※当メディアはAmazonアソシエイト、楽天アフィリエイトを始めとした各種アフィリエイトプログラムに参加しています。
今やスケートボードスクールは全国で盛んに行われています。その中でも中坂さんのスクールは、規模は小さいながらも有名選手を複数輩出し、県外から足繁く通う人もいるほどです。今回の取材では、中坂さん流育成メソッドを深堀りしました。

理学療法士になり動作を分析できるように

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ー今回もまずはインタビューに際して簡単な自己紹介からお願いいたします。
中坂優太です。年齢は36歳でスケート歴は22年です。現在の活動はスケートボーダーとしてなるべく現役で活動しながら、理学療法士として病院にも勤めています。

特徴としてはスケートボードと理学療法双方の知識と経験を融合させた独自理論のスクールを行ったり、運動学に基づいたオリジナルシェイプのデッキ開発、さらにPCIS(Physical Care Insol Skateboarding)という名前でオーダーインソールも作っています。

その他にも静岡県スケートボード協会運営に携わりながら、イベントの運営やコンテストジャッジなんかもしながらシーンの底上げをしています。

ースケートボードスクールのコーチと理学療法士、どちらの方を先に始められたのですか?

コーチが先です。以前は動作が物理的に分からず感覚的な部分に頼っているところがあったんですが、理学療法士になってからはその動作からなぜメイクできないのかが分析できるようになったので、教えるスキルも格段に上がりました。

人には動きの癖があって、その癖の原因はさまざま。できない動作がある場合は、そこにダイレクトに直結する運動を促して覚えてもらったりもしてます。一見、スケートボードに関係ないような動きでも、ものすごく重要な動作はたくさんあるんです。

 

“心技体調”を学んで気づいたコンディショニングの重要性

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ープロスケーターだったことが理学療法士に、理学療法士であることがコーチングに活きる部分はあると思いますが、両方やっていて良かった点はありますか?

プロスケーターからは”心技体”を学び、理学療法士からはそれらに加え”調”を学びました。調という言葉は聞きなれないかと思いますが、これは調整の調でコンディショニングです。上手くなればなるほど、これができないと身体が潰れてしまいます。

痛くない時は気づかないですが、関節への小さなストレスの蓄積が障害に繋がってしまうんです。これで実際に自分は潰れかけました。足首、 膝、腰がとにかく痛かった。今はトレーニングでもたせてますけど、痛みとは常に隣り合わせなので気を抜くとヤバいです。

ケガでスケートができなくなったという友人も何人も見てきたので、今の若い子にそれを本当に伝えたいです。今の世代の子は大きなセクションを使ったトリックをするので、身体への負担は本当に大きいんです。

“上手く”なるためのロジックを意識したコーチング

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ーでは、中坂さんの理学療法士の資格を活かした教え方とはどんなものなのでしょうか?

まず総括的なことからお話すると、年齢は関係なくスキル別で対応するようにしています。同じくらいのレベルの子と一緒に滑る形式の方が、教える方も習う方もメリットは間違いなく大きいので、事前予約制にして新規の子はレベルを聞いて、合わせていくようにしているというのがひとつ。

あとは年齢や運動能力によってそれぞれ個々に上手くなるためのロジックが存在するので、そこは意識して教えるようにしています。

例えば、オーリーを高くしたいと言っても、そもそものジャンプ力や高く飛ぶためのフォームがとれていないと高く飛ぶことはできません。そういった時はスケートボードのトリックとは関係ない動作でも段階的に教えるようにしています。

ーその上手くなるためのロジックとはどんなものなのでしょうか?

すべての人に共通して行なっていることは、

「運動スキルの見極め」→「本人のhopeを聞く」→「needを考える」

ということです。

まずはスケートボード以外の運動からその人の運動スキルを見極めます。そこから本人のやりたいトリックを聞いて、そこに近づけるための練習内容を判断していくんです。ここがいかに的確であるかがスキルアップへの近道になります。

これはほんの一例ですが、最近教えた子で初めてトレフリップに挑戦して、その日にメイクした子がいました。スケートボードをする前にその子のジャンプ動作を見て、「今日乗れちゃうな」と思ったので1時間半みっちり練習しました。

結果、3回もメイクしたんです。この瞬間はお互いにとって最高な時間になりました。

 

基礎運動能力を高めつつフォームを事細かに指導

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ーその1時間半の練習の中身に理学療法士であるが故の特徴はないのでしょうか?

