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開催まで1年を切ったパリ五輪で、活躍が期待されるスター候補のひとり、スケートボード・女子パークの草木ひなの選手。パート1のインタビューでは、スケートボードを始めたきっかけから、全日本チャンピオンになるまでの軌跡を辿りました。今回のパート2では、世界へ出て感じたことや普段の生活についてうかがっています。

世界でも戦えることがわかった

草木ひなの スケートボード 

ーパート2もまずは自己紹介からお願いします。

草木ひなのです。スケートボード歴7年の15歳。主な戦歴は、全日本選手権2連覇と日本オープン優勝。パリ五輪の予選にあたる世界大会では、2度4位になっています。

オンラインでは、『Exposure X 2021 INDEPENDENT BEST VIDEO PART TRANSITION(※)』という国際大会の『14&UNDERクラス』で優勝しました。

ホームは茨城県つくば市にある『AXIS SKATEBOARD PARK』で、皆からは鬼姫と呼ばれています。

※参考動画

ー国内主要大会を3連勝した昨年の勢いのまま、今年の2月にUAEのシャルジャで開催された世界選手権では、初出場で4位という成績を残しましたね。

自分の滑りも少しは世界に通用するのかなと自信につながりました。昔から思い描いていた「世界一になりたい!」という夢が叶うかもしれないと感じられたのは、本当に大きな一歩でした。

ー世界選手権の手ごたえはあったのでしょうか?

自分の全てを出し切れたかと聞かれると、「もっとできたんじゃないか」という思いがあります。あの状況に置かれて、やりたいトリックをフルメイク(全て成功させること)ができなかったのは、メンタル面も含めてまだまだだなって。

実際、その後のアルゼンチンでも、自分のマックスは出し切れませんでした。

ー実力を出し切れなかったと感じた理由は何でしょう?

あの時は最後に540(ファイブフォーティ)をメイクしたんですけど、4秒ぐらい時間が余ってしまったんですよね。だからやりたい技ができたとしても、ルーティーンの構成や繋ぎ方は、もっと改善していく必要があると思っています。

ー技のルーティーンを組む時、誰かにアドバイスはもらうのでしょうか?

アドバイスはもちろんもらいます。アルゼンチンの時は、「ひなのはスピードしか取り柄がないんだから、とにかくデカいトリックやりな。あとはやりたい技で大丈夫だから」って言われました。

ーアドバイスを受けて気持ちの変化はあったのでしょうか?

アドバイスとしてはすごくシンプルだったんですけど、実際に言われると頭がスッキリするというか…。「確かにそうだよな」と納得できたので、そこからしっかり大会に入り込めましたね。

ただ、この時は調子が良かったのに、フリップインディが乗れなくて。今は2戦2敗という状態なので、3度目の正直で次こそはと思ってます。

ーということは、手応えは感じているのですね!

はい。やはりバックサイド540の高さは自分が一番だと思いますし、ロックンロールスライドも他の人より流せる自信があります。スピードは間違いなく私の武器ではないかなと。

でも、世界選手権を見てもわかるように、優勝したスカイ(ブラウン)ちゃんのフロントサイド540は、女子では彼女しかできないトリックです。フリップインディーももっているんですよね。

ー世界のレベルに追いつくために必要なことは何でしょう?

世界で勝つためには、今まで見せたことのない新しい技を入れていく必要があると思っています。もちろん、そのための対策や練習もしてます。良い感触もつかめているので、そこは期待してほしいですね。

 

トップオブトップと関わって得たもの

草木ひなの スケートボード 

ー世界に出て、更なる目標が明確になったようですね。他に世界を転戦するようになって感じたことはありますか?

コミュニティーの輪が広がりましたね。先ほどお話したスカイちゃんは、金メダリストの四十住さくらちゃんを通じて仲良くなったんです。そしたら世界のみんながどんどん話しかけてくれるようになりました。

ー世界の選手と交流するようになって変化はあったのでしょうか?

最初のドバイの時は、日本人選手といることが多かったんです。でも、アルゼンチンからは海外の選手と一緒にいる時間が多くなって、物事の捉え方や見え方が随分変わりましたね。

ートップ選手と普段も一緒にいるようになると、学びも多いですよね。

はい。コンテストに対する取り組み方を間近で見れたのが大きかったですね。

ー具体的にはどのような気づきを得たのでしょうか?

