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予期せぬ熊との出会いは避けたいものです。しかし私は、熊と遭遇してから共存する意識が強くなりました。緊迫の恐怖体験をとおして、熊から身を守るために見直したことを紹介します。登山を安全に楽しむために、ぜひルールを再認識してみてくださいね。

【体験①】白神山地で予期せぬ熊との出会い

熊との遭遇体験

世界遺産の白神山地は、 青森県南西部から秋田県北西部にまたがる130,000haに及ぶ広大な山岳地帯で、手つかずの自然が残されています。世界遺産の径・ブナ林散策道は、所要時間約1~2時間のコース。気負わず散策できるので、観光客も訪れる場所です。

そのため、この地域一帯では、熊との遭遇確立が高くなるのは必然かもしれません。ところが、まさか自分が遭遇することになるとは思ってもいませんでした。

予定より到着が遅くなってしまったものの「まだ観光客もいるだろう」と甘く考えていました。今考えると、それが油断につながったのかもしれません。「せっかく白神山地に来たのだから、ほんの少しだけ行ってショートカットすれば大丈夫」と、無理に散策を強行しなければ、熊との遭遇を回避できたはずです。

私とパートナーは、人気のない道を歩いて行きました。そのときは不安よりも、世界遺産のなかを散策している興奮の方が上回っていたのです。

しばらく進み、水分補給のため立ち止まります。ガサガサと後ろのほうで音がしていた気もしますが、気分が高揚していたせいか気に留めていませんでした。歩きはじめて間もなく、横の茂みから登山道へ飛び出してきた黒い物体。それは、まぎれもなく熊でした。

私たちは無意識のうちに動きが止まり、襲われることを覚悟していました。パートナーの指示を仰ぎたかったものの、以心伝心「少しも動くまい」と、お互いにピタリとその場に立ち尽くすことで精一杯。

飛び出してきた熊は一瞬だけこちらを振り返り、人間がいたことに驚いたのか、そのまま斜面を駆け上がって行きました。

「助かった……」と力が抜けるのと同時に、熊の後ろあしのたくましさを見つめていました。

【体験②】沼ッ原湿原で熊の爪痕発見

熊との遭遇体験

沼ッ原湿原は、栃木県那須連山の西端に位置する標高1,230mの湿原です。私はそこで散策中に、ギョッとするものを発見しました。それは、遊歩道の案内板につけられていた、縦に5本の熊の爪痕です。付けて間もないような爪跡を見た瞬間、心臓が「キュッ」となりました。

気持ちのよい晴れた空の下、開放感にあふれた木道を歩いてリフレッシュしていたはずが一転。不安な気持ちになった瞬間です。

「まだ近くに熊がいるかも……」と考えると、一気に緊張感が漂います。白神山地での恐怖体験を思い出し、周囲に変化がないか耳を澄ませます。異変がないことがわかりホッとひと安心。

その爪痕を見て、改めてここが熊の生息地であることを実感していました。同時に、熊からの警告のような強いメッセージを感じていたのです。

一緒にいたパートナーは、群馬県と新潟県の境に位置する冬の谷川連峰「平標山」で、熊の足跡を目撃した経験があるそうです。「冬でも冬眠しない熊がいる」そんな話を聞いているうちに、恐怖心があおられて早々に退散することに。

周囲を見渡すと、道のわきには熊笹が生い茂っています。恐怖心に耐えられなくなり、話す声も大きくなっていきます。あと少しで駐車場……。すると急にパートナーが立ち止まり、熊笹の先の斜面を見上げて「うなり声が聞こえなかった?」と一言。

焦る私とは正反対に、異常なほど冷静です。「刺激しないように静かに立ち去ろう」という言葉をさえぎるように、私は足早に駐車場へと歩き出していました。

熊から身を守るために見直したこと

熊との遭遇体験

私は熊との遭遇体験で、自分の認識の甘さを痛感しました。そこで、安全に登山を楽しむために、あらためて熊対策を見直してみました。

  1. 存在を知らせる装備の準備
  2. 時間帯を確認する
  3. 周囲の状況に敏感になる

存在を知らせる装備を準備する

熊鈴は、人間の存在を熊に知らせる定番アイテムです。しかし、軽登山やハイキングコースのときには、気の緩みからつけ忘れていたのです。

私は、熊に遭遇してから必ず熊鈴をつけるようになりました。さらに、樹林帯などの視界が悪い場所では、ホイッスルを使用することも。事前に自分の存在を熊に知らせ、遭遇リスクを避けるように心がけています。

