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国際舞台における日本人選手の強さ。建設が相次いでいるスケートパーク。着々と環境整備が進む日本のスケートボードシーンにおいて、各地で話題となり始めているのが「部活化」です。そこで全国に先駆けスケートボード部を設立した開志国際高校を取材しました。顧問の先生にお話を伺う後編では、入学から卒業後の進路までの育成についてお伝えします。

 

開志国際高校
【開志国際高校 取材記①】全日制のスケートボード部ってどんなところ?顧問の先生に聞いてみた~前編

 

職業体験を通じていろいろな世界を知る

開志国際高校

もともとはアメリカの大学の日本校があった場所。より自由な雰囲気が感じられる校舎だ。

ーパート2もまずは自己紹介からお願いします。

横山幹雄です。年齢は58歳。新潟県長岡市出身。中学校の教員、メンタルコーチを経て、開志国際高等学校に勤務しています。7年前からスノーボード部・スケートボード部の顧問を担当しております。専門は体操競技ですが、アルペンスキーやクロスカンスキーなど、さまざまな部活動指導の経験を活かして取り組んでいて、学校では主に、事務に関する仕事をしています。

ー前編では、開志国際高校の特徴や、スケートボード部創設の経緯と活動内容について伺いました。後編では、まず過去の卒業生の進路から聞かせてください。

卒業生の進路は 大学進学、専門学校、就職、働きながら競技を続けるのいずれかでした。高校卒業後も競技を続ける場合は、大学に進学するか、オフシーズン働いて冬季練習をするか、国際スケートボード&スノーボード専門学校になります。

ー卒業後の選択肢を増やすために工夫していることを教えてください。

これは平野英功さん(ソチオリンピック銀メダリスト平野歩夢選手の父親)もよく言われていたのですが、スケートボードやスノーボードをやっていた子たちが、将来それらを職業にできるような社会を作っていきたいと。これは業界全体で取り組んでいかなければ実現できないことだと思います。

例えばスノーボード部では、年末と3月に2週間くらい青森に行き、リガーというジャンプ台のパイプを組む仕事を教わりながら、働くことについて学ぶ職業体験を行っています。このような将来の選択肢を増やす経験は、高校生という年代にはとても重要です。

自分の将来をきちんと考える機会を作れば、大学にも行けるし、競技に付随する職業にも就ける。そうやって幅を広げていかないと、業界はなかなか発展していかないと考えています。

ースケートボード部ではどのような職業体験をされているのですか?

スクールの指導や大会の役員を通して、運営側のさまざまな仕事を体験することができます。少しでも将来に繋がるよう、生徒たちにいろいろな経験をしてもらうことが大切かと。これはスケートボード部の活動として、今後取り組んでいかなくてはならない部分です。

 

開志国際高校に入学するには?

開志国際高校

アスリートコースを希望する場合は、中学校の学習成績や競技成績を総合して判断される。

ー開志国際高校には、スケートボードの推薦入学はあるのですか?

開志国際高校は基本的に推薦入学です。もちろん専願試験や一般試験もありますが、入ってくる生徒はごく僅かです。アスリートコースは、学校推薦と自己推薦で受験する生徒がほとんどです。

ー推薦入学の場合、学費や部費はどのような扱いになるのでしょう?

推薦入学と学費等の免除とのつながりはありません。学費を一部免除する特待生度が あります。部活動費には、学校からの活動費と、部活動で集める活動費があります。

他の部活とスケートボード部を比べると、どのような違いがありますか?

他の部活は、顧問と指導者がしっかり付いていて集団で活動しています。スケートボード部に関しては、どちらかというと大会も含めて個人で動くことが多いです。もちろん普段の練習ではまとまって活動していますが、学校単位で動くことはまずありません。

基本的にスケートボードは個人競技なので、例えば誰かが全日本選手権で入賞したとしても、“〇〇高校の〇〇選手”と、所属している学校名まで載ることはほとんどないです。

ー確かにスケートボードの世界ではそれが当たり前でしたが、他のスポーツからしたら異質に見えるのかもしれませんね。

他のスポーツだと学校のトレーニングウェアを着て、みんなで汗をかいて泥にまみれて練習します。そんな中、私服のような格好で寮から出ていくので、良く言えば自由で先進的ともとれます。

 

社会的認知度を上げるためには

開志国際高校

開志国際高校がスポーツで築き上げた実績がズラリ。スケートボードがインターハイ種目になれば、こういったところからも社会的認知度を高めることができる。

ーでは今の日本の部活動についてはどうお考えですか?

スケートボードに限った話ではないのですが、部活全体を見渡しても、スケートボードやスノーボードには、高校生のための大会がありません。でも他の部活には全てインターハイがあるんです。

正直なところ、ここがなかなか地域的にも部活として見られない要因に感じるので、大会を作れたらなという想いがあります。

ちょっと質問とは答えの方向が違うかもしれませんが、でもこれは私のひとつの夢というか、今この立場にいるからには実現させたいことのひとつでもあります。そうなれば社会的認知度も格段に上がると思います。

ー実現するために必要なことは何でしょう?

