チョコレート工場から、横浜の牧場へ。意外な2つの場所をつないでいるのが、カカオ豆の外皮「カカオハスク」です。このチョコレート製造の副産物を、横浜市内の牧場で牛舎の敷材として活用する取り組みが始まりました。さらに、使用後の敷材は堆肥として地域の農業へつなげることも計画されています。異なる産業を地域の中でつなぎ直すことで、資源は新たな役割を得て次の場所へ。チョコレートを入口に、横浜で始まる資源循環の仕組みを紹介します。
チョコレート製造で生まれるカカオハスクを資源に

写真提供:チョコレートデザイン株式会社
カカオ豆からチョコレートをつくる過程で生まれるカカオハスク。この副産物をうまく活用できれば、新たな資源になり得ます。では、そもそもカカオハスクとはどのようなものなのでしょうか。まずは、その特徴と、資源として生かすことの意味を見ていきます。
カカオ豆の外皮から生まれる「カカオハスク」
カカオハスクとは、カカオ豆をチョコレートの原料として加工する際に取り除かれる、豆の外側の薄い皮などのことです。チョコレートづくりでは、カカオ豆を加熱したあと、外皮を取り除いて「カカオニブ」と呼ばれる部分を取り出します。
チョコレート製造には不要であるカカオハスクは、活用先がなければ処分されることになります。このカカオハスクを日用品や食品、化粧品などに活用する方法について、これまでさまざまな研究や取り組みが進められてきました。
カカオ豆から生まれる副産物を、別の用途へつなげることで、新たな資源として生かそうという動きが広がっています。
参照:
【経営学部】チョコレートから考えるSDGs|京都産業大学
「副産物」を次の役割へつなぐために
チョコレートデザイン株式会社では、現在、年間約8トンのカカオハスクが発生しており、これまでもさまざまなアップサイクルに取り組んできました。
カカオハスクを使ったタンブラーやクラフトビール、お香、お茶、カカオハスクレザーなど、食品として利用していたカカオに新たな役割を持たせる試みです。こうした商品化は、これまで活用方法が限られていたカカオハスクに新しい価値を見いだす方法の一つといえます。
一方で、チョコレートをつくる限り副産物は継続的に発生するため、一度きりの商品にするだけでなく、安定した活用先へつなげていくことも重要です。そこで今回、カカオハスクは新たな行き先として、横浜市内の牧場へ向かうことになりました。
参照:
チョコレート製造の副産物を、横浜市内の牧場へ。横浜発クラフトチョコレート専門店VANILLABEANS、カカオ豆の外皮「カカオハスク」の約90%を牛舎の敷材として活用開始|PRTIMES
CHOCOLATE DESIGN COMPANY|チョコレートデザイン株式会社
カカオハスクが地域を回す

写真提供:チョコレートデザイン株式会社
カカオハスクは、チョコレート工場の中だけで役割を終えるのではなく、地域の別の産業へとつながっていきます。カカオハスクを牧場の敷材として使い、さらに使用後は堆肥として農地へ戻すことで、一つの副産物を地域の中で循環させることができます。
では、チョコレート製造から牧場、そして農地へと、カカオハスクがどのように移動するのでしょうか。そこには、異なる産業をつなぎ、資源の新たな行き先を生み出す仕組みがありました。
チョコレートから牧場へ、牧場から農地へ
カカオハスクは、横浜市内の栄牧場で牛舎の敷材として活用されます。牛舎の敷材には、一般的におが粉などが使われますが、地域によっては価格の上昇や供給量の減少が課題となっており、地域で入手できる代替資材の活用も進められています。
カカオハスクを敷材として活用することで、副産物の廃棄コストを削減できるだけでなく、牧場にとっても敷材の選択肢が広がります。さらに、使用後のカカオハスクは牛ふんとともに堆肥化し、地域の農家へつなげることが計画されています。
チョコレート工場で生まれたものが牧場を経て農地へ向かうことで、廃棄するのではなく、地域の中で次の役割へとバトンを渡せます。こうした地域内の循環は、資源の輸送や処分にかかる経費やCO2排出を抑えながら、新たな活用の可能性を広げる持続可能な取り組みといえるでしょう。
参照:
畜産環境をめぐる情勢|農林水産省
約9割のカカオハスクを異なる産業で循環させる仕組み
今回の取り組みでは、チョコレート製造で年間約8トン発生するカカオハスクのうち、約90%にあたる約7.2トンを活用することが見込まれています。
この取組のポイントは、一つの副産物をきっかけに、これまで接点のなかった異なる産業がつながることです。製造業から出た副産物を畜産業で活用し、その先を農業へつなげることで、一つの産業だけでは生まれにくかった資源の循環が地域の中で形になります。
このつながりを生み出すきっかけとなったのが、横浜市と市内の廃棄物処理業者7社が中心となって2024年10月に発足した「横浜市資源循環推進プラットフォーム(YRCプラットフォーム)」です。
YRCプラットフォームは、製品をつくる「動脈産業」と、廃棄物などをリサイクルする「静脈産業」の連携を促し、資源循環に取り組む事業者同士をつないでいます。今回のカカオハスクの活用も、こうした異業種をつなぐ仕組みから生まれた事例の一つです。
チョコレートが映し出す、もう一つの風景

写真提供:チョコレートデザイン株式会社
チョコレートを食べるとき、その先に牧場や農地の風景まで思い浮かべることは、少ないでしょう。けれど、今回の取り組みから見えてくるのは、私たちが普段手にしている食べ物にも、つくられる場所から次の行き先まで、さまざまなつながりがあるということです。
アウトドアに出かけるときに持っていくチョコレートや飲み物、選んだ食品の背景にも、原料の生産や製造、その過程で生まれる副産物などがあります。どこでつくられ、製造の途中で生まれたものや、使い終えたものはどこへ行くのか。
そんな「その先」に少し目を向けてみると、いつもの買い物やアウトドアで選ぶものも、自然や地域とのつながりを持っていることに気づきます。身近なチョコレートを入口に、ものを選ぶときにその背景まで想像してみる。それは、暮らしのなかで資源の循環を考える、小さなきっかけになるかもしれません。
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。