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2023年1月11日、日本のサーフシーンを取り上げたドキュメンタリーシリーズ「Chasing Waves(チェイシング・ウェーブス)」が世界で放送開始されました。ストリーミング・プラットフォームによって放送をするのは、世界でのサブスク数が1億人を超えると言われるDisney+。そんなドキュメンタリーを監督したのが数々のサーフフィルムを手掛けてきたジェイソン・バッファ。コナー・コフィンを甥に持つ彼に、今回の作品や制作秘話について聞いてみました。
Jason Baffa(ジェイソン・バッファ)さんのプロフィール
アメリカ・カリフォルニア州サンタバーバラ出身。ドキュメンタリー映画の監督として、サーフィンをはじめとした数々のフィルムを手掛ける。代表作は「One California Day」「Singlefin: yellow」「Bella Vita」「Loopers: the caddies long walk」など。CTサーファーのコナー・コフィンとフリーサーファーのパーカー・コフィンを甥に持つ。

CHASING WAVES について

“東京2020オリンピックでサーフィンが正式種目としてデビューしたことを受け、「CHASING WAVES」は日本のサーフィン文化におけるキーとなる人々や場所にスポットライトを当て、日本の18,000マイル以上の海岸線で育まれてきたサーフィンの多様な地域性、ユニークな人物、果てしない波について考察しています。

最先端の4Kカメラと16mmアーカイブフィルムで撮影されたこの人物主体のドキュメンタリーシリーズは、様々な文化的背景を持つアスリートやソウルサーファーたちが夢を追いかける姿を撮影し、日本の生活を魅力的に描き、国際的なサーフィン業界で成功するために必要なことを紹介しています。

出演は、前田マヒナ、高貫佑麻、興梠サラ、大原洋人、松田詩野、オリンピック銀メダリストの五十嵐カノア、オーストラリアと日本をルーツに持つサーファー、コナー・オリアリーという並外れたプロサーファーから、高貫佑麻や眞木勇人、添田博道、横山泰介といったフリーサーファーやレジェンドまで幅広く登場します。

北は北海道から南は沖縄まで、「CHASING WAVES」は日本のサーフィン文化を、そこで生きる人々を通して、これまでにない新しい方法で描いています。”

監督:ジェイソン・バッファ
製作総指揮:アンドリュー・フリード(ボードウォーク・ピクチャーズ)、クリス・コーウェン、ジェイソン・バッファ

実現への道のり

Chasing Waves ジェイソン・バッファ

―Disney+でサーフィンのドキュメンタリーを作るというアイデアは、いつ・どのように生まれたのですか?

ジェイソン・バッファ 2020年、コロナによるパンデミックのときですね。私はカリフォルニア・サンタバーバラの家にいて、長年の友人であるクリストファー・コーウェンから電話があったんです。クリスは素晴らしいプロデューサー。私たちの母親は、私たちがまだ赤ん坊だったころからの親友で、よく一緒に遊んだものです。

だいぶ前から私たちはあるプロジェクトでコラボしたいと思っていたところ、その電話でクリスは「今、Disney+と、日本でドキュメンタリー・シリーズをやることについて話しているんだ」というようなことを話してくれたんです。

彼らが私の映画の「Singlefin: yellow」と「One California Day」(マーク・ジェレミアスとの共作)をとても気に入っていて、さらにサーフィンのテレビシリーズをやりたいと思わないか?とも言われて…。

当時は、自分が監督したい長編映画の脚本を書くことに完全に集中していました。でも、ディズニーのような会社からサポートを受けられるというのは、とてもエキサイティングなことだと思ったんです。私のサーフプロジェクトはすべて草の根的で小さなものでしたから。これは、私のサーフィンへの愛を伝え、日本のサーファーに感謝する最適な方法かもしれないって思ったんです。

―昨年5月、私(中野 晋)がオーストラリアであなたの甥っ子であるコナー・コフィンに会ったとき、「撮影が大変だと聞いているよ!」と言っていました。撮影で一番大変なことは何でしたか?