特に持ち技の隠し方ですかね。実は本番のルーティーンで何をやるかは、一緒にいても直前まで全くわからないんですよ。もちろん仲は良いですし、一緒に練習もしますけど。

そういう見えないところでの情報戦みたいなところも含めて、本番以外の過ごし方がわかったのは、すごくポジティブな要素ですね。

 

ケガとの戦いによる変化

草木ひなの スケートボード 

ー昨年は手首の骨折、今年は足首の靭帯損傷とケガが続いていますが、状態はいかがですか?

手首はアメリカに行った時に痛めてしまったんですけど、その時は日本の男子パークシーンでトップに立つ永原悠路くんもいたんです。そこで「俺なんて太ももの骨を折ってるんだから、手首ぐらい大丈夫だよ!」 と言ってくれました。

彼も以前、大腿骨を折っているんですが、今は何事もなかったかのように元気に滑っています。

ー仲間がケガから復帰して、活躍している姿は励みになりますね。

経験者の言葉や支えてくれる人がいるのは、本当に心強いです。それに手のケガなら滑れますし、変にかばって感覚がおかしくなるようなこともありません。

今は都内まで足を運んで、専門の先生に診てもらっているのですが、まだボルトが入っている状態なので、タイミングをみて抜く手術をしようと思っています。

ー足首のケガのほうはいかがですか?

足首は今年6月の頭くらいなんですけど、村上でフリップインディーをやった時にデッキが回らなくて、足の間に挟まってしまったんです。それでどうしようもなくて、そのまま流れに身を任せて落ちてしまいました。気づいた時にはうずくまっていて、痛みで全く立てなかったですね…。

ー大きなケガで不安もあったのでは?

ケガの影響で、カリフォルニアの『X Games』も辞退せざるを得ませんでした。スケートボードにケガはつきものとは言え、足首だと全く滑れなくなるので、そこが辛かったですね。

でも正直、それまでの結果が良すぎて、逆に怖かった部分もあったんですよ。「落ちる時もあるなら、また絶対立ち上がれるはず!」と切り替えることができました。

今はだいぶ回復したので、次のパリ五輪の予選大会は良いコンディションで出られると思います。

 

憧れの舞台で味わった大きな挫折

草木ひなの スケートボード 

今年のX Games CHIBAにて。自身のランが終わった瞬間の、さまざまな感情が入り混じった表情。Photo by Yoshio Yoshida / ESPN Images

ー15歳にしてすでにいろいろな経験をされていますが、今まで味わった最も大きな挫折について教えてください。

今年の『X Games CHIBA』の予選落ちですかね。予選落ちした経験は初めてでしたし、すごく憧れてた舞台だったので。

ー敗因は何だったのでしょう?

あの時は「ついに出られるんだ!」っていう気持ちも相まって、とにかくアガってしまったんです。それが焦りになったのか、悪い方向に転がってしまいました。

ルーティーンも完成させることができず、メイク率も悪いまま。ランが終わった直後は笑顔でごまかしてましたけど、内心は悔しくてたまりませんでした。

ー忘れられない経験になったのでは?

あの時は特設会場で滑ることも初めての経験だったので、今まで見えなかった課題が見えたんです。新たな課題の発見という意味では、すごく良い経験になったと思います。

ー特設会場だと練習時間が十分に取れないので、よりセクションへの対応力が問われますよね。

そうですね。私はルーティーンを組むのが上手ではないので、会場に慣れるのに時間がかかってしまうことがあるんです。

事前に会場が決まっていれば、通い詰めてセクションに慣れることができるんですけど。国際大会ともなると、必ずしもそういったケースばかりではありません。

ーどのように克服しているのですか?

