気候変動の現実を前に、私たちにできることは何でしょうか――。2025年4月14日、パタゴニア 東京・ゲートシティ大崎で開催されたイベント「やりたいことのために、いまやる。」には、自然と共に暮らし活動する人たちの率直な声が集まりました。当日の様子をレポートします。
「社会の仕組みそのものを変えて行く」(POW JAPAN小松さん)
「雪がなければ、私たちは何もできません」
そう語ったのは、長野県大町市から登壇したProtect Our Winters Japan(POW JAPAN)代表の小松吾郎さん。プロスノーボーダーとして世界中を滑ってきた小松さんが直面するのは、年々変化する雪の量。雪があるかどうかは、遊びや趣味だけでなく、仕事や地域経済の存続にも関わる深刻な問題です。
「2024年の冬、長野の一部では記録的な豪雪となりましたが、他の地域では雪がほとんど降らない場所もありました。気候変動は“均一”ではなく、“バラバラ”な不安定さをもたらしています」
会場では、異なる年の積雪を比較した写真がスライドで紹介され、その異常性がひしひしと伝わってきました。
小松さんが代表を務めるPOW JAPANは、気候危機の“当事者”であるアウトドアコミュニティと連携し、アクションを促す活動を行っています。
「温室効果ガスの排出源は、火力発電が最も多い約40%。家庭部門からの排出は10%くらいなので、個人の努力では削減できる量が少ないです。だからこそ、社会の仕組みそのものを変えていかなければならなりません」
このメッセージは、会場に集まった60名近い参加者に、強く響いているようでした。
「脱炭素先行地域」に認定される千葉県匝瑳市の取り組み
千葉県匝瑳市(そうさし)からは、地域おこし協力隊の土屋彰さんが登壇しました。匝瑳市は、環境省が認定する「脱炭素先行地域」に選ばれ、土屋さんはその中核を担っています。
「農地の上に太陽光パネルを設置し、下で作物を育てる“ソーラーシェアリング”をはじめ、地域内でエネルギーをつくり、地元で消費する仕組みを広げています」
さらに、盆栽の剪定などで出た木くずをバイオ炭に変える取り組みなども進めているのだそう。こうした地域発の再生可能エネルギー導入事例は、全国からも注目を集めています。
「始まりは市民の小さな声でした。それが広がり、今では行政も大きく動くようになっています」
野菜の価格高騰の背景に潜む、農家の苦労
埼玉県ときがわ町からは、有機農家の橋本容子さん・拓さんご夫妻が参加されました。おふたりは、「サステナブルタウンときがわ」という市民チームを立ち上げ、地域に気候変動への理解を広げようと活動しています。
「当時10歳の息子に“お母さん、大丈夫?”と問われたことがすべての始まりでした」と語る容子さん。その一言がきっかけとなり、役場との対話や勉強会を通して、仲間とともに活動を続けています。
農業の現場からも、気候変動の影響は年々強くなっているといいます。
「9月の高温の影響で、冬野菜の種が発芽しなくなったり、虫の被害が増えたりと、これまでと同じやり方では作物が育たなくなってきました」
私たちの食卓に並ぶ野菜の背景にはそうした苦労や工夫があるのだと改めて気づかされました。
社会に対して声をあげる若者たちのメッセージ
イベント後半には、「明日を生きるための若者気候訴訟」を提起した大学生2名が登壇しました。
原告の山本さんは、2019年の台風19号の際に、地元の近所にある知人の家が浸水したことが、自分ごととして気候変動を考えるきっかけになったそうです。「気候変動問題を人権問題として捉え、裁判を通じて社会を変えたい」と話しました。
また、二本木さんは3.11の原発事故やグレタ・トゥーンベリさんのスピーチをきっかけに気候変動に関心を持ったのだとか。「訴訟を通じて市民の声を社会に届け、政策に反映させたいと考えている」と説明しました。
2人全国各地に住む16人が提起した訴訟は、大手電力会社に対して温室効果ガスの排出削減を求めるもので、「裁判は特別な人だけがやるものではない。社会を動かすための手段の一つだ」と語ります。
POW JAPANの小松さんは、「本来は若者に任せないで、私たち大人が動かないとね」と、参加者みんなに発破をかけました。
内容: 自然と共に生きる人々の視点から、気候変動への取り組みや地域での実践例について共有
スピーカー:
小松吾郎氏(Protect Our Winters Japan 代表理事)
土屋彰氏(千葉県匝瑳市 地域おこし協力隊員)
橋本容子・拓夫妻(埼玉県ときがわ町の有機農家「晴耕雨読」)
「明日を生きるための若者機構訴訟」を提起した若者たちからのメッセージ
参加費: 無料(要予約)
定員: 50名 ※この日は60名近くが来場
場所: パタゴニア 東京・ゲートシティ大崎
ライター
朝倉奈緒
ファッション誌の広告営業、独立系音楽会社で一通り経験後、フリーランス編集&ライターとして独立し、カルチャー・アウトドア・ナチュラルフードを中心に執筆。現在Greenfield編集長/Leave no Traceトレーナーとして、自然を大事にしながら楽しむアウトドア遊びや学びを発信。プライベートではキャンプ・ヨガ・音楽に親しみ、玄米菜食を実践中。