ジェイソン・バッファ そうですね…。2021年はパンデミックがなかなか収束しなかったので、制作の許可が出たものの、なかなか世界を自由に旅することができない状態でした。

最初の計画では、日本で100日ほど少人数のチームで撮影する予定だったのですが…。これは、「Bella Vita」を作った時と同じような方法です。しかし、日本はオリンピックを開催するにあたって門戸を閉ざしてしまいました。だから、私たちは日本に来ることができなかったんです。

これまで映画を作ってきた中で、これほどまでに自分たちが伝えたい物語へのアクセスが制限された経験はありませんでした。だから撮影は本当に大変でしたね。でも、幸いなことにテクノロジーの世界では遠隔での撮影が可能になりました。

そこで私は、カリフォルニアから監督し、小さなフィルムメーカーのチームを組んで、日本・オーストラリア・ヨーロッパを股にかけて撮影することになったのです。しかし、課題は新たな課題となりました。

例えば、日本の撮影チームでサーフフィルマーを務めた中浦“JET”章が使う水中用のREDシネマ・サーフ・ハウジングが日本では見つかりませんでした。それで、ハワイからハウジングを輸送する方法を考えなければならなかったのですが、輸送中に割れてしまったのです。だから日本では、通常使用しない機材の修理サポートを探さなければならなかった。すべてが冒険でしたね。

クリスに加えて、ソフィー・クルーズ、ダーリン・ヒギンズ、そして日本や海外の遠隔撮影パートナーが、すばらしいイメージとストーリーを作り上げてくれたことを心から感謝しています。

サーフィンというカルチャー

Chasing Waves ジェイソン・バッファ

―日本のサーフィンについて、撮影前はどのようなイメージを持っていましたか?

ジェイソン・バッファ 日本には、情熱的なサーフカルチャーが存在することは知っていましたが、非常にプライベートな文化でもあると思います。多くの日本人の親は、自分の子供がサーファーになることを望んでいないだろうと想像していましたが、今はそれが変わりつつあると思います。

―あなた自身はサーフィンのどんなところに魅力を感じていますか?

ジェイソン・バッファ サーフィンは視覚的にダイナミックで、サーフィンをするという行為は感情的な面でも非常に表現力が豊かだと思います。美しいダンサーのように、体の動きで感情を表現している。私はその人の個人的なストーリーと、波の上での動きとの相乗効果が好きなのだと思います。

彼ら乗り方、生き方はドライブしているのか?カジュアルなのか?コンペティティブなのか?自由なのか?映画制作の観点からは、このようなすばらしいキャンバスを提供することができる。私はアクション映画も大好きなんですが、 サーフィンはストーリーと美しいアクションをうまく結びつけてくれるんです。

―制作スタッフにはサーフィンのことをよく知らない人も含まれていましたが、どうやってサーフィン独特の文化などを理解させていったのでしょうか?

ジェイソン・バッファ これは私にとって、とてもストレスの溜まることでした…。覚えておいてほしいのですが、8エピソードは長編映画3本を作るようなものなんです。約6時間のコンテンツです。だから、サーフカルチャーに忠実にするために、私は本当に全力を尽くしました。そして、私の提案に対してみんなが熱心に学び、その「理由」を議論してくれたことは、チームの誇りです。

このシリーズは、サーフフィルムではありません。サーフィンをする人たちについてのドキュメンタリーです。ですから、私はストーリーテリングについてチームから多くを学びました。しかし、それを実現するためには、やはり素晴らしいサーフィンの写真が必要であることは、すぐに明らかになりました。それが、私にとっての大きな目標になりました。

Disney+(ディズニープラス)との関わり

Chasing Waves ジェイソン・バッファ

―Disney+がこのドキュメンタリーに求めるものはどんなものでしたか?

ジェイソン・バッファ Disney+は、私たちの視点から日本のサーフカルチャーを探求し、さらにサーフカルチャーが世界的に広がっている様子を説明することに、興奮していました。

日本・オーストラリア・カリフォルニア・ハワイ・アルゼンチン…そして、日本とサーフィンを通してつながっているキャストが出演することは、とてもエキサイティングなことでした。

―多くのキャスト候補のリストを作り、その中から出演者を選んでいただきました。その基準は何だったのでしょうか?

ジェイソン・バッファ リストは非常に参考になりました。私の中では、このシリーズは「One California Day」「Bella Vita」「Loopers」(私のゴルフキャディ映画)の要素を少しずつ入れ込むようにしようと思っていました。そこで、クリスと私はサーフカルチャーのさまざまな部分を代表するようなキャストを検討したんです。

五十嵐カノアとコナー・オリアリーはトップクラスのプロ。前田マヒナと興梠サラは、アイデンティティと成功を求めて突き進む若い女性。松田詩野と大原洋人は、国や家族に誇れるような地元のスターです。海とつながり、発見に満ちた人生を送る自由人、高貫佑麻と眞木勇人。添田博道と横山泰介は、知識と経験の息吹を感じながらサーフィンを振り返ることができるレジェンドたちです。

