スイス発祥の朝食として知られている「Bircher Müesli(ビルヒャーミューズリー)」。実はこのひと皿には「Kur(クア)」と呼ばれる療養文化の思想が色濃く反映されています。本記事では、ビルヒャーミューズリーが生まれた背景やKur文化における「食」の位置付けを、スイス在住の視点で紐解きます。健康やウェルネスに関心のある人はもちろん、食べすぎた後に体調を整えたいと感じている人にもおすすめのスイス流“整える朝食”の原点。最後までお見逃しなく。

スイスのKur(クア)文化とは何か

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Kur(クア)とは、医療や温泉療養だけでなく、食事や運動、休養といった生活習慣全体を通して心身のバランスを整える、スイスの隣国であるドイツ発祥の療養思想です。

Kurは温泉資源と豊かな自然環境を持つスイスにも、不調を未然に防ぐための生活習慣として、受け継がれてきました。医師の管理下で行う特別な療法だけでなく、日々の食事や過ごし方を見直すことも、Kurの一部として捉えられています。

Kurは「特別な療養」ではなく、日常の中にある

スイスで生活するようになり、このKurの考え方は、特別な施設や専門家のもとにあるのではなく、日常の選択の中にも根づいているなと感じるようになりました。

たとえばスイス人である義理の母が、オーツ麦を水に浸して一晩寝かせ、翌朝すりおろしたリンゴを入れたものを朝食に食べていました。それが、「ビルヒャーミューズリー」。

Kur文化の特徴は、症状が出てから対処するのではなく、日々の小さな違和感に気づき早めに整えることだと思います。健康のために何かを”がんばる”のではなく、体に負担をかけすぎないことを優先する。この姿勢は、スイスの暮らしの中に溶け込んでいるようです。

参考:https://www.aboutswitzerland.eda.admin.ch/en/muesli-the-world-famous-swiss-breakfast-classic

療養食として生まれた「ビルヒャーミューズリー」

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ビルヒャーミューズリーは、20世紀初頭、スイスの医師マクシミリアン・ビルヒャー=ベンナーによって考案されました。彼は、当時主流だった肉食中心の食生活が体に負担をかけていると考え、生の果物や穀物を取り入れた消化にやさしい食事を療養に用いました。

その結果、胃腸の不調や慢性的な疲労を抱えてきた患者の体調が徐々に安定し、食後の不快感が軽減されるケースが多く見られたとされています。

薬や強い治療に頼るのではなく、食事を通して体の回復を引き出す彼のアプローチは、画期的なものでした。この治療はやがて病院や療養施設だけでなく、一般の家庭にも広まり、日常の朝食として定着していきます。

ビルヒャーミューズリーは単なる栄養食ではなく、「体を直す前に整える」というKur文化の考え方を象徴する存在として、スイスの文化にも受け入れられてきたのでしょう。

参考:https://www.aboutswitzerland.eda.admin.ch/ja/suisu-no-meibutsu

消化に負担をかけない朝食という発想

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左から2番目、手前のお皿がビルヒャーミューズリー

スイスのホテル朝食やレストランのブランチでは、ビルヒャーミューズリーがほぼ必ずと言っていいほど並んでいます。見た目は素朴で、甘さも控えめ。初めてみた時は、なぜこれが定番のスイスの朝ごはんなんだろうと不思議に思いました。

しかし、実際に食べてみると、食後に体も重くならず、午前中を穏やかに過ごせることに気づきます。その控えめな甘さも次第に心地よく感じられるようになりました。

グラノーラと違い、油や火を使わないのでビタミンやミネラルが失われにくく、食物繊維も豊富。水やミルクに一晩浸し、ふやかしてから食べるので胃腸が疲れている朝でも無理なく口にできます。これは、日本で体調が優れない時にお粥を選ぶ感覚に近いものがあるかもしれません。