もちろんそのためには相応の競技人口が必要です。スケートボード部に関しては、スクールの参加人数などを見ても可能性はあると感じています。高校の部を作れば、実現できるくらいの人数になっていくと思います。

小学生と大人が一緒になって競う今のコンテストの雰囲気も、それはそれですごいことです。全日本選手権に出て入賞するのも素晴らしいですよね。

でも大学に進学したり、海外の大学へ留学したりする場合には、学校での大会実績がないと推薦で入るのが難しい現実もあります。そういう競技としての下地ができてくると、もっと世の中に広がっていくと思います。夢のような話ではあるのですが。

 

あくまでも部活は学校教育

開志国際高校

施設への挨拶や掃除。学校教育のひとつでもある部活動はこういったところも重要になる。

ーオリンピック競技にもなった今、業界が目指すべきひとつの目標でもありますよね。

はい。今はまだその前の“全国各地にスケートボード部を作ろう”という段階なので、先は長いです。ただ全国各地に競技施設、いわゆるスケートパークができ始めていることは、すごく良い傾向です。

ここも村上市スケートパークという、立派な施設があるおかげで成り立っているところも否定できません。部活を作りたくても、施設がないと何も始まりませんから。

言い換えると、地域に施設があれば、部活動の民間委託が進んでいき競技人口も増加していく。今の時代なら可能性はあると思います。

ースケートボード部の設立を考えている全国の学校施設関係者の方々に向けて、経験者として何かアドバイスやメッセージはありますか?

先ほども言ったように、施設があって指導者がいることが大事だと思います。厳密に言えば、指導者が絶対必要というより、学校教育としての指導ができる教員の存在が重要です。勝手に行って練習して帰ってくる形では、そもそも部活として成り立ちません。

時間を守りなさいとか、礼儀や挨拶を、部活動の中できちんと教えられる人がいるかどうかです。学校全体で言えば校則も当てはまります。そこが指導できないと学校教育として成立しませんので、指導者は必要です。

特に全日制の高校の場合は、そこも授業の一環と言えます。なくなったらただの民間のクラブになってしまいますから。

技術的なところは外部の講師を招いて、こちら側が上手く連携をとっていけば良いので、あとはいかにハンドリングして進めていくかだと考えています。

 

勉強との両立には最適な選択肢になる

開志国際高校

ースケートボードをしていて進路に迷っている子どもや、その親御さんたちに対して一言お願いできますか?

実は、そういった進路の相談は何人も来ています。全日本で活躍している、または世界にも出ている選手の中には今や中学生もいる。そういう子たちは、スケートボードで結果を出すことが一番で、ご両親にとってもスケートボードの環境が全てなんです。そこを求めて、開志国際高校を候補に挙げてくださる方もいます。

しかし今は、勉強と部活の両立をしてもらいたいと考える方もたくさんいます。将来の進路を考えると、「全日制でいろんな選択肢が欲しい。でもスケートボードで出来るところまでチャレンジしたい」という人のほうが当校に向いていると思います。

ー強化指定選手に選ばれて海外のコンテストに出ると、どうしても学校に行けない場合もあります。その場合はどう対応しているのですか?

出席できない時は、基本的に課題をやってもらいます。勉強は大事なので、ちゃんとやらないといけないんだ、という意識を常に持ってもらうようにしています。

学校が認める大会に出場する場合は、欠席ではなく出席扱いにできます。その際も、各教科から与えられた課題を提出する必要があります。

開志国際高校

実家のある茨城を離れ、新潟で寮生活を送る松本浬璃選手。開志国際高校には、彼のようなアスリートがスケートボード以外にも多数在籍している。

ー国際高校なので外国人留学生がいれば、医学科進学コースには勉強ができるエリートがいる。かと思えばアスリートコースには飛び抜けたスポーツの才能を持つ人がいます。ここまで尖った人材が集まる高校は珍しいですよね。

人は環境に適応する生き物ですから、尖った人が多くなれば、自然と尖った人間に育つものだと考えています。留学生との異文化交流や、トップレベルのアスリート、志の高い人たちとの交流は、いい刺激になると思います。

ー今までのお話を聞くと、開志国際高校は時代に合わせて生まれるべくして生まれた高校のように感じます。インタビューは以上です。どうもありがとうございました。

そう言っていただけて光栄です。こちらこそありがとうございました。

Photo by Yoshio Yoshida

開志国際高校
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顧問の先生のお話はいかがだったでしょうか。開志国際高校はスケートボード部のみならず、学校全体が個性豊かな生徒ばかりだなと感じた人も多いと思います。こういった特色ある高校は貴重な存在です。今のキッズスケーターが成長したとき、スケートボードをやめずに生涯スポーツとして続けることができるひとつの道標にもなるでしょう。パート3からは外部コーチとして関わっている平野英樹さんのインタビューをお届けします。

ライター

吉田 佳央

1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。フォトグラファー兼ジャーナリストとして、ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。