もちろんありますよ。フォームを細かく指導しました。ここは理学療法士として運動のプロである以上、すごく詳細なところまでこだわっています。

狙ったトリックがメイクできない場合、ボクができるようにするための仮説を立てアドバイスをします。そこを本人がどう解釈して、どう考えているのか表出してもらい実践していきます。

ハマればそこで直ぐにメイクするし、ハマらなければまた新たな仮説を考えてメイクを近づけていきます。感覚的なものを言葉に出して伝えるので、本人の注意が向きやすくなり、とても良いことだと思っています。

もともと、そういう意識が人間の運動を成立させているので注意力も上がります。そこに細かい関節の動きを頭で理解させる運動学習なども取り入れて、基礎運動能力を高めていくことを考えています。

トッププロ選手や上手い人には動きの共通点があるんです。それは”軸がしっかりしている”こと。何をもって軸なのかは専門的な話なので割愛しますが、これは初心者はできていないんです。

オーリーの高さやキックフリップ、トレフリップがメイクできない人はまさにこれができていません。その動作が無意識に出てくるようになれば話が早いんです。その動きを一早くできるようにするためのアドバイスは自分にしかできないことだと思っています。

 

褒めすぎないことの重要性

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ー運動学とは違った側面で気をつけているところはありますか?

褒めすぎないことですかね。よく褒める子は伸びると言いますが、自分はそうは思いません。褒め過ぎてしまうと褒められることがゴールになってしまい、そこで満足してしまう子が多いです。

本来はその先が重要なのに1回のメイクだけで終わってしまうなんて、成長を止めているようなものです。だから褒めるのは1回、あとは”認める”ということを意識しています。

「できてたね!!」と、そのままを言ってあげればいいんです。

 

運動学論文を読み実践してスケートボードに活かす

中坂優太(プロスケーター / 理学療法士)

ー確かにそう言ったメンタル面も指導においては大切ですよね。ところでスクールを行う上で参考にしている人やモノはありますか?

運動器疾患に関する本や論文はすごく参考にしてます。そこから動作の根拠を知ることがとても勉強になります。自分が良いトレーニングだと思っていても、研究によってはそうではない場合もあったりしますから。

何を信用するかはいろいろな論文を読み、自ら実践してみて、その上でスケートボードではどんな動きに活かせるのか、応用できるのか、必要なのかをいつも考えてます。

トレーニングはInstagram( @nakasaka )でもちょこちょこアップしているのでチェックしてもらえたら嬉しいです。

あとはスケートボードと直接関係することではないのですが、他のプロスポーツ選手をサポートしている人の話はすごく参考になります。

スキル以外のところでも、栄養管理とかが身体の不調の原因だったりもするので、決してスケートボードだけに原因があるわけではないんですよ。

それこそ栄養面を根本的に見直すことが必要だったりすることも多々あるので、身体のことは総合的な視点でみることが本当に大事なんです。

Profile:

中坂優太(なかさか ゆうた)
1984年2月24日生まれ。静岡県浜松市出身。スポンサー:NESTA BRAND、éS skateboarding、the bearings、excellent、PCIS、S.L. PARK

複雑な回し系のトリックを得意とし、数々のビデオでスキルフルなライディングを披露している他、「éS Game of S.K.A.T.E.」では2年連続で優勝するなど、テクニカルスケーターの代名詞として活躍。現在はプロスケーターとして活動しつつも、理学療法士として身体に向き合う日々を送っている。またケガの予防を目的としたPCIS(インソールメーカー)の代表も務めている他、浜松市のS.L PARK、静岡市のf2O parkでスクールを行い、日本代表候補に選ばれる選手などの育成にも携わっている。

 

【中坂優太】プロスケーターから理学療法士へ〜論理的スケートボードスクール取材記①〜

【中坂優太】プロスケーターから理学療法士へ〜論理的スケートボードスクール取材記③〜

スケートボードのプロとしての経験さらには理学療法士としての知識を兼ね備えた中坂さんだからコンディショニングの重要性が理解でき、より上手くなるためのロジックを立てることができると言えます。さらにメンタルにも配慮した指導なのですから、遠方から通う人がいるのも納得です。最後となる次の記事では、スクールを発展させた先にある今後の展望に加え、スクール出身者からの声も交えてご紹介します。

ライター

吉田 佳央

1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。フォトグラファー兼ジャーナリストとして、ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。