スイスでは、ビルヒャーミューズリーは「健康のために我慢して食べるもの」ではなく、体調に合わせて自然に選ばれてきた、スイス流の消化にやさしい食事法なのです。

スーパーでも気軽に購入できるビルヒャーミューズリー

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スイスのスーパーマーケットでは、ビルヒャーミューズリーが軽食コーナーに並んでいます。気軽に食べられる、コンビニ感覚で購入できるサンドイッチと同じ棚に置かれているのが印象的です。

我が家でも夕食の買い物の際に、コンビニ感覚で購入できるビルヒャーミューズリーを購入することがあります。

特別な健康意識があるわけではなく、「明日はこれが食べてみたいな」という軽やかな選択。その積み重ねこそが、Kur文化が暮らしに馴染んでいる証だと感じています。

日本でもすぐにできる「スイス流Kur」のヒント

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スイスのKur文化を、そのまま再現しようとすると難しく感じるかもしれませんが、少しだけKur思考を取り入れてみるのはいかがでしょうか。ここでは、簡単に取り入れられる3つのアイデアを紹介いたします。

朝食を「軽く始める日」を作ってみる

「朝食をしっかり食べなければならない」、という思い込みをいちど手放してみるのもひとつの方法です。軽い朝食を始めるために、前日の夜に下ごしらえをしてみましょう。

基本のレシピ

・細長くすりおろした生のリンゴ
・オーツ麦(少量)
・水(少量)
・ナッツ
・コンデンスミルク
・レモン汁

オーツ麦や穀物を水またはミルクに浸し一晩おけば、下準備完了。翌朝はコンデンスミルク、レモン汁、すりおろしリンゴを加えて、お好みのトッピングを合わせれば、手軽にビルヒャーミューズリーの朝食が出来上がり。

体調に合わせて朝食の重さを調節する習慣は、Kurの考え方そのものです。

お気に入りのレシピを見つけてみる

ビルヒャーミューズリーは、自分なりにカスタマイズできる点も飽きのこない理由かもしれません。ビルヒャー=ベンナーが考案したオリジナルレシピは、コンデンスミルクやミルクを使用しますが、我が家ではコンデンスミルクの代わりにはちみつ、ミルクの代わりに、アーモンドミルクやソイミルクを使用しています。

そのほかにも、ブルーベリーやキウイなどフルーツを加えたり、フルーツ味のヨーグルトを混ぜてみたり、ときには見た目もきれいな色になるアサイーパウダーや抹茶の粉末を加えたりして楽しんでいます。

材料を揃えるのが大変な場合は、カルディなどで販売しているサイテンバッハ ミューズリー」を利用してみるのもいいですね。

「体が楽な食事」を生活に取り入れてみる

Kur文化の視点で大切にされているのは、「栄養学的に正しいかどうか」よりも、食べた後に体がどう感じるかです。「今日はこれなら楽に食べられそう」という感覚で食事を選ぶことも、立派なセルフケア。

正解を探すより、自分の体の声に耳を傾けてみましょう。

Kur文化とは特別な療養法ではなく、日々の小さな選択を通して体を「整える」姿勢そのものだと感じます。ビルヒャーミューズリーも、その日の体調に合わせて選ばれてきた食事のひとつ。私のお気に入りは、抹茶粉末とあんこを添えた和風ミューズリーです。甘味を加えたり、旬のフルーツや味の違ったヨーグルトを使えば、子どもでも食べやすくなります。家族のそれぞれ「ちょうどいい」を探しながら、無理なく続く形で、整える習慣を暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。

アルパガウス 真樹

ライター

アルパガウス 真樹

スイス在住の40代主婦。息子とスイスの自然を楽しみながら、さまざまなアクティビティに挑戦。夏は森の中でのBBQやハイキング。海のないスイスでは、湖水浴が定番なので、夏季は湖沿いで過ごしたりSUPを楽しんだりしています。現地からスイスの自然との触れ合いをお届けします。