スイスは欧州のなかでも生活水準が高く、その分ごみの排出量が多い国のひとつです。しかし、埋め立てが法律で禁止されてからは、ごみの半分をリサイクルする仕組みが国内に根付いています。人々の意識を高め、美しい街並みや自然を守るためのシステムとは?高額な有料ごみ袋の導入やリサイクル品を回収所に持ち込む制度など、スイスの暮らしに溶け込んでいる仕組みを紹介します。

スイスのごみ事情

スイス ごみ事情

スイスは豊かな自然環境を誇りながらも、一人当たりのごみ排出量はヨーロッパでトップクラスに入ります。生活水準が高く、消費活動も活発なため、日用品や食品などから出る梱包材や不用品の廃棄が多い傾向にあります。

2000年以降、法律で生活ごみを直接埋め立てることが禁止されました。現在ではごみの量は依然として多いものの、その約半分はリサイクルされる仕組みが整っています。

街中や駅には分別用のごみ箱が設置され、公共の場でも自然に分別意識が育まれる環境が整っています。スイスを訪れる観光客にも、ごみの分別の仕組みがわかりやすく整っている点は素晴らしいなと思います。

ごみを減らすための工夫

スイス ごみ事情

スイスではどのようにごみを減らしているのでしょうか?ここでは、具体的なごみの削減方法を紹介いたします。

「お高め」な有料ごみ袋

スイスでは、ごみ袋が有料です。たとえば、35リットルの袋10枚入りで約3,130円、1枚あたり約313円と高額です。そのため、家庭では自然と「できるだけごみを減らそう」という意識が働きます。

さらに、瓶や缶、プラスチックなどの資源は各自が回収所に持ち込まなければなりません。このひと手間が、ごみを減らす強い動機づけになっています。

私はスイスに暮らすようになって、高額なごみ袋を前に「ごみを減らせる方法はあるのか」と、ごみに対する視点が変わりました。商品を購入する際にも「なるべくごみを増やさないようにするには、どうすればいいかな?」と考えるようになり、野菜や果物をマーケットや農家から購入する頻度が増えました。

簡易梱包が当たり前

スイス ごみ事情

スイスでは、ショッピングの際に商品が過剰に梱包されることはほとんどありません。袋は基本的に有料で、購入したものが衣類でも雑貨でも、袋を買わなければそのまま渡されます。

高級ブランド店では、袋代が価格に含まれているケースもありますが、日常生活では「必要なら自分で袋を用意する」という意識が浸透しています。

最近では、テイクアウト用の紙袋も有料となり、日常的にマイバッグを持ち歩くのが一般的です。私もカバンに、お気に入りのマイバッグを入れて持ち歩いています。

日曜日は「静かな日」

スイス ごみ事情

スイスでは、日曜日は「Ruhetag(静かな日)」と呼ばれ、宗教的な背景もあり、掃除機や洗濯機の使用など、極力大きな音を出す行為を控えます。ごみ出しも同様で、瓶や缶を捨てる作業は日曜日を避けるのが一般的です。

スーパーやリサイクルセンターも多くがお休み。住民の日曜日の「静けさ」を意識した生活リズムは、「環境への配慮」に結びついているのではないかと思います。

スイスに住み始めた頃は、日曜日に作業できないことに少し不便さを感じましたが、次第に「これもエコな暮らしの一部」と思えるようになりました。

根付いているリサイクル文化

スイス ごみ事情

スイスのリサイクルへの意識は、家庭や学校、地域社会のあらゆる場面に浸透しています。ゴミの分別に加え、資源をできるだけ再利用する考え方が人々の暮らしに根付いています。

生ごみはコンポストで資源に

各地域には、生ごみや有機ごみなどを回収するコンポストボックスが設置されていて、週に一度、回収車が来ます。家庭で出た生ごみは「生ごみ専用の袋」を経由してコンポストボックスに捨てられます。

最近は、気候変動の影響か、スイスの夏も気温が上昇傾向です。そのため、真夏にコンポストボックスに生ゴミを捨てに行くと、投入するときに異臭を感じることはありますが、蓋を開けっぱなしにしない限り、周囲がニオイで困ることはありません。

