デフリンピックへの種目採用を目的として、今年新たに立ち上がった日本デフスケートボード協会。協会へのインタビューに続き、選手編として、協会に名前を登録しているスケートボーダーを紹介していきます。まずはストリート種目を専門としている、小学6年生の実力派スケーター寺澤凪琉(テラサワナル)さん。好奇心とろう者というハンデをもろともしない努力で実力を積み上げてきた、大人顔負けの考えを持つ彼のインタビューをどうぞ。
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「ろう者同士の練習が楽しかった」手話で開かれる若きスケーターの未来

周藤煌海選手と手話で楽しげに会話する寺澤凪琉さん
ースケートボードを始めたきっかけを教えてください。
同級生の周藤煌海(すとうこうき)君というバーチカル※とパークスタイルのデフスケーターが誘ってくれました。 耳が聞こえない同士で一緒に練習し合えたのがすごく楽しかったです。「Flake Cup(フレイクカップ」を目指してお互いミニランプを滑っていた頃はとにかく2人で滑ることに夢中でした。
その後、煌海君はバーチカル、僕はストリートに専念するようになって、別種目になってしまいましたが、たまに煌海くんと会って話をするのは楽しいです。
※バーチカル…垂直ランプを使った空中トリック中心のスケートスタイル
幼少期で「レールがやりたい!」とストリートを選択

静岡市に住む寺澤凪琉さんは小野寺吟雲選手も通うF2O PARKでもよく練習している
ーストリートを専門にしていますが、なぜこちらを選んだのですか?
5歳頃の話なので、実はあまり記憶にないんですけど、レール※をやりたいと父に話していたみたいです。当時は岐阜県の関市にある「All Under City」というところに通っていて、そこでレールを攻める先輩がすごくカッコよく見えたみたいです。
※レール…スケートボードで技をかけるための鉄パイプやバー
ー好きなスケーターを教えてください。
小さい頃はナイジャ・ヒューストン選手に憧れていました。2020年に愛知の常滑市で行われた国際大会の「CHIMERA GAMES」を見に行ったのですが、その時に優勝した姿がすごくカッコよくて。当時は彼のタトゥーも真似して腕に書いていましたね(笑)
最近だと小野寺吟雲選手に憧れています。というのも、今住んでいる静岡市の「F2O PARK」によく滑りに来るんですよ。そこで何度か一緒に滑らせてもらって、それだけですごくうれしかったのですが、それ以上に滑りがスゴくて、今は少しでも近づけるようにテクニカルなトリックを磨いています。
積極的に聴者の輪に飛び込むようにしている

どこへ行ってもアウェイになるから積極的にコミュニケーションを図っている彼の言葉には考えさせられるものがある
ー普段はどういう練習をしているのですか?
聴者(耳が聞こえる人)たちと一緒に滑っています。練習中は、聴者もろう者も変わりません。
自分が意識しているのは練習後ですね。聴者が皆でスケボーの話とかをしていれば、その輪の中に飛び込んで会話の内容を動作や口の動きから理解して、吸収するようにしています。会話の内容を理解できた方が楽しいので。
ーそのような努力もされているのですね。
自分は100%耳が聞こえません。ぼんやりとでも聞こえるなら多少変わってくるとは思いますけど、基本的にどこへ行ってもアウェイになってしまうので、自分だけ浮いてしまう感覚になることがあります。
だからこそ自分から積極的に近づくことで、周りの人達に理解してもらうというか、そうして少しずつ人間関係を築くようにしています。
音で掴めない分、身体でタイミングを覚える

以前は苦労したと話すミニランプも今やかなりのスキルに上達
ー練習での苦労はありますか?
自分は聴者(耳の聞こえる人)と違って、音のリズムで感覚を掴むことができません。たとえば、スケートパークに行ってバンク※のどこで跳び上がるかというところも、他の人ならドロップインの音やセクションに入った音などから感覚を掴むところもあると思いますけど、自分は見て判断するしかありません。
聞こえない代わりに、まずは場所を見て覚えることをルーティーンとして繰り返しやっています。そこからトライして身体にタイミングを覚えさせるので、慣れるのに時間がかかります。
※バンク…傾いた坂道のセクション。技の助走やジャンプに使う
ーでは、その「音」で苦労した体験談はありますか?
ミニランプですかね。6歳くらいの頃なんですけど、聴者の先生に教えてもらう時は音で判断するシチュエーションもあります。たとえば、ミニランプはある程度リズムが必要で、特にコーピング※に当て込むトリックは、トントン、カンカンといった音のリズムで覚えるみたいなところがあります。
他の人なら感覚で理解できても、自分はわからないので何度も繰り返してタイミングを覚えるしかありません。そこは大変だなと思いました。
※コーピング….ランプのふちにある鉄パイプ。技をかける部分
ーそれでも聴者と同じ舞台でコンテストに出ているのはすごいですね。
ありがとうございます。ただ、自分は1ヶ月くらい前から現地に行って身体を慣らしています。ろう者をハンデと捉えているわけではないですけど、他の人よりも努力しなきゃ戦えないんだと言い聞かせているのかもしれません。
セクションの配置とクセを理解して、どういう作戦を立ててルーティーンに落とし込むかまでやっています。これは耳が聞こえる聞こえない関係なく、性格もあると思いますが、そこまでするから同じ舞台で滑れているのかなと思います。
滑るモチベーションはトリックの初メイク

