なぜ焼き芋は甘くてしっとりしていておいしいのか
さつまいもを実際に焼く前に、焼き芋はどうして甘くてしっとりしていておいしいのか、そのメカニズムを解説します。
甘くなるメカニズム①熱を加えることで、酵素(アミラーゼ)がデンプンを麦芽糖に変える
焼き芋の甘みは、加熱することによって増します。これは、加熱をきっかけに酵素(アミラーゼ)がさつまいもの主要成分であるデンプンに作用し、麦芽糖に変換するためです。この麦芽糖が、さつまいもの甘さの源です。
ショ糖という甘み成分が生のさつまいもに含まれていますが、それだけでは十分に甘くありません。加熱することで、酵素による化学反応が促進されるため、甘みが増すのです。
甘くなるメカニズム②酵素がはたらくのは60〜70度の間
焼き芋の甘みを最大限に引き出すためには、適切な温度管理が重要です。酵素がよく働くのは60〜70度の間です。そのため、この温度を1時間〜1時間半ほど保つことで、焼き芋がより甘くておいしくなるでしょう。
焼き芋屋さんの窯(かま)は、薪を焚いて下から直火で熱する箇所と、余熱のみの箇所とに分かれています。余熱でじっくり火を通したあと、直火があたる箇所で香ばしく焼き上げるため、さつまいもの甘さがより一層引き立つのです。
甘くなるメカニズム③芋の水分を適度に蒸発させる
芋の中に含まれている水分が適度に蒸発することで、甘くてしっとりとした食感が得られます。芋の中の水分が多すぎると、短時間で高温になってしまい、酵素の活性が失われやすくなります。適度な水分の蒸発により、外はカリッとしていて中はふっくらとした、理想的な焼き芋を作り出せるのです。
キャンプで焼き芋を作る際に気をつけること
キャンプで焼き芋に挑戦する際に気を付けるべき3つのポイントを紹介します。挑戦前にぜひ確認してください。
火力を調節する
キャンプでの焼き芋作りで重要なのは、火力のコントロールです。焚き付け直後の焚き火は、不安定で大きな炎が立って高温になりがちです。このタイミングでさつまいもを焚き火に入れると、外側が焦げてしまう恐れがあります。
さつまいもを投入する最適なタイミングは、薪が燃えて熾火(おきび)の状態になった時です。熾火の状態であれば、弱火でじっくりと熱を通せます。
薪が燃えて熾火になり、さつまいもを投入した後は適度に転がす程度で問題ありません。目安として1時間程度加熱させる必要があります。40分を過ぎたあたりで、十分焼けたなと感じたら、一度火から取り出しましょう。取り出した後は竹串などを刺してみて、中に十分に火が通っていることが確認できれば完成です。
なお、この1時間程度というのはあくまでも目安です。実際に仲間で火が通るまでの時間は、その時の気温やさつまいもの大きさなどに大きく左右されます。実際の時間は自分で焼き芋を作ってみて感覚的に掴む必要があります。
水分を保持する
水分を逃さずに、ほくほくした食感の焼き芋を作り上げるためには、アルミホイルの使用が重要です。濡れたキッチンペーパーや新聞紙を使用する場合も、アルミホイルでしっかりと覆うことが必要です。
なお、さつまいもから出た水分によって焚き火の火力が弱まるのを避けるため、アルミホイルに穴を開けないように十分に注意してください。
さつまいもをアルミホイルや新聞紙などで包むことで、さつまいもの良さを生かした様々な食感を楽しむことができます。
さつまいもをアルミホイルで包んだ場合は、さつまいもの内部を均一に加熱させることができます。均一に加熱させることで、焼きムラを防ぐことができます。さらには、さつまいもを均一に加熱させることで、サツマイモの食感を生かした、ホクホクとした食感を引き出すことができます。
反対に、サツマイモを新聞紙で包んだ場合は、アルミホイルとまた異なった食感を楽しむことができます。新聞紙で包んだ際には、サツマイモから発生する余分な水分を吸収します。そうすることで、ねっとりとした食感に仕上がります。
ホクホクとした食感と、ねっとりした食感、どちらも甲乙つけ難いです。そのため、実際に一度試してみて、そのうえで自分が好きだと思う焼き方で焼き芋を作るようにしましょう。
均一に焼く
さつまいもを一定の感覚で転がすことで、焼きムラを防げます。片面だけを焼いた状態で置いてしまうと、焼きムラができたり、局所的に焼けすぎたりしてしまうでしょう。定期的にさつまいもを転がし、全体が均等に焼けるようにしましょう。
