ペルー・アマゾンで農園を続けていると、雨季や乾季のリズムが以前とは変わってきたことを肌で感じます。予測しにくい気候のなかで、農業はどう変わっていけばよいのでしょうか。2012年からキズナ農園で取り組んできたアグロフォレストリーも、森を育てるだけでは農家の暮らしにつながりません。約15年の試行錯誤を振り返りながら、「畑の多様性」を「収入の多様性」へつなげる、私たちの次の挑戦について考えます。

ペルー・アマゾンで変わる雨の降り方。農業の経験が通用しない気候へ

2025年、プカルパで発生した洪水。住宅やレストランが屋根近くまで浸水するなど、地域の暮らしにも大きな影響が出ました。

ペルー・アマゾンで農園に関わっていると、気候変動という言葉をニュースや統計だけの問題として考えることが難しくなってきました。以前なら、「この時期になれば雨が降る」「そろそろ乾季が終わる」と、経験からある程度は季節の変化を予測できました。しかし近年、その感覚が少しずつ通用しなくなっています。

雨季に入ってもなかなか雨が降らず、河川の水位が下がり、船による移動や物流に影響が出ます。一方、いったん雨が始まれば、短期間に激しく降ることもあります。「スーパーエルニーニョ」のような大規模な現象が起これば、農業への影響はさらに大きくなる可能性があります。農業にとって、雨の量だけでなく「いつ、どのように降るのか」が読めなくなること自体が大きなリスクなのです。

農園ではほかにも変化を感じます。気候が大きく変動する時期には害虫や病害の発生も増えているように感じ、水や肥料を与えても以前と同じようには植物が育たないこともあります。農業では長年の経験や土地を知ることが大切ですが、その積み重ねだけでは対応できない変化が起き始めているのです。

気候変動で見えてきた、単一作物に頼る農業のリスク

キズナ農園の始まり。牧草地だった土地を少しずつ整え、サチャインチの栽培を始めた。 写真は、2012年の牧草地、植え付けに向けた土地づくり、そして実をつけたサチャインチ。

キズナ農園の始まりについて詳しくはこちら

10haの草原から森へ。サチャインチから始まった、キズナ農園再生の物語
10haの草原から森へ。サチャインチから始まった、キズナ農園再生の物語

一種類の作物をまとまった面積で育てるモノカルチャーには、管理や収穫を効率化しやすく、品質を揃えて大量に出荷できる利点があります。しかし、その作物が干ばつ、豪雨、高温、病害虫などの影響を受ければ、生産と収入が同時に揺らぎます。農産物の価格も変動します。

環境も市場も予測しにくい時代には、「どれだけ効率よくつくれるか」と同時に、「変化にどれだけ耐えられるか」という視点も必要になってくるのです。

「アグロフォレストリー」とは?森の仕組みを生かす農業

アマゾンの森では、高い樹木の下に果樹や低木が育ち、さらに地表にも植物が広がっています。高さの違う植物が、それぞれ光や水、土壌、生き物と関わりながら一つの環境をつくっているのです。

農業も、この森の仕組みから学ぶことはできないだろうかと私は考えました。その一つが、畑にも木を植え、樹木と農作物を組み合わせる「アグロフォレストリー」です。

私はそこに、日本の「里山」に通じる考え方を感じます。自然も歴史も異なりますが、自然を人から切り離すのでも、すべてを人間の都合に変えるのでもなく、人が関わり、恵みを受けながら環境を維持するという点には共通するものがあります。

複数の作物があれば、一つが気候の影響を受けても別の作物が残り、ある農産物の価格が下がっても別の収入源を持てる可能性があります。多様性そのものが一種の「保険」になります。

アグロフォレストリーの課題。多様な作物を育てる難しさ

森が育む多様な実り。キズナ農園で育つ、①野生のグラナディージャ、②カカオ、③マカンボ、④ウマリ。こうした森の恵みを、どう商品や収入につなげていくかが、これからの挑戦でもあります。

アグロフォレストリーを理想的な農業として語るつもりはありません。モノカルチャーに比べ、一つ一つの作物の生産量は限られ、管理も複雑になります。植物同士の関係や日照、水、土壌など、農園全体のバランスを見ながら育てなければなりません。

