飛行機やグライダー、ボードやヨットを浮かせる“翼”、ヨットやウィンドサーフィンを走らせる“帆”、いずれも“翼”や“帆”に生まれる「揚力」がその作用を生み出しています。この記事ではこの「揚力」についてを解説し、浮上や前進するメカニズムに迫ります。

浮上も推進も力の源は「揚力」

フォイリング(揚力)

出典元:pwaworldtour.com

水上スポーツには、化石燃料を燃やすエンジンで推進力を得て楽しむものもありますが、やはり風や波といった自然現象のパワーを生かし、より自然と一体となって楽しむものが本道といえます。

エコパワーには3つのタイプがある

推進力を生み出すエコパワーは、

  • サーフィンでの利用が代表されるうねりや波の力
  • ヨットやウィンドサーフィン、カイトボーディング、そしてウイングで利用されている風の力
  • SUPやカヌー、カヤックなどパドルスポーツの人力

この3つです。

なかでももっとも代表的なエコパワーは、空気の流れである風のパワーです。

そして人はその風のパワーのうち、ある一定方向の力を重点的に利用して、浮上力や推進力などの求めたい力を得ています。浮上力・推進力ともに、それらの力の源は揚力という力です。

そしてその力を生み出す物理現象を、私たちは翼やセール、フォイルなどの道具を用いて発生させ、利用しているのです。

 

揚力とは

フォイリング(揚力)

揚力とは流れの中にある物体、特に板状のものが受ける力の中で、流れの進行軸に対して直角に働く分力(力の成分のこと)を指します。

とくに物体が傾いて流れを受けるときに発生します。

実際に発生する力は直角成分と水平成分(抗力/流れと並行の進行軸)の合力なので、揚力だけが発生することはありません。

なぜ直角方向の力の成分が生まれるの?

では、なぜ板状の物体は、角度を持って流れと相対すると、流れの方向と同じ水平軸だけでなく、直角軸の力を生むのでしょうか?

まずは翼で解説します。(図を参照)

水や空気の流れの中で、翼やフォイルのような板状の物体がある角度で流れを迎えたとすると、上面では圧力が低くなり、下面では高くなるため、翼には上向きの力が作用します。

また、翼は流れを下向きに曲げたので、流れに下方向の力を作用したことになります。

作用・反作用の法則から、その反作用として翼の上面には上方向の力がかかることになります。

これらが翼に上向きの合力を生み出し、その成分を垂直・水平の各軸に分解すると、上面に垂直な成分が発生しているということになるのです。

翼に発生する力は上方向になりますが、翼を垂直に立てたとすると、発生する力も90度回転しますから、揚力は上下方向から水平方向の力に変化します。

これがセールが生み出す推進力です。セールは翼を上下に90度回転させた翼と理解しておきましょう。

また、フォイルのように両端翼ではありませんが、ボード後端で同じように水中に垂直に刺さるように位置するフィンも、セールと同様に水平方向の揚力を生んでいます。

こちらの揚力は直進安定性を生むように、グリップ力として作用しています。

フォイリングではなぜ小さな翼、低いスピードで浮くのか?

フォイリング(揚力)

飛行機は離陸時にエンジンを使って、非常に高いスピードを出してテイクオフしていきます。

しかし、フォイリングでは、ウイング、ウィンドサーフィン、サーフィンのいずれも、小さな水中翼でわずか時速10〜20km程度の低速でリフトします。

飛行機の機体が重いとはいえ、大きなアメリカズカップ級のヨットでも、小型の翼と低速走行でリフトしていきます。この理由について探ってみましょう。

理由は水の密度にあった

その理由は、翼が置かれる流体の違い、つまり気体中か液体中かの違いにあります。

揚力には流体の密度と流速、この2乗に比例して大きくなるという性質があるためです。

密度が高い流体の中では、低いスピードでも大きな揚力が発生するのです。ちなみに水の密度は空気の820倍。

水中で発生する揚力が空気中とは比べ物にならないほど、非常に効率的に発生していることがわかります。

ヨットやウィンドサーフィンのように、風のパワーを利用して疾走できるスポーツだけではなく、SUPやサーフィンのようにスピードをあまり出せないスポーツでも、フォイルを楽しめるのはこの揚力の性質のおかげ。

フォイルは水上スポーツと極めて親和性が高いギアといえるでしょう。

なお、揚力は流体の迎え角度や翼の面積や厚さ、形状など、その他のさまざまな要素によっても変化する力でもあります。

 

リアウイングの役割とは?

フォイルには飛行機と同じように、主翼であるフロントウイングだけでなく、リアウイング=尾翼も付いています。主翼に比べるとかなり小さな翼ですが、揚力も生み出しています。

この尾翼は、いったいどんな役割をしているのでしょうか。

パフォーマンスに関わるリアウイング

飛行機の尾翼には水平尾翼と垂直尾翼があります。

大きな主翼だけでは揚力は確保できても、飛行機が上下や左右の回転に対する安定性が確保されません。

尾翼はこの安定性を確保する役割を持っています。フォイルでは垂直尾翼の役割はマストが果たし、リアウイングが水平尾翼となっています。

そして尾翼の形状や大きさ、厚みなどの違いは、フォイリング中の操作性や運動性などと大きく関連し、フロントとリアの2つのウイングのコンビネーションによって、フォイリングのパフォーマンスが生み出されているのです。

ついに開かれたフォイリングの扉。フォイリングにはスピード性能から運動性能まで、今までになかった優れたパフォーマンス性が備わっています。そしてそれは、フォイルという水中の翼が、高効率に揚力を生み出すメカニズムが支えているのです。

ライター

Greenfield編集部

自然と向き合い、環境に配慮しながらアウトドアスポーツを楽しむ人に向け、自分や周囲のウェルビーイングの向上につながる情報をお届けします。