今までは会場でいろんなトリックを、いろんなセクションでやってから、ノートに書き出していました。「ココならこの技ができる」「ココはこれだな」という感じで、どう繋げていくのが良いかを考えて、ルーティーンを決めていました。

最近は、その工程をいかに効率よく行うかに焦点を当てて取り組んでいて、適応能力を高めているところです。

ー課題が明確になると、より効果的な練習ができますよね。

セクションに慣れるという意味では、昔から癖の強いパークには連れていってもらってたんです。ただ、特設会場は全員が初めてで、同じ条件で滑ります。私の課題はやっぱり、総合的なルーティーンの構成力だと思っています。

今年の『X Games CHIBA』で優勝した開心那ちゃんなんて、練習を始めて10分くらいでルーティーンが決まってましたからね。

ーそれはスゴイですね。良い刺激になるのでは?

私も今やっている練習を積み重ねれば、もてる力を無駄なく発揮できるようになれると信じています。今の実力を冷静に見極めて、できるできないの線引きをしっかりと行なうことが重要だと思うんです。

キャリアがある人はどんな時も落ち着いてますし、合わせていくのが上手なんですよね。そういった冷静さは見習うべきところですね。

 

仲間の存在の大切さ

草木ひなの スケートボード 

草木ひなのの右隣に立っているのが、親友と話す原田結衣

ー普段はどのようなトレーニングをしているのですか?

ケガをしてからは、より念入りに筋トレやストレッチに取り組むようになりました。今は理学療法士さんに週6で診てもらいながら、下半身をメインに鍛えています。

ー特に意識していることはありますか?

ケガをするとその部分をかばって、逆足に負担がかかってしまうこともよくあるんです。その負担を和らげるためのストレッチを取り入れています。

あと、上半身は部分的に筋トレをしていて、身体全体の筋肉バランスを整えています。

ー自分の体と向き合うことも大切なのですね。

ケガをする前から、体のケアはしたほうがいいとは言われてたんですけど、私はそれ以上に滑りたい気持ちが勝ってたんですよね。

でも、自らケガを経験して、改めて健康体が当たり前ではないことに気づきました。体をケアすることの大切さにも気づけたのは、まさしくケガの功名と言えるかもしれません。

ー身体以外の部分で、メンタルのケアやリラックスしたい時は何をしているのですか?

ありがちかもしれないですけど、本を読んだり音楽を聞いたりですかね。最近は’00世代のラップバトルにハマってます(笑)。

あとは何といっても、友達と話すこと。原田結衣ちゃんや伊藤美優ちゃんはプライベートでも仲がいいんですよ。『X Games CHIBA』で予選落ちした時も励ましてくれましたし、そういう存在は本当に大切です。10年後も20年後も一緒にいたい人たちですね。

ーそういう仲間の存在は本当に心強いですよね。

はい。伊藤美優ちゃんは、去年の村上の全日本選手権の時に1ヶ月くらい共同生活をして、それで仲良くなりました。あの時はお互い優勝できたのもあって、最高に良い思い出になりました。

原田結衣ちゃんは種目はストリートなんですけど、パークスタイルもやるから、お互い教えあったりできるんです。プライベートで遊びに行ったこともあるほど、とにかく気が合うんですよ。

これから3人一緒に世界で活躍していけたら最高ですね。

Profile:草木ひなの(くさきひなの)

2008年4月4日生まれ。ホーム:茨城県つくば市。
スポンサー:Opera Skateboards、Spitfire Wheels、VANS、STANCE、TAIKAN、187 Killer Pads、MBM park builders、Advance Marketing、AXIS boardshop            

ガールズレベルを超越したスピードとハイエアーを武器に世界と戦う、AXISの”鬼姫”。どんなビッグセクションにも果敢に突っ込む猪突猛進型のスタイルは、華麗というより良い意味での荒々しさが際立つ。スケートボードを降りた時に見せる可愛らしい笑顔とのギャップも大きな魅力。

草木ひなの選手の取材記Part1
草木ひなの選手の取材記Part3

草木選手は、東京五輪後の2年で、取り巻く環境が最も一変したスケートボーダーのひとりと言えるでしょう。同時にそれは彼女が積み重ねてきた努力の結果でもあります。今年、彼女が得た経験は、一般の人よりも果てしなく濃密なものだったことは間違いありません。そして、来年はさらに激動の出来事が彼女を待っていることでしょう。最後のインタビューとなるパート3では、プライベートな部分や、パリオリンピック後に思い描く未来像についてもうかがっていきます。

ライター

吉田 佳央

1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。フォトグラファー兼ジャーナリストとして、ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。