これらの異なる視点、異なる声を組み合わせることで、日本人であること、そしてサーファーであることの意味をより広く描くことができるのです。

―Disney+と一緒に作るドキュメンタリーと、そうでないドキュメンタリーの最大の違いは何でしょうか?プロセスと作品そのものの2つの側面から教えてください。

ジェイソン・バッファ このシリーズは、Disney+という巨大な国際的企業のために作られたものだったので、監督の人数も多く、プロセスは非常に異なっていました。

私はマーク・ジェレミアスと2台のボレックス・フィルム・カメラを使って「One California Day」を作ったことがあり、その制作スタイルはとても自由でした。でも、今回のプロジェクトでは、大規模なクルーや法務チーム、撮影やロケを管理するための確固たるプロトコルが必要だったんです。

多くの人がそれぞれのニーズや意見をぶつけました。それは今までにないやり方でしたね。とはいえ、予算はあるし、すばらしいキャラクターもいるし、伝えたいストーリーもある…。だから、最終的な作品は、私の他のプロジェクトと似たような感じになりました。その点は誇りに思っています。ただ、ストレスはかなり増えましたけどね(笑)。

さらに言えば「Chef’s Table」を制作しているボードウォーク・ピクチャーズのクリス・コーウェンやチームと一緒に仕事をすることで、このシリーズはより深いドキュメンタリーの面とストーリーテリングの面の両方でより深い作品になったと思います。

登場人物と彼らの人生における苦悩を真に描いています。何が彼らを突き動かし、困難にどう対応するかを見ていくことができるのです。このようにレンズを通してサーフカルチャーを見せることで、多くの若者が自分の夢を追いかけ、自分らしさに忠実であることを鼓舞できればと思います。

撮影を通じて感じたこと

Chasing Waves ジェイソン・バッファ

―今回この作品を作ってみて、日本のサーフィンにはどんな未来があると予想できますか?

ジェイソン・バッファ 日本の才能には圧倒されますね。スケートボードやスノーボードなどのオリンピックを見れば、若い才能がいかに多いか一目瞭然です。

私がエキサイティングだと思うのは、この物語の登場人物たちが、次の世代に道を開いているような気がすることです。私の考えでは、これらのアクションスポーツは、もはや日本では異端児や放浪者の活動とは見なされていません。

―コロナウイルスが大流行する中、ドキュメンタリーを作らなければなりませんでしたね。そのことは、どのような影響を及ぼしたのでしょうか?

ジェイソン・バッファ 前述の通り、非常に困難な状況でした。ドキュメンタリー映画制作では、アクセスがすべてです。だから、日本が観光客に門戸を閉ざし、選手やイベントが保護された「バブル」の中で行われるというのは、大きな挑戦でした。

キャストとクルーの健康に対する責任を感じることも大変な作業でした。もし、彼らと一緒に旅や撮影ができないなら、どうやってその人のストーリーを伝えるのでしょうか?もし、彼らがカメラを持っていることを望まなかったら?そこで、私たちは解決策を考え出さなければなりませんでした。

―波という自然を相手に撮るドキュメンタリーの面白いところとむずかしいところはどんなところでしょうか?

ジェイソン・バッファ 自然は予測不可能であるからこそ、エキサイティングなんです。映画監督になると、「波を追いかける」という醍醐味があります。もちろんフラストレーションが溜まることもありますよ。

サーフィンのライフスタイルは、アスリート・メディア・カルチャーが自由でなければなりません。固定観念かもしれませんが、流れの中にこそ真実があるのだと思っています。

映画制作は堅苦しいものです。スケジュールや予算、許可などいろいろありますからね。でも、だからこそクリエイティブになれるし、エキサイティングなことになるのだと思います。

―異なる言語でドキュメンタリーを撮影することのむずかしさは何ですか?

ジェイソン・バッファ 私はインタビューをしたり、人と話したりするのが好きなので、通訳や「仲介者」にインタビューをしてもらわなければならないときは、個人的な関係が少し失われます…。しかし、そうは言っても、メリットもあるのです。

ディレクターとしては、一歩下がって全体像を把握することができますから。翻訳に時間がかかる分、聞き逃してしまうようなこともありますが、その分、物事がクリアになるかもしれません。今回、制作パートナーであるイマゴマキナのすばらしいサポートがありました。心から感謝したいと思います。

全8話にも及ぶドキュメンタリーとなった今回の「Chasing Waves」。コロナ禍での撮影を強いられたため、監督が来日できないなどさまざまな苦労があったようです。そんな紆余曲折を経て出来上がった作品は「なるほど」と納得する出来栄えとなっています。Disney+に登録して、一度観てみてはいかがでしょうか。

ライター

中野 晋

サーフィン専門誌にライター・編集者として20年以上携わり、編集長やディレクターも歴任。現在は株式会社Agent Blueを立ち上げ、ライティング・編集業の他、翻訳業、製造業、アスリートマネージング業など幅広く活動を展開する。サーフィン歴は30年。