静まり返った冬の森で、かすかな鳴き声やコツコツという物音に気づくことはありませんか?音の主は、きっと野鳥です。鳥に興味を持つと、いつでもどこでも出合えるため、野外での楽しみが増えるはず。今回は特に、冬だからこそ観察できる野鳥をご紹介します。
渡り鳥とは?
渡り鳥とは、季節によって日本と海外とを移動する野鳥です。季節の移り変わりと密接に関わっている渡り鳥は、万葉集の時代から詩に読まれるなど、日本人の心にインスピレーションや彩りを与えてきました。夏に日本を訪れる鳥は夏鳥、冬に訪れる鳥は冬鳥と呼ばれます。
日本で見られる冬鳥の多くは、寒さが厳しい季節が来る前にロシア北部のシベリアなどから日本や東南アジアに渡ってきます。冬の間、大地や水辺が雪と氷に覆われてしまう北の地方では、水面で生活する水鳥や、地面でえさを探す小鳥たちは生きていくことができません。
冬鳥は日本で冬越ししたあと、4〜5月頃再び北方に渡って夏の間にシベリアなどで繁殖・子育てをし、10月頃になるとまた日本にやってくるという暮らしを繰り返しているのです。
渡り鳥の中には生息数が減少している種類もあり、そのような野鳥を守るためには、他国との協力が必要になります。日本は、米国やロシア、豪州、中国と渡り鳥等保護条約をそれぞれ締結し、保護のための協力体制を築いてきました。
また、渡り鳥が利用する水辺を保護することを目的としているのがラムサール条約です。日本は、この条約に参加しているほか、国内53か所(2024年11月時点)の水辺をラムサール条約湿地として登録し保全しています。
冬だからこそ出合える野鳥たち
冬鳥の存在を知っていると、毎年10月後半くらいから「そろそろ来るかな?」と気になり出します。その年初めて出合えたときには、小さな体で何千キロも旅してきたことをねぎらって「お疲れさま!」と思わず声をかけたくなるほど。
渡り鳥は毎年同じ場所にやってくるという説もあるので、庭に今年やってきた鳥は去年も来てくれた顔なじみかもしれない、などと想像するのも楽しいものです。ここでは、初心者でも見つけやすい冬鳥をご紹介します。
平地でも見られる身近な冬鳥
緑の多い市街地にもやってくる種類は、普段の生活の中でも目にすることができます。
ジョウビタキ
全国の平地の林、市街地、農耕地に飛来。スズメくらいの大きさ。オスの頭部はグレー、顔は黒色、お腹のオレンジが美しい。メスは全体に灰褐色の地味な色。雌雄ともに翼に白斑が目立つ。なわばりを主張して、樹のてっぺんや屋根の上など見えやすい場所で「ヒッヒッ」と鳴き「カチカチカチ」とくちばしを鳴らす。
ツグミ
全国の平地から山地の林、農耕地、川原、芝地などに飛来。スズメの倍くらいの大きさ。冬は地上でミミズなどを採食する。雌雄の外見は似ていて、顔は白っぽく背中は明るい茶色、お腹は白色で、全体に黒斑がある。とことこと地面を歩いては、頭を持ち上げてぴたっと止まる様子が、子どもの遊び「だるまさんがころんだ」をしているように見える。
ゆっくり観察できる水辺のカモ類
群れで水辺に滞在していることが多く、すぐに飛び立つことがないので、初心者でも双眼鏡でゆっくりと観察が可能です。メスはどの種も地味な色で見分けるのは難しいですが、成熟したオスは種類ごとに特徴があります。
マガモ
本州の一部や北海道では繁殖するものもいるが、日本では主に冬鳥で池沼、湖、河川、海上などに飛来する。オスは頭が緑色で体が灰色。特に頭部は、光の加減で緑色や青紫色に美しく輝く。家禽のアヒルは、本種を飼育改良したもの。
オナガガモ
全国の池沼、湖、河川など淡水域に飛来。オスの顔は黒色でくちばしは青みがかっている。胸は白で、体は灰色。尾羽が長く、ピンと立っているのが特徴。
コガモ
全国の池沼、湖、河川など淡水域に飛来。木々に囲まれた場所やアシ原のある場所を好む。オスは頭が茶色で目の周りに隈取りしたような緑色の模様がある。マガモ、オナガガモに比べると小さめ。
限られた場所にくる大型の冬鳥
隊列を組んで群れで飛ぶガンやハクチョウが渡る風景は美しく、飛来地の中には観光名所となっている場所もあります。
マガン
日本海側では鳥取県まで、太平洋側では東北地方南部まで南下。湖沼や池をねぐらとし、周辺の水田で落穂や草の種子などを食べる。カモ類より一回り大きく、茶色の体にオレンジ色のくちばしと足が特徴。国の天然記念物。漢字では「雁(かり・がん)」と書く。
オオハクチョウ
関東地方以北の湖沼や河川などに飛来。周辺の田んぼなどで採餌する。全身白色でくちばしは黒色と黄色、足は黒色。くちばしの上にコブがあるコブハクチョウは、飼育されたものが逃げ出して繁殖したもので、渡り鳥ではない。
野鳥観察にあると便利なもの
野鳥の鳴き声や姿に気づくようになると、「あの鳥は何だろう?」と種名を知りたいという気持ちになると思います。そんなときに便利なのが図鑑です。
離れた場所にいる野鳥を花や虫のようにスマホで撮影するのは難しいため、AIに頼るより書籍で調べることをお勧めします。さらに最近、DNA解析で判明した事実をもとに鳥類の分類体系が変わったところなので、最新版の図鑑を購入するのがなお良しです。使いやすい図鑑の一例をご紹介します。
また、双眼鏡があるとさらにバードウォッチングが楽しくなるでしょう。双眼鏡の価格帯は幅広く、高額なものは遠くの物でもはっきりと美しく見せてくれます。しかし、価格帯や持ち運びやすさもポイントとなるため、初心者は8倍程度の倍率で手頃なサイズと値段のものをまず購入してみるのがいいと思います。
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。