デモンストレーションで魅せる寺澤凪琉さん
ーこれまでのスケートライフで最も印象に残っている出来事を教えてください。
コンテストでは、「Flake Cup」で3位を取った時のことが一番記憶に残っています。トリックでは、ショップ主催のコンテストでフロントサイド180ノーズグラインドができたことです。
この時は、ラン2本、ベストトリック3本のルールで、ランが終わった時点で6人中4位。このまま終わる焦りもあリましたが、挑戦して、成功したことで逆転して2位になれました。あの時の喜びと達成感は、今でもはっきりと覚えています。
大きいレールにチャレンジするときは、意識を持っていくのにすごく時間がかかりますし、恐怖心との戦いでメンタルに左右される部分も大きいです。しっかり気持ちを整えてから臨まないといけないので、そこで自分に勝てたのはよい経験になりました。
「ワールドデフトリプル S ゲームズ」に向けて

この日はミニランプでキックフリップ・バックサイドテールを披露
ー「WORLD DEAF TRIPLE “S” GAMES」へ向けた意気込みを聞かせてください。
もちろん優勝を目指してがんばりたいと思います。ルールはオリンピックと同じなので、ベストトリックでキックフリップ・バックサイドテールスライド、バックサイド270・ボードスライド、トレフリップ・フロントサイドリップスライド※をメイクしたいですね。
会場も、千葉にあるスケートパーク長南に決まっているので、今まで通り、1ヶ月前から通って会場に慣れて、自分のベストが出せるようにしたいです。後はスケーターであるなし関係なく、海外のろう者の人達に会うのも初めてなので、よい交流の機会にしたいと思っています。
- キックフリップ・バックサイドテールスライド:背中側にある対象物に対して、つま先でボードに縦回転を加えながら後端を掛けて滑らせるトリック
- バックサイド270・ボードスライド:お腹側にある対象物に対して背中側に270度周り、ボードの中央部分を掛けて滑らせるトリック
- トレフリップ・フロントサイドリップスライド:お腹側にある対象物に対して、ボードを縦横共に1回転させながら中央部分を掛けて滑らせるトリック
まだまだデフスケーターの認知度は低い

デフスケーターの認知度を上げ、ロールモデルを作っていくのが彼の目標だ
ーデフコミュニティから見て、今の社会をどう思いますか?
今は目が見えない盲者のスケーターもいらっしゃいます。それらはよく取り上げられますが、我々デフスケーターになると認知度がかなり下がるように思います。
それはルックスが聴者と変わらないので、見ただけでは違いがわからないのが大きな理由ではないかと思います。だからこそ、音から得られる情報がない中でスケートボードをすることがどれだけ大変なのかを、伝えられる場があればいいなと思っています。
ー具体的にはどのようなことを望んでいますか?
聞こえなくてもスケートボードを楽しむことはできます。
ですので、たとえば大会やイベントにおいて、情報保障がどのような面で必要になってくるか意見の交換をした上で、最終的にろう者も聴者と同じ情報量を得られる場ができていけばよいなと思っています。
デフスケーターとして世界を目指したい

将来の夢はろう者としてプロスケーターになること。前人未到の道を切り開けるか。
ー今後デフスケート、並びにスケートボードシーンはどうなっていってほしいですか?
いつも通っているスケートボードパークで、友達と手話でおしゃべりできたらいいなと思っています。今はスマホで文字を打ったり、ボディランゲージで伝えたりしているのですが、深く話せない部分もあります。
だから、自分が聴者の友達に手話を教えたいと考えています。手話が広まることで、コミュニケーションをとりながら、お互いにトリックを教え合えるような場を作っていきたいです。
ー将来の目標や夢をお聞かせください。
もちろんプロスケーターになることです。簡単ではないですし、本当に大変なことですけど、がんばりたいです。ナイジャ・ヒューストン選手のモンスターエナジーや、堀米雄斗選手のレッドブルなど、スケートボード枠を超えたブランドのチームに入って活躍するのが夢です。
同じ障がい者にフェリペ・ヌネズ選手というハンドスケーター(足がないスケーター)がいるのですが、彼はモンスターエナジーのライダーとして活躍しています。ただデフスケーターでそのような人物はまだいないので、自分がロールモデルになれたらよいなと思っています。
ー応援してくれる家族や友人への感謝の気持ちをお聞かせください。
自分は友人(周藤煌海君)からの誘いでスケートボードを始めて世界が広がっていきましたし、両親はいつも遠いところまで送り迎えをして支えてくれているので、本当に感謝しています。
あとは、まだスケートボードをやったことがない人がいれば、ぜひ楽しさを知ってもらいたいです。最後まで読んでくれてありがとうございました!
デフ(Deaf):耳が聞こえない人
ろう者:手話を必要とする耳が聞こえない人
聴者:耳が聞こえる人
情報保障: 身体的なハンディキャップにより情報を収集することができない者に対し、代替手段を用いて情報を提供すること
ストリートが専門の小学校6年生。小学校3年生の頃にFlake Cupのキッズクラス(小学校3年生以下)で3位に入賞。ショップ主催のローカル大会では1位や2位を多々獲得。スポンサーはTriple Eight、その他のギア関係はCharlie Tradingからサポートを受けている。
▼パークスタイル選手のインタビューはこちら
ライター
吉田 佳央
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。フォトグラファー兼ジャーナリストとして、ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。