暖冬のたびに届く、スキー場のオープン延期や早期クローズの知らせ。2026年8月に発表された研究では、気温が4℃上昇すると、天然雪だけで安定して全面営業できるスキー場は全国349か所のうち7か所になると予測されました。滑れる期間が縮み、身近なゲレンデが消えれば、子どもや競技者が雪に触れる機会も減ります。スキー場の現場で進む適応策と、滑り手にできることを考えます。
なぜ今、スキー場の「雪不足」が問題なのか

暖冬の年には、オープンの延期や一部コースのみの営業といった知らせが各地から届きます。筆者が住む北海道でも、かつては12月になれば札幌市内のスキー場がこぞってオープンしていましたが、近年では年内のオープンが難しいスキー場も出てきました。
また、札幌市内の標高がそれほど高くないスキー場で3月まで滑ることができたのは2019年ごろまで。今では2月下旬ともなれば、札幌市近郊のスキー場はゲレンデ下部に土が見えはじめ、早々にクローズしてしまいます。
これは「今年は雪が少ない」という単年の話ではありません。研究や経営データからは、スキー場の数が減り、滑り手の環境も変わりつつある構図が見えてきます。
温暖化の進み方で変わるスキー場の数
北海道大学と森林総合研究所の研究チームは、全国349か所のスキー場の将来の営業可能性を予測しました。人工雪を使わずに年100日以上滑走できるかどうかが目安です。予測の結果は、温暖化をどこまで抑えられるかで大きく変わります。
| 世界の平均気温の上昇(産業革命前比) | 全面営業できる | 一部営業できる |
| 2℃(パリ協定の目標に近い水準) | 53か所 | 108か所 |
| 4℃(対策をほとんど行わない場合) | 7か所 | 26か所 |
4℃上昇の場合、全面営業と一部営業を合わせても33か所で、全体の1割に届きません。
出典:北海道大学・森林総合研究所「気候変動でスキー場はどのぐらい減るのか? ~気温4℃上昇で安定営業できるスキー場は全国で7か所に~」、
吉沢直・勝山祐太「将来における日本全国のスキー場の存続可能性:自然積雪条件における気候変動影響評価の試み」日本雪氷学会『雪氷』88巻4号
赤字から抜け出せない公営スキー場の事情

先の研究では、高緯度・高標高のスキー場ほど、存続の可能性が高いとされました。裏を返せば、標高の低い身近なスキー場ほど影響を受けやすいということです。観光庁が全国のスキー場事業者に行ったアンケート(2020年)では、営業赤字のスキー場は全体の4割強で、公営では半数近くに上ります。
背景にあるのは供給過多です。参加人口10万人あたりのスキー場数は、1993年の3.7か所から2019年には9.4か所に増えました。それでも公営スキー場が残るのは、山間地域の冬の雇用を守るために自治体が赤字を補填していることや、廃止する際に原状回復の費用が高くつくことが理由とされています。
赤字が続けば、設備の更新や新しいサービスへの投資にも手が回りません。そうしたスキー場ほど、雪不足への備えも難しくなります。
出典:三井住友トラスト基礎研究所「スキー場運営の現況と官民連携手法を活用した再生戦略について」
滑り手への影響

雪不足の影響は、滑り手の側にも及びます。天塩町町民スキー場は2026年3月、暖気による融雪で予定より1週間早くシーズンを終えました。滑れる期間が短くなれば、練習量が必要な競技者ほど影響は大きくなります。
身近なスキー場がなくなれば、時間とお金をかけて遠くのスキー場へ通うしかありません。札幌市近郊のジュニアアルペンスキーチームは春先になると毎週末、雪を求めて数時間かけて移動し練習をおこなっています。近隣のスキー場で練習ができないとなると、選手はもちろん、送迎する親の負担も相当なものです。
雪上競技では、温暖化の影響も重なってジュニアの競技人口の減少が特に目立ちます。全日本スキー連盟の原田雅彦会長は、競技を始める以前に、子どもが雪に触れる機会そのものが減っていると危機感を示しています。
出典:天塩町「【営業終了】町民スキー場について」、時事通信「雪上競技の未来は? 深刻なジュニア人口減少〔ミラノ・コルティナ五輪〕」(2026年2月21日)
雪不足に向き合うスキー場の現場

