どんな岩が登れるの?
クライミングエリアと呼ばれる岩場は日本全国で100ヶ所を超えます。地元のクライマーのみが知る岩場や、特定のコミュニティのみが使用している非公開岩場も含めると200ヶ所以上、或いはそれ以上になるでしょう。
それ以外にも「登れそうな岩場」ということになると数えきれないほどあります。日本列島は地学的にも岩場の多い島です。しかも、狭いエリアにたくさんの種類の岩があります。
長野県川上村にある有名な岩場「小川山」は花崗岩ですが、すぐ隣の秩父に抜けると石灰岩の岩山に一変します。秩父の有名な岩場だと「二子山」が挙げられますが、他にも多くの素晴らしい石灰岩のエリアがあります。
こういった「すぐ隣の山に別の種類の岩がある」という環境は、海外だと殆ど目にすることはありません。
今日は安山岩のボルダリング、明日は花崗岩のクラッククライミング、次は石灰岩のマルチピッチクライミング、という楽しみ方ができるのは日本のクライミングの特権です。
つまり、クライミングを行うということだけを考えると非常に環境のよい場所といえます。
岩場は誰でも自由に登っていいの?
日本の岩場のほとんどが私有地です。ですから、登れそうな岩場があるからといって誰でも自由に登ってよいわけではありません。
正確に言えばここで「誰でも自由に登ってよいわけではない」と言う事さえも、実際には権限が無いわけです。
私有地ということは所有者に使用の権限がありますから、基本的に部外者がどんな事を考え意見したとしても、まずは所有者に確認をとらなければなりません。
私有地におけるクライミングでは、その岩場を見つけ開拓(自然の岩場をクライミングが出来る環境にする作業)をする開拓クライマーという人が居ます。
これは、河川にあるボルダリングや、国有林の中で「登山の一環として」登られている岩場も同じです。
もう一つ重要な作業があります。それは地元との関係性の構築です。地域開発などに近い感覚ですのでここでは「開発」という言葉を使います。
開拓はクライマーの経験値が高ければ素晴らしいエリアとして完成しますが、開発は地権者と地域とクライマーのディスカッションです。どれだけ時間がかかる作業なのかは完全に不透明で、また骨の折れる作業です。
挨拶はもちろん、地権者や地元の方々と時間をかけて親交を深め、ようやく登れるようになったのは開拓から数年後、という話もあります。
岩場の維持管理はどうしているの?
ボルダリングの場合は人工物の設置が必要無いので、エリア内で管理することは特にありません。
車を降りてから岩場までのアプローチの整備が必要ですが、これは人が多く訪れるようになると踏み跡がつくので、雨後の木々の倒木や土砂の流出といった修繕の形をとります。
アプローチに草が繁茂してしまった場合は、言い換えればそれはボルダリングエリアとして公開された後、単純に危ない、ボルダリングの岩に苔が生えやすく自然に還りやすいなど、ボルダリングを行うにあたって何らかのマイナス因子があったため、人が訪れなくなった結果といえます。
なので、そのまま自然に還されることが多いです。
ロープを使ったクライミングエリアの場合、ルートの途中と最後にハンガーと呼ばれる金属製のボルトを埋め込みます。ボルトは腐食によって老朽化しますので、定期的に打ち換える必要があります。
通常、岩場の開拓者が行いますが、有名エリアなどは日本フリークライミング協会(JFA)がボルトの打ち換えを行うこともあります。
ただし、私有地などの場合は、協会が動くことによって様々なステークホルダーが絡んでしまうので、やはり基本的には開拓者やその岩場を練習場として使用しているローカルクライマーということになります。
岩場の開拓って何?
クライミングの岩場に打ち付けられるボルト(RCCボルト)で有名なロック・クライミング・クラブ(RCC)の創立が1900年代。当時はクライミングといえばアルパインクライミングのみでした。
ちなみに最初にクライミングが行われたのは1800年代のドイツと言われています。その時はハンマーで岩に手製のボルト(ハーケン)を打って登っていました。
下からボルトを打ちながら登って行う開拓方法をグランドアップといって、最も尊敬に値する手段と言われています。
近年では、歩いて登れるところから岩場の頂上に出て、そこからロープを使って下降しながら電動ドリルで岩壁に穴をあけ、登るルート上にボルトを設置していきます。
とはいえ、グランドアップの冒険性に対する尊敬は現代でも色あせることはありません。生産性が重視される現代だからこそ、グランドアップに対する尊敬が強まっているともいえます。
いずれにしても岩場の開拓があってクライミングエリアは生まれ、開発があってクライマーがクライミングを行う事が出来ます。その最初の作業が岩場の開拓なのです。