また、少量多品目では生産コストも高くなりやすく、大量流通を前提とした市場では価格競争が難しくなります。環境にやさしいだけでは農家は暮らしていけないという、現実的な問題もあります。

それでも、一つの作物だけにすべてを託すより、農園全体として変化に耐えられる可能性があります。最大の生産量ではなく、変化のなかでも長く続けられる安定性をどうつくるか。それが私たちの課題でもあります。

農家の収入につなげるには?森の恵みを商品に変える

森の恵みに価値を加える。①果肉に包まれたカカオの種、②バナナの葉に広げた種、③バナナの葉で包んで発酵させる工程、④薪火での焙煎。収穫した実をそのまま売るのではなく、加工することで、森の恵みを新たな価値へとつなげていきます。

しかし、多様な作物が育つことと、それが農家の収入になることは別です。アマゾンには魅力的な果物や種子が数多くありますが、生の果実は傷みやすく、都市部の市場まで運ぶにも時間がかかります。多種類を少量ずつ生産すれば、大量流通にも乗せにくくなります。

そこで重要になるのが加工です。加工は付加価値を高めるだけでなく、農産物を「時間に強くする」方法でもあります。果実をジャムやコンポートにする。カカオを加工する。種子から油を搾る。保存期間が延びれば販売できる時間も延び、遠くの市場へ届ける可能性も広がります。収穫してすぐ売らなければ価値を失う農産物に、新しい時間と選択肢を与えることができます。

もちろん、加工すれば売れるわけではありません。設備、品質管理、パッケージ、物流にはコストがかかります。そして何より、「誰が、なぜ、その商品を買うのか」を考えなければなりません。環境に配慮しているだけでなく、商品そのものに魅力があり、その価値に合った市場と出会って初めて持続可能なビジネスになります。

ペルー・アマゾンのキズナ農園が挑む、森と農業の未来

森の恵みを一枚のチョコレートへ。①カカオニブ、②ニブを強力ミキサーにかけてペースト状にする工程、③手作りのチョコレート。特別な設備ではなく、身近な道具を使いながら、キズナ農園では一つひとつ手作業でつくっています。

私たちのキズナ農園も、まだ答えを見つけたわけではありません。2012年から約10ヘクタールで植樹を進め、当初はサチャインチを中心に、さまざまな樹木を組み合わせたアグロフォレストリーに取り組みました。サチャインチの栽培サイクルが終わった現在、そこには薬用植物、熱帯フルーツ、木材となる樹木を含む二次林が育ち、その中でネイティブカカオなども生育しています。

15年近くかけて、かつて植えた小さな苗木は大きな木へと育ち、農園の景色そのものも変わりました。しかし、森に近い環境を取り戻せば、それで持続可能な農園が完成するわけではありません。むしろ、私たちにとってはここからが次の挑戦です。

この土地の多様な恵みを、どのような商品に変えるのか。どう付加価値をつけ、それを必要とする市場とつなげるのか。これから日本のパートナーであるアルコイリスカンパニーとともに、キズナに育った植物やカカオなどを生かし、新しい商品と市場の可能性を探っていきます。いつか、その一部をペルー・アマゾンから日本へ届けることも目指しています。

気候変動の時代に必要なのは、どんな変化にも負けない「最強の作物」を一つ探すことではないのかもしれません。森が多様な植物で成り立つように、農業も一つに依存せず、その恵みをそれぞれに合った商品と市場につなげていくことが大切なのだと思います。

畑の多様性と、収入の多様性。その二つを結びつけることができて初めて、アグロフォレストリーは「環境にやさしい農業」から一歩進み、気候変動の時代にも農家が暮らしていける、持続可能な仕組みになるのではないでしょうか。
その答えを、これからもキズナの森の中で探していきたいです。

橘谷エルナン

ライター

橘谷エルナン

ペルー・アマゾン在住の日系人。森と共に暮らしながら、植物染めや森林農法、地域の食文化を探求。日本とペルーをつなぐ通訳・翻訳者として活動し、自然と人の関わりをテーマに執筆している。