こうしたリスクに対し、「現場では雪をつくる」・「雪に頼らない」・「人が動く」という3つの方向から対応が進んでいます。
雪をつくる:人工降雪の導入と費用の壁
雪不足への備えとして、多くのスキー場が検討するのが人工降雪です。冷えた空気中に水を噴霧する「降雪機」が一般的で、氷を砕いてまく「造雪機」もあります。
導入が進まない理由のひとつが費用です。滋賀県のグランスノー奥伊吹では、2024-25シーズンに向けて、造雪機・降雪機の増設(計45基)やエスカレーターの新設などに、総額21億8,000万円を投じています。
こうした投資ができる事業者は限られます。帝国データバンクの調査によると、中小スキー場ではリフトなど設備の老朽化に伴う更新費用の捻出が難しいとされています。
出典:奥伊吹観光 公式サイト「2024-25シーズンの設備投資(総額21億8,000万円、造雪機・降雪機45基、エスカレーター6基)」、帝国データバンク「「スキー場」の倒産動向(2024年度)」
雪に頼らない:夏季営業と地域連携
もうひとつの方向が、雪のない季節に山を活かす取り組みです。全国の大規模スキー場では、マウンテンバイクのトレイルライドやトレッキング、ハイキングなど、夏季・通年で楽しめるレジャーを展開しています。
北海道遠軽町の「道の駅 遠軽 森のオホーツク」に併設されたえんがるロックバレースキー場は、冬はスキー場、雪のない季節はサマーゲレンデ「6980 Pis Rabbi(ピスラビ)」として営業しています。コースは長さ300m・幅30mで、オフシーズンでも本物の雪に近い滑走感を目指した人工マットが敷かれています。
あわせて、温泉など地域の観光資源とのパッケージ化も注目されています。野沢温泉のように、広大なスキー場と、歴史ある温泉街(13の共同浴場「外湯」)が徒歩圏内で融合しているケースは、インバウンドに人気の高いモデルとなっています。
北海道の加森観光グループの4つのスキー場(サッポロテイネ、ルスツリゾート、サホロリゾート、中山峠スキー場)が楽しめる「加森観光共通シーズン券(K-ウィンターパス)」といった複数のスキー場で使える共通チケットによる広域連携もそのひとつです。こうした取り組みは、ひとつのスキー場が単独で雪を待つのではなく、山と地域全体で1年を通して人を迎える発想への転換といえます。
参照:国立環境研究所 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「雪上レジャー」、えんがるロックバレースキー場、野沢温泉スキー場、加森観光共通シーズン券(K-ウィンターパス)
人が動く:インストラクターの働き方の変化

一方で、スキー場で働く人の側の変化は、統計や報告書からは見えにくいのが実情です。筆者の周りの指導員に聞くと、雪の少ない時期は機械整備やリフト券販売などの窓口業務に回されることが多いといいます。雪不足で予定していたレッスンが中止になれば、収入減に直結します。
小中学校でのスキー授業の講師もインストラクターの仕事のひとつですが、その機会も減っています。札幌市では、貸し切りバスの確保難や用具・リフト券の家計負担の増加から、中学校のスキー授業の実施率が10年前の9割から、2025年度は5割弱に下がりました。指導者を目指す若いスキーヤーも減っているといいます。
不安定な収入を避けるため、安定した降雪が見込める標高が高く雪質のよいスキー場へ職場を移す知り合いのインストラクターも増えています。こうしたスキー場はインバウンド需要も高く、英語や中国語でレッスンができれば、さらに仕事の幅が広がるのでしょう。
出典:北海道新聞「札幌のスキー授業、中学の実施校が半数割る 10年前は9割実施 バス確保困難 家計配慮も」
滑り手として、地元のスキー場とどう関わるか

ここまで見てきた課題に、滑り手として何ができるのか。ローカルなスキー場の減少で子どもたちがウィンタースポーツを経験する機会が減っている今、利用すること自体がその場所を支える力になるでしょう。
気軽に利用できる、練習に最適な斜面がある、リフト券が安いなど、小さなスキー場にしかない魅力はたくさんあります。
子どもの頃から通っていたスキー場では、冬休みになると毎日、友達みんなで暗くなるまで滑っていました。学生になってからも、どんなに寒い夜も営業終了まで滑り続けたそのスキー場は、今では草木が生い茂り、森に戻りつつあります。
道具・リフト券などさまざまなものが高騰している最中ではありますが、今シーズン、一度滑りに行く。それが、スキー場を守る最初の一歩になるのではないでしょうか。
ライター
モリミヤ ダイ
ウィンタースポーツ雑誌編集者として、現場取材、インタビューなどを担当。現在はライター&ディレクターとして、雑誌、WEBと幅広くウィンタースポーツやアウトドアシーンの魅力、地域のコアな情報を伝えるべく力を注ぐ。趣味はスキーとキャンプ。最近はカヌーやSUPにハマり、いろいろな湖に行くのが楽しみの一つ。