米作りは田植えから始まるわけではありません。桜が咲く頃からぼちぼちと作業をしていると、春ならではの自然の美しさや、生きものの様子が感じられます。田植えに至るまでの準備中、田んぼで出合える希少な水生昆虫や両生類、野草を紹介します。
米作りは早春からスタート
前年の収穫から取っておいた種籾(たねもみ:脱穀するまえの籾がらのついた米)を、時季を見計らって水に浸し発芽させるのが米作りの最初のステップ。稲も植物なので、種子から発芽して育ちます。
水温を15℃くらいに保って10日間ほど置き、その後水温を約27℃に上げて発芽を促します。発芽した種籾をまくのは、田んぼではなく畑の苗床です。田植えするのにちょうどいい大きさに育つまで2か月ほどかかるので、鳥に食べられないようにカバーをかけ、水やりや雑草取りをしながら見守ります。
田んぼでは、田植えの前に畔と水路を直さなければなりません。畔は一年を通して作業のたびに人が通り、雨風にさらされるので、崩れたり壊れやすくなっている場所もあります。
稲の生育に必要な水を張るためには、十分な高さで崩れにくい畔を作ることが重要です。また、雨が降らない間もため池からスムーズに水を行き渡らせることができるように水路を整え、溜まった泥や落ち葉を取り除かなければなりません。

ケラ
田んぼや水路を掘り返していると、カワニナやサワガニ、ケラやヤゴなどの水生昆虫が出てきます。スコップですくった泥の中には、きっと何かが隠れているはず。じっと目を凝らしましょう。作業の間に、生きもの発見の興奮を分かち合うのも、田んぼ作業の醍醐味です。
なお、田植えや稲刈りを体験したい場合は、単発イベントとしてではなく年度単位で参加者を募集している場合もあるので探してみましょう。申し込みの時期を見逃さないように、ご注意ください。
田んぼは両生類の宝庫
山ぎわの田んぼがほかの環境と大きく異なるのは、冬でも水が枯れないことです。早春に水がたまっている場所がなければ、カエルやサンショウウオは産卵できません。
近年カエルなどの両生類が数を減らしつつあるのは、田んぼのような水辺が減っていることも原因の一つです。田んぼは、両生類に簡単に出合うことができる数少ない場所といえるでしょう。
カエルの卵塊

アカガエルの卵
水の中に、ゼリー状のボールのような卵塊が浮いていれば、それはアカガエルの卵です。ヤマアカガエルは、まだ雪が残るような寒い時季、ほかの種よりも早く産卵して再び冬眠に戻ります。

ヒキガエルの卵
ゼリーに包まれた卵が数珠つなぎになった、ホースのような卵塊はヒキガエルの卵です。一度に数千の卵を産むこともあるそうで、どうやってメスのお腹に収まっていたのかと驚かずにはいられません。このほか、シュレーゲルアオガエルやモリアオガエルの泡に包まれた卵は、田植えの頃に出現します。
卵から生まれたオタマジャクシの数はおびただしく、手の届く場所にいることが多いので、小さい子どもでも簡単に触れることが可能です。小さくておとなしく、子どもの視界の範囲で動き回るオタマジャクシは、最初に触れ合う水の生きものとしてぴったり。
また、オタマジャクシはタイコウチ、ヤゴなどの水生昆虫の餌に、カエルはヘビや猛禽類などの獲物になります。カエルとオタマジャクシは田んぼの象徴的な生きものであると同時に、ほかの生きものの餌となることで田んぼの生態系を底辺から支えているのです。
サンショウウオの卵
サンショウウオの卵も水田や湿地の水中に産みつけられ、ゼリーに包まれており、トウキョウサンショウウオの場合は2本のバナナがつながったような形をしています。カエルに比べて圧倒的に数が少ないので見つけるのは難しいですが、見つけたときの喜びもひとしお。
サンショウウオは卵から孵化するとえら呼吸をして成長し、成体になると陸に上がって森で生活します。成体は湿った落ち葉の下などに身を隠しているので、まずお目にかかれません。
サンショウウオが生きていくためには冬でも枯れない水辺と森林の両方が必要ですが、条件を満たすような場所は少なくなってしまいました。また東京の西多摩地域では近年、特定外来生物のアライグマに卵が捕食される被害により、サンショウウオはますます数を減らしています。サンショウウオの卵を見つけたら、持ち帰ったりせずに自然のままで観察しましょう。
田んぼで探してみたい野草

セリ
開発など土地の改変をまぬがれ、一年中湿った環境が保たれている田んぼには、街の中で目にするものとは異なる種類の植物が生育しています。
早春のまだ草が茂らないころ、真っ先に茎を伸ばしているのはセリです。繁殖力旺盛で、放っておくと土手から田んぼの中までじわじわと根を張り、群生してしまいます。春の七草の一つでもあり、湯がいておひたしや卵とじにすれば、独特の風味を味わえます。
田んぼの周りは毎年草刈りされるため明るい草地となっていますが、春先に目立つのが、群生するノカンゾウです。夏になるとユリのような形のオレンジ色の美しい花を咲かせますが、地面から出たばかりの若芽はクセがなく湯がいて酢味噌でおいしくいただけます。
ヨモギも春の味覚の一つです。細かい毛に覆われた白っぽい若葉を摘んでゆで、細かく刻んでお団子に混ぜれば簡単に草団子が作れますよ。草地のあちこちに芽を出していることが多いので、子どもたちはヨモギ摘みに夢中になるかもしれません。

タンポポの総苞片(そうほうへん)
タンポポが咲いていたら、花の下にある総苞片(そうほうへん)を確認してみてください。総苞片が反り返らず花を包み込むように閉じていれば、昔から日本に自生する在来タンポポです。
都市部や改変された環境で一年中見られるタンポポは、外来種のセイヨウタンポポで、総苞片が外側に反り返っています。在来のタンポポは花期が主に春に限られ、自然度の高い環境で見つけることができます。
もし、在来のタンポポが咲いていたら、そこは昔ながらの自然が残されている貴重な場所ということでしょう。
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。