国際的な基準であるSBT認定(Science Based Targets initiative)を取得し、CO2削減のための具体的な数値目標を明示しています。

SBT認定とは、企業の温室効果ガス削減目標を科学的根拠に基づいて定める国際的な基準のことです。2030年までに自社から直接排出されるCO2の80%削減、サプライチェーン全体を含む範囲では55%削減を目指しています。

さらに2040年には、原料調達から製品の廃棄に至るまでの全工程でカーボンニュートラルを達成するという高い目標を掲げています。

脱炭素の取り組みは企業の成長を後押しする

カーボンニュートラル 企業 取り組み

カーボンニュートラルへの挑戦は、地球のためだけでなく、企業の持続的な成長にもつながります。

たとえば、いち早く取り組んだ企業は「環境に強いブランド」として信頼を得やすくなります。また、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入により、光熱費や燃料費の削減も期待できます。

さらに、環境配慮の姿勢はメディアから注目され、問い合わせや売上の増加につながるケースもあります。社員の誇りを高め、新しい人材の獲得にも役立つほか、金融機関からの評価が高まり資金調達にもプラスになります。

カーボンニュートラルの取り組みは地球の未来を守るだけでなく、企業自身を力強く成長させる原動力となるのです。

日本は2024年8月、企業の温室効果ガス削減目標に関する国際的な基準であるSBTの認定取得または取得することを約束(コミット)した企業の数で、世界1位となりました。とくに中小企業の参加が目覚ましく伸びています。地球の未来は、企業だけでなく、私たち一人ひとりの選択にもかかっています。次にアウトドア用品を選ぶとき、「どんな想いでつくられたか」に少し目を向けてみませんか。その一歩が、持続可能な地球を支える力になります。

参考
中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック|環境省
環境への取り組み | 投資家情報 | スノーピーク 
LOGOS BIO PLANT|LOGOS
第2回 山の日カーボン・オフセットキャンペーン | J-クレジット制度
Climate Goals|Patagonia
日本企業SBT認定・コミット数が世界1位に |WWFジャパン

 

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。