レースシーズンが一段落する秋。緊張から解放されてホッとする一方で、張り詰めていた気持ちがゆるみ、戸惑いを覚えるサイクリストも多いのではないでしょうか。筆者も、レースや練習に気持ちが向いていた日々が落ち着くこの時期は、どこか心が宙に浮いたような感覚になるときがあります。そこで今回は、速さや記録から少し離れ、景色と時間を味わう“ご褒美ライド”を提案。レースを走り抜けた人だからこそ感じられる、この季節ならではのサイクリングの魅力を紹介します。

レース後の体と心を整える「リカバリーライド」という選択

レースシーズンが終わりを迎える11月は、目標設定を立てにくく、走る理由が見えづらくなる時期です。

「走りたい気持ちがあるのに方向性が定まらない」という状態は、多くのサイクリストに共通するもの。レースシーズンを3年ほど続けている筆者も、春から約半年に渡るレースシーズンを終えるとこのような感覚を覚えます。

そんなタイミングで役立つのが、強度を下げて無理のない一定のペースで身体を動かす「リカバリーライド」です。筆者の普段の練習ルートである弥彦山(やひこやま)も、ペースを落として走ると、心拍の状態や脚の反応がよくわかり、コンディションを客観的に確かめられます。

負荷をかけすぎない走りに切り替えると、息が上がるほど強度の高いトレーニングでは意識が向けづらかった木々の色づきや路面感覚が把握でき、身体の回復度合いを冷静に見ることができます。

これは単なる気分転換ではなく、疲労を抜きながら走力を維持するプロセスです。リカバリーライドを取り入れることで、レースシーズンの疲労をととのえて、次のステップに向けたコンディションづくりがスムーズになりますよ。

秋こそ楽しみたい「寄り道サイクリング」のすすめ

レースシーズン中は、気になるカフェやパン屋を見つけても、トレーニングを優先して素通りしてしまうサイクリストが多いように感じます。だからこそ、秋から冬の期間は心身のリフレッシュだけでなく、結果的に走りの安定にもつながる寄り道サイクリングがおすすめです。

気になっていた店に立ち寄ることは、単なる寄り道ではなく“疲労を溜めない走り方”のひとつ。運動強度が高い夏場は、摂取する食べ物の種類が偏りがちですが、強度を落とした秋のペースでの寄り道は、楽しみであると同時に“無理なく走り続けるための工夫”にもなります。

筆者も実際に、いつもの練習コース沿いのパン屋で休憩することで心と身体が整い、後半の走りが安定する感覚が得られました。

“速さ”から“味わい”へ。季節が教えてくれる走りの変化

一年を通して気持ちよく走り続けるためには、季節によって走り方を変える意識が役立ちます。春夏のレース期間「ハイシーズン」と秋冬の「オフシーズン」、それぞれの走り方を見ていきましょう。

  ハイシーズン オフシーズン
目的 レース結果・記録 自然や景色を堪能する
脚の使い方 高強度トレーニング 低強度ペダリング
心の状態 緊張・集中 解放感・リラックス

レースやイベントが集中し、パフォーマンスの向上や体力維持を目的に高強度トレーニングが中心となるハイシーズン。一方で、ペースを落として自然や景色を堪能するオフシーズン。季節にあわせて走り方を変えることで、ロードバイクの魅力はより深くなります。

速さを求めるハイシーズン

ハイシーズンはパフォーマンスを高め、FTP(持久力や走りのパワー値)を上げることを目標にトレーニングに励むサイクリストも多いことでしょう。

筆者自身も、寄り道を楽しむグルメライドよりも効率を優先し、補給食とボトルだけで乗り切ることがほとんどです。心身ともに苦しい場合もありますが、目標を達成するための大切な期間でもあります。

癒しを味わうオフシーズン

秋から冬は体の疲れ具合や呼吸の状態を意識する時期。ペースを落とすことで、紅葉や木漏れ日、落ち葉を踏む音や金木犀の香りなど、自然の変化に気付きやすくなります。

また、立ち寄りやすいカフェで休憩するなど、グルメライドを楽しむ余裕も持てますね。効率や記録に縛られることなく、競技とは違う角度から自転車と向き合えるため、体調の確認や次のシーズンへの準備にも役立つでしょう。

秋のサイクリングを楽しむヒント

秋は気温や日照時間が変わりやすく、落ち葉や雨などの影響によって路面状況もさまざまです。ここでは、筆者が秋サイクリングで実践している準備や工夫をもとに、具体的なヒントを紹介します。

万全な寒さ対策

気温差に対応できる装備を心がけましょう。とくに坂のあるルートでは、登りでは汗をかきますが、下りで風を受けると一気に冷えるため、薄手の防風ジャケットをジャージポケットに忍ばせておくと温度変化に対応しやすくなります。

また、指先を覆うタイプのグローブを活用すると、手の冷えによる疲労が防げるのでおすすめです。

以下の記事では、秋のサイクリングにおすすめなアイテムを詳しく紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。

【紅葉サイクリング】秋ライドを快適にする気温別おすすめアイテムを紹介
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立ち寄りスポットは事前に調査

道中のカフェやパン屋への寄り道は、オフシーズンの楽しみのひとつです。駐輪設備の有無や車の混雑具合など事前に確認しておくと、無用なトラブルを避けやすくなります。Googleマップやサイクリストからの情報をチェックしておきましょう。

熊情報は要注意

秋は熊の出没が増える時期でもあります。人通りの少ない林道は単独走行を避けるなど、無理のない範囲でルートを選ぶことも大切です。筆者も予定していたルートを臨機応変に変更しています。地域の目撃情報を確認し、必要に応じて熊鈴を利用しましょう。

競技の先にある“心で走る”サイクリングの楽しみ

速さや数字を追う日々から少し距離を置いてみると、これまで気づかなかった景色や体の反応が見えてきます。いつものコースでも、ペースを落とすだけで空気の匂いや木々の色づきが印象的に感じられるでしょう。

秋は、そんな変化を受け取りやすい季節です。寄り道や自然の移ろいを楽しみながら、自分のコンディションに寄り添うサイクリングを試してみてくださいね。

レースを走り抜けたあとは、心と体のリズムを整えるための大切な時間です。「速く走る」から一度離れることで、改めてロードバイクと向き合う余白が生まれます。寄り道や景色を味わうご褒美ライドは、気持ちのリセットになり、来シーズンの走りにも自然とつながっていきます。強度より心地よさを優先した季節と走る1本を、秋のサイクリングに取り入れてみてくださいね。

yomec(よめしー)

ライター

yomec(よめしー)

自然豊かな新潟県在住、夫婦でロードバイクを楽しんでいる自転車ライター。子育てしながらトレーニングする方法を日々模索中です。今ではヒルクライムを中心としたレースが家族旅行に。愛車はSPECIALIZEDとBROMPTON。夫婦での所有スポーツバイクはなんと8台。ファミリーでも楽しめる自転車の魅力を発信します。