「子どもに自然体験をさせたい」と考える親は多いでしょう。しかし、自然のなかで遊ぶことの意味について、具体的に説明できる人は少ないかもしれません。自然のなかで遊ぶ意味を知ることで、わが子とのアウトドアがより意味あるものになるはず。本記事では、長年乳幼児に自然体験を提供してきた経験を踏まえながら、自然のなかでの遊びがもつ特徴と子どもへの影響について解説します。

子どもの育ちは遊びのなかに

子ども 自然 環境教育

子どもは、遊びを通して五感を働かせ、直接体験することによって物事を感覚的にとらえます。身の回りのものに興味をひかれると、心と体すべてを働かせてアクションを起こし、遊びに没頭する過程でさまざまなことを学んでいきます。

徐々にできることが増え、行動範囲が広がり、挑戦する意欲や興味関心が広がるこの時期に、成長の鍵となるのは自分の周りにある環境です。好奇心を刺激され興味・関心の幅が広がったり、自信がつくような体験ができる、良質な環境が欠かせません。

少子化、都市化、情報化が進んだ今の社会では、異なる世代の人との交流や自然と触れ合う機会が失われ、豊かな体験を積む機会が失われています。また、子どもの体力の低下も懸念されています。

情報化が与える影響も小さくありません。映像からの刺激は、バーチャルなのに実物のように見えて子どもを魅了します。直接体験から離れることで、豊かな感性や想像力が育まれる機会も奪われているのです。

自然のなかでの遊びの特徴

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屋内での遊びでも子どもたちは直接体験を重ねることは可能ですが、外の環境には屋内よりも多様で変化に富んだ要素がたくさんあります。まず、屋内では空間が仕切られたり、使える物が限られているのに対し、野外は屋内よりも開放的で自由な環境です。

また、自然のなかには、多種多様な植物に虫、石や枯れ枝、落ち葉などの素材が数えきれないほど存在し、さらに水の流れや風、太陽の光によって変化が加わります。何か一つでも興味ひかれるものがあれば、そこから自発的な遊びが生まれるでしょう。

何をしたいのか、どうやって遊ぶのか、自分で自由に決められることが重要です。一人で気に入った物を黙々と集めることも、木登りなどのダイナミックな遊びで自分の限界を試すことも、友達と協力して秘密基地を作ることもできます。

さらに、野外では五感を総動員して遊べるため、感性を高めるのに効果的です。光の反射や手触り、匂い、味はバーチャルではとらえにくい要素です。甲虫の前羽の光沢や硬さ、照葉樹の厚みのある葉の感触、むしった草の香り、クワやキイチゴの実の甘酸っぱさ。野外には、五感を刺激するものがあふれています。

季節の移り変わりなど自然には規則性がある一方で、変化に富んでいます。葉っぱ一枚をとっても同じものはなく、水の流れや光線、生きものが予測できない反応を見せる点でも魅力的です。美しさ、おもしろさに気づいて感動するといった心の動きとともに理解したことは、長く心と体に刻まれます。

自然との触れ合いは生きる力の土台

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自然のなかで遊ぶ経験は、学力・人間性・体力をバランスよく身につけて、「生きる力」の土台を育むことにつながります。幼児教育の指針となる「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」でも、自然のなかで直接体験することの大切さが明記されました。子どもの育ちを支えるための具体的な活動を示す「保育の内容」には、下記のように明記されています。

保育所保育指針

第2章 保育の内容
ウ 環境
② 幼児期において自然のもつ意味は大きく、自然の大きさ、美しさ、不思議さなどに直接触れる体験を通して、子どもの心が安らぎ、豊かな感情、好奇心、思考力、表現力の基礎が培われることを踏まえ、子どもが自然との関わりを深めることができるよう工夫すること。

これから、変化の激しい社会を生きていくことになる子どもたちにとって、自然のなかでの遊びがもつ意味について、考えていきましょう。

非認知能力が育まれる

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いま注目されている「非認知能力」とは、問題解決力、思考力、協調性、コミュニケーション能力、自己管理能力など、数値で測ることができない能力です。この能力は困難に立ち向かったり、人間関係を築いたりするための基盤となります。

たとえば、新しい独自のものを創ることや失敗しても工夫してやり直すこと、友だちに共感することも非認知能力の一つです。非認知能力は幼児期に大きく発達し、将来の学習意欲や社会での適応力にも影響が大きいことがわかっています。

これまでは読み書き、計算、記憶力など学力テストで評価できる「認知能力」が重視されていましたが、成長の過程では非認知能力と両輪で身につけることが必要です。非認知能力を育むためには、興味をひかれる魅力的な素材や、自由に遊び、挑戦できる環境、失敗しても受け止めてもらえる経験が欠かせません。野外での遊びには、非認知能力を伸ばす条件がそろっています。

命の大切さ・畏敬の念を知る

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子どもが自然のなかで遊ぶ体験は、生きものの命の営みを感覚的に知る貴重な機会です。自然界のなかでは、命が生まれ、死んで他の生きものに利用されるというサイクルが絶えず繰り返されています。

また、天気や川の流れ、大きな木や岩など、人の力ではどうすることもできないものも多く存在します。自然のなかでの遊びを通して、生きものの死を目の当たりにしたり、自分の力の限界を感じたりする場面があるはずです。そういった経験を重ねるうちに、人間も生きものであり、自然の恵みがあってこそ生きていけることを肌で感じることにつながるでしょう。

自然環境を理解する力につながる

情報化が進むほど正しい情報を見極める力が必要ですが、実物はどうなのかを体験的に理解していなければ誤情報を判別できません。また、“食う”“食われる”など生きもの同士のつながりや雨後の水の流れなど自然界のダイナミックな動きは、野外だからこそ感じられるものでしょう。

一つひとつの事象に触れることが、将来もっと複雑なことを理解するのに役立ちます。環境問題と向き合いながら生きていく時代に、自然について体験的に理解することはとても大切です。

自然のなかでの遊びを通して、子どもたちは自分の力を試し、命や環境へのまなざしを育んでいきます。親子で自然と向き合う時間は、これからの時代を子どもたちが生きていくための大きな力につながるはず。自然のなかでの遊びの大切さを知り、子どもとのアウトドアをさらに価値あるものとしてください。

【参考資料】
保育所保育指針解説|厚生労働省
令和2年度 青少年の体験活動の推進に関する調査研究 報告パンフレット|文部科学省

曽我部倫子

ライター

曽我部倫子

東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。

子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三姉妹の母。