コンポストボックスに入れられたごみは、燃えるごみとは別の流れで処理され、堆肥として再利用されています。こうして資源が循環しているわけです。

コンポストボックスにそのまま捨てられる生ごみ用の袋は、有料です。必ずしも使用しなければいけないわけではないのですが、我が家はスーパーで購入しています。最近は、なるべく生ごみが減らせるよう、必要な量だけを買う、食べ残さない分だけを調理するなど、気を付けて食事の用意をするようになりました。

捨てずに譲るフリーマーケット

スイス ごみ事情

スイスでは「捨てる前に譲る」という考え方も定着しています。息子が通っていた小学校では年に一度、子どもが不要になった本やおもちゃを持ち寄り、自ら値段を付けて販売するフリーマーケットが開かれます。子どもたちにとっても、ものの価値を考える貴重な機会にもなっています。

また、私の住む地域にはファミリー協会(Verein)があり、さまざまなイベントが開催されています。ここでも、年に2回開催するフリーマーケットは人気が高く、地域全体で循環型のライフスタイルを実践している姿が印象的です。

取り組みやすい「ついで」リサイクル

ショッピングのついでにペットボトルや使用済み電池を回収ボックスに捨てられるのも、スイスのスーパーマーケットの便利なところです。ほとんどのスーパーマーケットにリサイクルボックスが設置されており、大きめの施設になると、蛍光灯やLED電球なども、サービスカウンターにて無料で引き取ってもらえます。

また、一人当たりのコーヒー消費量が多いスイスでは、使用済みのコーヒーカプセルの回収もしています。スーパーマーケットにあるカプセル専用ボックスに、使用済みカプセルを持ち込むこともできますが、もっと便利なのは、郵便局員に回収してもらえるシステムです。

使用済みカプセルを専用の袋にいれて、目印になる部分を郵便受けから出しておくと、気がついた郵便局員が回収してくれます。

アクセスしやすい回収ボックス

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瓶や空き缶は、自治体で管理している回収ボックスに持っていきます。瓶のボックスは、透明・緑・茶と瓶の色ごとに分かれているので、各自で確認して投入します。空き缶やスチールも同様に指定のボックスに入れます。このように徹底した分別により、確実にリサイクルへとつながっていきます。

回収ボックスは住宅地の近くに設置されていることが多く、わが家も徒歩5分程度で行けて便利です。アクセスのしやすさで、リサイクルしようという意欲が高くなります。

イベントはデポジット制で

地域のお祭りやイベントでは、再利用できるカップや食器が使われ、デポジット制(保証金)が導入されています。

まず、飲み物代に加えて、約180〜370円(1〜2フラン)のデポジットを払います。飲み物は再利用可能なカップやグラスで提供され、使用後は店や回収ポイントに返却します。すると、最初に支払ったデポジットがそのまま現金で戻る仕組みです。ほとんどの人が返却するため、使い捨てのゴミがほとんど出ません。

こうした「お金の流れ」で自然とリサイクルが促され、環境にやさしいイベント運営が成り立っています。

今すぐできるエコ習慣

スイス ごみ事情

スイスのような制度がなくても、今すぐにできる小さなエコ習慣はたくさんあります。スイスに暮らして感じたのは、日常生活での意識ひとつで環境に優しいライフスタイルが実現できるということです。

  • 蜜ろうラップを使う
  • 外ではマイスプーンやマイストローを使う
  • フリーマーケットやオークションに参加する
  • コンポストに挑戦する

無理なく始められる小さな行動ですが、継続することで、少しずつ変化が起こります。私はこれまで、地元のフリーマーケットを利用する程度でしたが、これからは積極的に参加して、「まだ使えるものを捨てずに活かす」仕組みを取り入れていきたいと思います。

また、自宅にコンポストを取り入れてみたいと思いました。できた堆肥を庭やベランダの植物に活用でき、環境にも自分の暮らしにも優しいアイデアです。

スイスは、ごみ排出量が多いけれど、その分リサイクルや再利用の仕組みが整っているのが大きな特徴です。制度としてのリサイクルに加え、国民の意識や生活習慣そのものが、環境への高い意識を育んでいます。スイスの街がきれいな理由も、こうした日常の仕組みが反映されているのかもしれません。

アルパガウス 真樹

ライター

アルパガウス 真樹

スイス在住の40代主婦。息子とスイスの自然を楽しみながら、さまざまなアクティビティに挑戦。夏は森の中でのBBQやハイキング。海のないスイスでは、湖水浴が定番なので、夏季は湖沿いで過ごしたりSUPを楽しんだりしています。現地からスイスの自然との触れ合いをお届けします。