なお、焚き火の中にさつまいもを埋める作り方は、できるだけ避けることを推奨します。火力が強すぎると、さつまいもが内部から焦げてしまう可能性があるためです。
おいしいのはどれ?焼き芋を3種類の作り方で味くらべ
今回は、焚き火・ダッチオーブン・石焼きの3種類の方法で焼き芋を作り比べました。焼き芋がおいしくなるメカニズムをふまえて、実際に焼いてみます。
焼き芋には、安納芋(あんのういも)や紅あずま、金時(きんとき)などの品種が適しているといわれています。今回は金時でためしてみました。温度計はダッチオーブンのみに使用しました。温度計がない場合は、60〜70度の温度帯をできるだけ保てるよう、すこしずつ温度をあげていくことがポイントです。
焼き芋の作り方①焚き火で直接あぶって焼く
【用意するもの】
- アルミホイル
- さつまいも
- 新聞紙
【手順】
- さつまいもを水でよく洗い、表面の汚れや土を取り除く
- さつまいもが湿気を保てるように、洗ったさつまいもを新聞紙で包む
- 包んださつまいもを水で濡らし、軽く握って余分な水分を落とす
- 濡らした新聞紙で包んださつまいもをアルミホイルで包む
- アルミホイルで包んださつまいもを焚き火の近くに置いて熱を通す
- 竹串や爪楊枝をさつまいもに刺して、スムーズに通れば火から離す
焚き火でおいしく焼くコツ
焚き火でおいしく焼くためには、さつまいもの大きさや形状に気をつけましょう。大きすぎるさつまいもは中まで熱が通りにくい傾向があります。また、不均一な形状のものは一部が焦げやすくなります。同じ大きさで形状の整ったさつまいもを選ぶと、均一に焼き上げられるでしょう。
焚き火で焼き芋を焼く場合は、酵素が活発に活動する60~70度の温度帯で、長い時間をかけて焼きましょう。ほくほくとした甘い焼き芋ができます。火に直接入れずに焼き網などで移動させながら、少しずつ熱を通すようにするのがポイントです。
焼き上がりの目安
焼く時間は、60〜70度の温度帯で1時間ほどが理想です。焼き上がったら、甘くて香ばしい香りがしてきます。焼き上がったばかりのさつまいもは、外側が少し焦げた感じになることがありますが、これが特有の香ばしさを生み出しています。竹串がすっと刺さる程度の柔らかさがおすすめです。
焼き芋の作り方②ダッチオーブンで焼く
【用意するもの】
- さつまいも
- ダッチオーブン
- 温度計(あればで可)
【手順】
- さつまいもをよく洗い、泥や汚れを取り除きます。
- 洗ったさつまいもをそのままダッチオーブンに入れ、フタをします。
- オーブンを中火に設定し、さつまいもが柔らかくなるまで約45分~1時間焼きます。
- 竹串がスムーズに刺さることを確認したら、焼き芋の完成です。
ダッチオーブンでおいしく焼くコツ
ダッチオーブンの場合は、蒸し焼きにならないようにフタを少しあけて、蒸気を逃がしながら焼くことがポイントです。また、できるだけ長く60〜70度の温度帯に保つことが大切です。
焼き上がりの目安
ダッチオーブンは、ほかの焼き方に比べて早く焼き上がります。そのため、すこし火から離し、時間をかけて熱を通すことがポイントです。竹串を刺してみると、焼け具合がすぐにわかるでしょう。
焼き芋の作り方③鍋に石を入れて焼く
最後に、石焼き芋について説明します。
【用意するもの】
- さつまいも
- 寸胴鍋
- 小石(河原や海岸にあるもので可)
【手順】
- 寸銅鍋に石を敷き詰めます。鍋の底を完全におおえる量の石を用意しましょう。
- さつまいもを洗い、泥や汚れを取り除きます。
- 洗ったさつまいもを石の上に置き、鍋にフタをして中火で加熱します。
- 焼き上がったさつまいもは、熱いうちに鍋から取り出し、数分間置いて蒸らします。これにより、中の蒸気が均等に行き渡り、さらにふっくらとした食感になります。
おいしい石焼き芋にするコツ
石焼き芋の場合も、60〜70度の温度帯でじっくりさつまいもに火を通すのがポイント。温度帯をしっかりと管理することで、甘くておいしい焼き芋になりますよ。
焼き上がりの目安
焼き時間は、1時間〜1時間半が目安です。ダッチオーブンに比べて、ゆっくりと温度が上昇していくため、この程度の時間がちょうどよいでしょう。石焼きの場合も、竹串などを刺すことで焼け具合が把握できます。
判定!甘くておいしい焼き芋はどれ?
