「Jackery」(ジャクリ)が展開する「“たのしい”で、そなえる」がコンセプトの防災プロジェクト「Jackery PLAY PARK」の第一弾として、能登町と連携した“美味しい非常食”「KNOTOメシ(ノトメシ)」が発売されました。そのお披露目・試食会に参加し、開発の経緯やつくり手の思い、商品の魅力などを取材。当日の様子をレポートします。

被災地への長期的な支援を模索

2024年1月の能登半島地震。現地で停電や通信障害に直面する中、「Jackery」(ジャクリ)は、わずか2日後に支援を表明。行政・支援団体・地元ネットワークを駆使し、ポータブル電源とソーラーパネル計260台を提供しました。

直接支援することにより必要な助けを実際に把握した同社は、持続可能な支援を模索。そこではじめたのが非常食「KNOTOメシ(ノトメシ)」への開発支援です。

“もの”を届けるだけでなく、“こと”に寄り添う防災支援へ

Jackry Japan マーケティング本部鈴木広介さん、ONE POT WONDERのベンチ ササキ ススムさん、防災士研修センター玉田太郎さん、地域活性ファシリテーター出井良輔さん。

左からJackery Japan マーケティング本部鈴木広介さん、ONE POT WONDERのベンチ ササキ ススムさん、防災士研修センター玉田太郎さん、地域活性ファシリテーター出井良輔さん。

「さまざまな支援で物資が足りてきたとき、現地の人々にはまだ“この先どうなるんだろう”という大きな不安が残っていました。そこで弊社では『ものを届ける支援』から『ことに寄り添う支援』へと歩みを進めることに。生活や文化に根差した持続可能な防災支援を模索しました」(株式会社Jackery Japan マーケティング本部 鈴木広介さん)

能登の人々と食文化を生かした「KNOTOメシ(ノトメシ)」

能登への支援として取り組んだ一歩が、能登町の食文化と結びついて誕生した「KNOTOメシ(ノトメシ)」です。被災地の声に耳を傾けると、「非常食は命をつなぐが、おいしくなくて気持ちが沈む」という本音が聞こえてきました。

なかには「一日一食でもおいしいご飯があればがんばれる」と語る人も。そこから「おいしい非常食をつくろう」というアイデアが生まれました

第一弾はKNOTOメシ「ノトムヤムクン」

「災害時においしいご飯を食べてほしい」と語るベンチ ササキ ススムさん。

「災害時においしいご飯を食べてほしい」と語るベンチ ササキ ススムさん。

タッグを組んだのはクラフトフードブランド「ONE POT WONDER(ワンポットワンダー)」のベンチ ササキ ススムさん。第一弾はタイ料理のトムヤムクンをイメージした「ノトムヤムクン」です。

伝統調味料「いしり」をベースに

いしりを使った奥行きのある味わいのスープが米の麺と合う。

いしりを使った奥行きのある味わいのスープが米の麺と合う。

「特色は石川県能登半島に古くから伝わる発酵調味料『いしり(魚醤)』をベースに、鶏ガラ出汁とプチトマトを加えて、真空高圧調理したエビオイルを合わせたこと。酸味は少量のレモングラスを使用している程度で控えめになっており、辛味もなく各自が食べるときに好みで足せるように工夫。

そうすることで、子どもから高齢者まで食べやすい味に仕上げました。これは人の手を加えてアレンジすることが食の楽しみのひとつになるという、被災者の声を生かしています」(ササキさん)

心が和むパッケージデザインは能登町のデザイナーによるもの

美味しい非常食「KNOTOメシ」

ポップなデザインは非常時に心を和ませてくれる。

パッケージデザインを手掛けたのは、能登出身で実際に震災を体験した、グラフィックデザイナー池崎万優さん。

「大津波警報が出て液状化で道路が盛り上がって割れ、家の前の橋は通行不可。土砂崩れや倒木が道をふさいでいました。停電して世界は真っ暗。高台の公園に車で避難し、一夜を過ごしました。その後も津波警報、混乱するSNSなどを見てパニックになりそうだし、日常が失われて明日への不安でいっぱいでした。

そうして被災者となり、初めて避難所で食べた非常食。失礼ですが、とてもおいしいとはいえず、ただただ命をつなぐ食べ物でした。パッケージも被災者の心を被災や地震から離すことができないデザインでした。

ですから今回、非常食にありがちな無機質さではなく、手に取ったときに少しでも気持ちが和むデザインを目指しました。非常時こそ、日常を感じられる“かわいい非常食”が心の支えになると思います」(池崎さん)

続けられる備蓄、ローリングストック

KNOTOメシは、賞味期限6〜8か月を想定しています。日常的に食べ、食べたら買い足す「ローリングストック方式」を前提とした設計です。

おいしいからこそ続けられる備蓄。日常食と非常食の境界をなくし、暮らしの一部として根付かせるのが狙いです。

食を通じた復興と新しい仕事づくり──能登の未来に向けて

また、KNOTOメシは単なる商品開発ではなく、能登でのデザインや製造を通じて新しい雇用を生み出す目的もあります。地域の食文化を守りながら、関係人口を増やし、復興につなげる挑戦を行っています。

「人が少なく雇用がないなど、生活への支援が重要だとわかりました。たとえば、今回使用している『いしり』はイカを原料にした伝統的な魚醤ですが、つくり手が減っており、イカの漁獲量も減少傾向に。ノトムヤムクンの原料に『いしり』を使用することで伝統的な味を守り、長期的な視野で食を通じた新しい産業や地域活性化を模索していています」(ササキさん)

楽しく備えるイベント「Jackery PLAY PARK」

楽しい仕掛けを施し、防災への興味を持ってもらうイベント。

楽しい仕掛けを施し、防災への興味を持ってもらうイベント。

「Jackery」では「“たのしい”で、そなえる」をテーマに防災イベント「Jackery PLAY PARK」を実施。

食・音楽・アウトドアなど多彩なカルチャーと防災をクロスオーバーさせたイベントで、ポータブル電源だけでDJライブを行ったり、アウトドアサウナや防災食試食を行ったりと、楽しみながら備えを体験する仕掛けを提供しました。

おいしさと楽しさが、災害を乗り越える力になる

非常食ノトメシのノトムヤムクン。

「KNOTOメシ」は第二弾、第三弾と計画中とのこと。

電源の確保から始まった支援は、新しい防災文化へと広がりを見せています。KNOTOメシは、非常時だけでなく日常にも利用することで自然に防災意識を高め、長期的な能登への支援にもつながっています。楽しくおいしい支援こそが、未来の防災への備えになるのです。

取材協力:Jackery Japan

湊谷明子

ライター

湊谷明子

生活情報誌や女性誌、WEBなどで活動するフリーランスライター。女性誌で登山やキャンプでのアウトドアの特集も担当。自然の中での過ごし方や楽しみ方、安全に過ごすためのツール、アウトドアでの料理、犬と過ごすアウトドアなどについて執筆。好きな山域は「雲ノ平」と「徳沢」、好きなキャンプ場は「ふもとっぱら」。