時間帯を確認する

熊が活発に活動する、早朝や夕方の登山は避けるようにしています。白神山地で熊と遭遇したのは、まさに夕方です。それからは、なるべく日中の明るい時間帯、人通りのあるコースを選ぶように変更しました。

周囲の状況に敏感になる

周囲の変化に敏感になることも大切です。登山道や木に新しい熊の足跡や爪痕を見つけたときには、近くに熊がいるかもしれません。藪がガサガサと揺れていないか、うなり声が聞こえないか警戒するようにしています。

熊の生息地を訪れているという緊張感は、忘れないようにしたいですね。

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熊との遭遇体験で学んだ共存意識の芽生え

熊との遭遇体験

じつは、自然のなかで熊の存在は、重要な役割を果たしています。熊と人間が共存していくために、まずは理解を深めることからはじめましょう。

  1. 熊の存在が必要な理由を考える
  2. 熊の生態や行動パターンを理解する
  3. 登山者が守るべきルールを再確認する

熊の存在が必要な理由を考える

熊は、山の生態系にとって欠かせない存在です。食物連鎖の頂点に立つため、捕食者となる熊は、ほかの動物の数を調整する役割があります。また、植物の種子を食べたり、運んだりする行動は、森の生態系バランスを保つ役割もあるのだとか。

上記のことを考えると、熊の存在は自然サイクルの一部といえるでしょう。山に入るときには、熊の生活圏であることを理解し、共存する意識をもつことが大切です。

熊の生態や行動パターンを理解する

熊との共存を考えるときには、生態や行動パターンを理解しておきましょう。本来、熊は臆病な生き物。そのため、熊は人間を避けて行動する習性があるようです。

ところが、春から秋にかけて、熊の活動は活発化します。早朝や夕方に行動することが多くなるため、遭遇リスクを減らす意識は欠かせません。万が一、遭遇した際には、落ち着いて行動してください。

刺激したり、慌てて逃げたりすることは避けてくださいね。熊は逃げているものを追う習性があることを覚えておきましょう。

登山者が守るべきルールを再確認する

熊と共存するために、登山者はルールを守ることが大切です。熊の生活圏を訪れているのは人間です。驚かせないように鈴やホイッスルを使い、存在を知らせるようにしましょう。

熊の嗅覚は、とても優れているといわれています。そのため、食べ物の臭いを求めて人間の活動域に近づいてしまうことも。野外で食事をするときには、食べ残したものは必ずもち帰るようにしてください。

また、熊の活動が活発になる季節や、時間帯を把握しておくこともポイント。遭遇リスクを最小限に抑えることにつながります。

出典:公益財団法人 尾瀬保護財団「ツキノワグマとの共存」

白神山地と沼ッ原湿原での体験は、恐ろしいものでした。ところが、この経験をとおして、薄れかけていた熊の存在を思い起こすきっかけになりました。熊との遭遇を避けるには、自分の存在を知らせる音の出る装備をそろえ、活動時間帯を見直すことが大切。また、周囲の変化に気を配り、常にアンテナをはっておきましょう。熊の習性や行動パターンを理解し、登山者としてのルールを守ることは、共存への第一歩となるはずです。

ライター

いさな(藤原 勇魚)

「登山へ毎日行くのは無理。でも自然を感じる暮らしがしたい!」そんな理由から、ウッドデッキの先に小さな森を作りはじめた。小さな森では、野鳥がさえずり飛び交う毎日。そして、果樹・野菜・植物が生きいきと育つ場所にもなっている。

「自然の豊かさ=心の豊かさ」を体感し、自然から得たシンプルで大切な気づきをkindle本で出版する日々。さまざまな視点で、自然から得られる学びについて発信していきたいと思っている。