上記の画像は左から順に、石焼き・焚き火・ダッチオーブンです。3種類の方法で作った焼き芋の味を筆者が独断で判定しました。
1位 石焼き芋
石焼き芋がいちばんしっとりとしていて、甘味が強いと感じました。おそらく、石からゆっくりと熱が伝わり、酵素が活発にはたらく温度帯を長時間キープできたからでしょう。石焼き芋がなぜこんなにも人気なのか、今回の検証ではっきりと理解できました。
2位 焚き火で直接あぶって焼く焼き芋
1位の石焼き芋よりも、甘味がやや少ないと感じました。しかし、ダッチオーブンで焼いたさつまいもよりも格段に甘く、非常においしい印象です。
3位 ダッチオーブンで焼く焼き芋
見た目がいちばん焼き芋らしいダッチオーブンは、あまり甘くないという判定結果でした。どのような食材もおいしくする魔法の鍋だと思っていたため、この結果は意外です。
熱伝導性が高い鋳鉄製(ちゅうてつせい)のため、さつまいもに早く熱が通ってしまうことが要因だと思われます。ダッチオーブンでは、酵素の活性が高くなる60〜70度の温度帯に保つのが難しいのでしょう。なお、ダッチオーブンに小石を入れて焼いた場合も、同様の理由からそれほど甘くなかったと考えられます。
ほかにも以下のような記事があるため、気になる人はぜひチェックしてください。
焼き芋におすすめのさつまいもの種類
さつまいもには様々な種類があり、その中には焼き芋に適した種類とあまり適さない種類があります。また、焼き芋に適したものの中でも、それぞれに適した焼き方や調理法が存在します。
例えば、ホクホク系のサツマイモはアルミホイルでつつみ、ホクホクとした食感をさらに強化させることで、芋らしさを感じることができます。一方ねっとりとしたサツマイモは新聞紙でつつみ、とろけるような状態にすることで、スイーツのような甘さを感じることができます。
もちろん好みや気分などに応じて適材適所で選ぶことが重要ですが、ここでは、中でも焼き芋におすすめのサツマイモの種類について紹介します。
安納芋(あんのういも)
安納芋は、濃厚な甘み・しっとりとした食感・カロテンによる独特の風味から、幅広い年齢層で支持されています。当初は、鹿児島県の種子島(たねがしま)でのみ生産されていました。現在では、日本各地で栽培され、多くの人々に愛されています。
小さめのサイズは糖度が高い傾向があるので、焼き芋にぴったりです。手ごろな価格で購入できるため、日常の食卓にもおすすめです。
紅はるか(べにはるか)
紅はるかは、しっとりとした独特の食感と豊かな甘さで、焼き芋ブームを牽引(けんいん)した品種です。この品種の特徴は、適切な熟成と焼き方によって、皮までトロトロに仕上がり、甘みが増す点です。
数ある品種のなかでも糖度が非常に高いため、冷やして食べてもその甘さを十分に堪能できます。
紅あずまシルクスイート(べにあずまシルクスイート)
紅あずまは、関東地方を中心に栽培されている伝統的な品種です。黄色い果肉は、加熱するとほくほくとした食感を生み出します。また、繊維質が少ないため食べやすいのも特徴です。しっかりと感じられる甘味があり、上品な味わいを満喫できるでしょう。
焼き芋にすると、ほくほくとした食感と甘みがより一層引き立ちます。