コーチはスクールの延長線でスタート

笹岡拳道(ささおかけんと)

ーそこから時を経て今は笹岡建介、岡本碧優という有力選手のコーチもされていますが、こちらをはじめたきっかけは何だったのですか?

それぞれ付いたきっかけは違うんですけど、建介の場合はコーチというよりも元々兄弟なので、今までは一緒に練習して一緒に大会に出て、良い意味で刺激し合う間柄でした。

自分がスクールへシフトチェンジしていくと同時に、兄弟では建介しかコンテストに出なくなっていったので、自然とサポート役に回ったという感じですね。

自分の経験を活かしてアドバイスをしたり、動画を撮ってあげて今のはこんな感じだったよとかいう形なのでがっちりコーチングというよりも、良くある兄弟アスリートの高め合いみたいな感じとイメージしてもらう方が分かりやすいと思います。

碧優に関しては最初は本当に世界を目指すも何もなく、ただ単に月に一回スクールを受けにきていた子でした。でもこれはよくTVとかでもいっているんですけど、彼女の滑りを見たときに、俺も建介もこの子はちゃんとやれば良いところまで行くんじゃないかって思ったんです。

2017年に建介のサポート役として『Vans Park Series』(パークスタイルで世界最高峰の大会のひとつ)に足を運んだとき、男子と比べて女子はまだまだ世界を目指せるところにあるな、ひとつひとつのトリックのクオリティを上げて、540を出せばこれからでも世界一は可能だなと感じたんです。

だから自分は彼女にその話をしました。そうしたら彼女も世界で活躍するスケーターになりたいといったので、「それなら今の甘い練習や教え方じゃ全然ダメだからもっとビシバシいくぞ!!」 という形で付くようになったんです。

彼女が転校して家に下宿するようになったのもそれが理由の1つです。なので完全にスクールの延長線なんです。

 

いかにして子どものやる気を引き出すのか

笹岡拳道(ささおかけんと)

ーということはスクール業の方がコーチ業よりも長いことになりますが、実際にはじめてみてどんなことが大変でしたか?

今は基本的に子どもが相手になるので、いかにしてやる気を引き出すのかっていうのに苦労します。

例えば、先週はすごくやる気だったのに、今週はまったくやる気がないってこともよくあるので、子どもならではの気分の浮き沈みのコントロールにはすごく気を使っています。そこは喋り方だったり、子どもによって教え方を変えるような形で対応するようにしています。

あとは、いかにして自分の教えたいことを伝えるのかも大変ですね。仮に教える対象が大人であれば、理論もストレートにいうだけで伝わるんですが、子どもにはそれがなかなか伝わらないし、しっかり理解しているのかどうかがよくわからないんです。

ーではその場合どういう方法を対処しているのですか?

自分は子ども達にとって身近なものを例にして教えるようにしています。

例えばアクスルストール(※1)をやるとしましょう。このトリックの場合、スピードがゆっくりだと我慢してから身体を回す必要があり、逆に速いと少し早めに身体を回す必要があるんです。

が、そこが子どもにとっては「?」マークなんです。なので、車など子どもからの認知度が高いものを例えて説明してあげるんです。

カーブを曲がらなければいけないときに、遅い車だったらちゃんとコーナーを曲がれるけど、速い車だったら通り過ぎてしまう、じゃあ同じ場所で曲がらなきゃいけないのに、スピードが速い方が遅い方と同じように我慢して、同じタイミングで身体を回したらダメ。

だからもっと早く曲がる準備(身体を回転させて両トラックを乗せる準備)をしようと。そうすると皆が「なるほど!」 って理解してくれるんです。

もうかれこれ5年以上はスクールをやっていますが、この辺は今でも日々勉強だと思っています。より良い指導方法は常に模索しながらやっていますね。

※1 湾曲した滑走面を駆け上がり、両トラックを天辺にあるコーピングと呼ばれるパイプに乗せるトリック

 

教え子たちの活躍

笹岡拳道(ささおかけんと)

ーその逆でスクールをやってきて良かったなと思うことを教えてください。

ひとつはスクール生が活躍してくれることです。皆さんもご存知の通り岡本碧優は世界一になりましたし、建介は日本でトップに君臨しています。

それ以外にも内田琉已(うちだるい)というスケーターは2019年の湘南オープンで優勝しましたし、小学校3年生の志治群青(しじぐんじょう)は、昨年末のJSFのパークスタイルオンラインコンテストのキッズクラスで優勝しました。そういうのは自分のことのように嬉しいです。

それともうひとつはなんといってもスクール生が新しいトリックをメイクした時ですね。トライするトリックによっては習得に何ヶ月、いや1年以上かかるものもあるので、それがやっとの思いでできたときは本人はもちろん、自分もすごく嬉しいです。

そのメイクまでの過程には、途中で諦めることも当然あるんですけど、そういう辛い思いや痛い思いに必死に耐えて頑張ってきたからこその嬉しい気持ちなんだよっていうのは伝えています。

そうやって次へのモチベーションを高めてあげることも教える側の仕事としてはとても重要なことだと思っています。

笹岡拳道(ささおかけんと)

 

Profile:笹岡拳道(ささおかけんと)

1993年6月14日生まれ。ホーム:岐阜県岐阜市
スポンサー:Hi-5 Skatepark、PROSHOP BELLS、6556 Skateboarding、DORCUS TOP BREEDING SYSTEM、Division
元全日本ジュニアチャンピオンの笹岡賢治を父に持ち、弟の堅志、建介と共にスケートボーダー3兄弟の長男として活躍。アールセクションを中心とするパークスタイルを得意とし、パワフルなグラインドトリックは必見の完成度を誇る。第一線を退いた現在は、TRIFORCE SKATEBOARD ACADEMYのスケートボードスクールと、TRIFORCE MANAGEMENTというマネジメント会社の代表業務を中心に、笹岡建介、岡本碧優両選手のコーチ兼マネージャーを務めている。

 

【 笹岡拳道】世界ランク1位を育て上げたパークスタイル特化型スケートボーダー育成術〜取材記Part2

【笹岡拳道】世界ランク1位を育て上げたパークスタイル特化型スケートボーダー育成術〜取材記Part3

国内有数のスケートファミリーに生まれ育ち、今までスケートボード一色の人生を送ってきた笹岡さん。それにより、今やパークスタイルの指導者としては国内有数の存在となりました。次回の取材では、現在の事業の中心となるスクール業・コーチ業ともにさらに掘り下げていきます。

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この記事を書いた人

吉田 佳央

1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。