使いきれなかった野菜や、気づけば賞味期限が切れていた食材を「もったいないな」と思いながら捨ててしまうことはありませんか。家庭から出る食品ロスを少しずつ減らしていくことは、“小さな循環”を育てることでもあります。この記事では、今日からできる買い物・保存・調理の工夫と、暮らしの中でできるコンポスト活用術を紹介します。
なぜ“家庭の台所”が地球を変えるのか

朝、冷蔵庫を開けるたびに感じる小さな罪悪感。気づけば、食べきれなかった野菜や残り物が静かに傷んでいる。環境庁によると、日本では年間約600万トン※もの食品が捨てられ、その半分が家庭から出ているといわれています。台所で出るその“ちいさなゴミ”が、エネルギー消費やCO₂排出につながっているのです。
一方で、家庭でのほんの少しの工夫が、地球の負荷を減らす大きな力になることがあります。捨てるしかなかった食材を、日々の買い物や食材の保存、調理のしかたを少しだけ見つめ直すこと。今日からできるこうした小さな工夫が、家庭から出る食品ロス(フードロス)を減らし、私たちの暮らしを“循環”へと近づけてくれます。
※出典:環境省 サステナブルで健康な食生活の提案
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/sustainable-syoku/mat01-1.pdf
家庭でできる食品ロス削減の3つの基本

私が暮らしの中で実践しているのは、「買い物」「保存」「調理」。どれも、ちょっとした意識で続けられる、日々の工夫です。
1. 「買い物」の工夫
買い物に出かける前、冷蔵庫をのぞく。奥からしんなりした野菜が出てきたら、「まだ使える」と思い直す。それだけで、自然と買いすぎを防げます。
私はショッピングリストに「今日使うもの」だけを書き出し、必要な分だけを選ぶようにしています。スーパーでは、賞味期限が近い見切り品の棚をのぞくのも日課です。そこで見つけた食材を上手に使い切れた日は、少し誇らしい気持ちになります。
2. 「保存」の工夫
冷蔵庫の中を整えておくと、食材がぐっと長持ちする気がします。「古いものから使う」を合言葉に、賞味期限の近い食品を手前に並べるようにします。
野菜は新聞紙に包んで湿度を保ち、果物は風通しのよい場所へ。新聞は余分な水分を吸い取りながら乾燥を防いでくれるので、野菜が傷みにくくなります。手のひらに残る野菜のひんやりした感触や、新聞紙のインクの匂いも、暮らしの一部になりました。
多めに作ったおかずは、小分けして冷凍室へ。忙しくて料理をする余裕がないときでも、温めるだけで手作りの味を楽しめるのは本当に助かります。この、無理なく続けられる“フードロス(食品ロス)対策は、忙しい日の自分を少しだけ助けてくれます。
3. 「調理」の工夫
大根の皮を炒めたときの香ばしさ。キャベツの外葉をスープに入れたときの甘み。捨ててしまうはずだったものが、ふたたび食卓で輝く瞬間が好きです。
余ったおかずはリメイクして翌日のおかずに。昨日は食べきれなかった煮物が、今日はカレーの隠し味になる。そんなひと工夫が、捨ててしまいがちな一皿をおいしく生まれ変わらせてくれます。
冷蔵庫の中を“見える化”しながら、工夫して保存し、食材を使い切る心地よさを味わう。それが、私にとっての小さな循環です。
台所から始まる“循環の暮らし”─コンポストを取り入れる

家庭でのフードロス削減に加えて、コンポストを取り入れることで、「ゴミを出さない暮らし」に一歩近づけます。
コンポストとは
コンポストとは、生ごみや落ち葉、野菜の皮などを分解し、堆肥に変える仕組みのことです。台所から出る生ごみをゴミとして処理するのではなく、自然のサイクルに戻す方法ともいえます。
土の中では、目に見えない微生物たちがせっせと働き、有機物を分解しながら肥えた土をつくり出しています。人の手では作れない“命の循環”を、家庭の中で感じられるのがコンポストの魅力です。
キッチンから始める、我が家のコンポスト実践編
我が家では、家庭菜園の隅に小さなコンポストを置いています。朝のコーヒーかすや、夕食で使った野菜の皮を入れるたびに、生ごみが土へと還っていくような、しっとりとやさしい匂いがふわりと立ちのぼります。
キッチンから出た生ゴミが、時間をかけて黒くやわらかな土へと変わっていく。その変化を手のひらで感じるたびに、「自然のしくみってすごいな」と。自家製の堆肥で育った野菜を収穫するとき、手の中の重みが少し誇らしく感じられます。
初心者でもできる始め方(ベランダ・室内)
最近は、室内で使える小型のコンポスト容器や、ベランダに設置できる簡易的なコンポストボックスやコンポストバッグも販売されています。スペースに限りがある家庭でも、始めやすく続けやすいのが魅力です。室内用のコンポストには臭いを抑える工夫がされているものもあり、初心者でも安心です。
私も最初は半信半疑でしたが、使い始めてみると驚くほど手軽で、台所から出るゴミの量が目に見えて減りました。
肥料として使う楽しみ
できあがった堆肥は、家庭菜園やプランターの土に混ぜて使います。市販の化成肥料と違い、台所から出た生ごみをそのまま土に戻せるので、ゴミの量を減らしながら土の力をゆっくり育てられるのがメリットです。ふかふかの土に触れると、手のひらからほのかな温もりが伝わり、自然と深呼吸したくなります。
その土で育った野菜や花は、生ごみが栄養として土に還った結果、生まれたものです。芽が出て、葉が茂り、実がついていく様子を見ていると、「あのリンゴの芯や野菜の皮が、こうして次の食卓につながっていくんだ」と気づかされます。フードロスから小さな循環に変わっていくプロセスを実感できるのです。コンポストは、環境のためだけでなく、暮らしに“自然とともに生きる喜び”をもたらしてくれる存在です。
ライター
Kazumi Kawagoshi
大学で国際文化・環境を学び、卒業後、小笠原父島で5年間の島暮らしを経験。現在、世界一高いレッドウッドの森と太平洋を望む米カリフォルニア州で21年目の生活を送る。休日は家族とサーフィンやキャンプを楽しんでいる。一児の母。ライター活動を通じ持続可能なくらしや地域文化の魅力を発信中。