2025年5月、イタリア栄養学会(SINU)は地中海式食事法の内容をアップデートしました。注目されたのは「豆の重要性」がさらに高まったことです。豆はたんぱく源として栄養価が高いだけでなく、環境にもやさしい食材。今回は、地中海式食事法の最新動向をふまえ、豆の栄養と地球に優しい理由をわかりやすく紹介します。

豆は今や主役!進化する地中海式ダイエット

「地中海式ダイエット」や「地中海式食事法」と呼ばれる食文化は、文字通り地中海沿岸の食文化。オリーブオイル、野菜、果物、穀類を中心に、魚類や肉類を適量摂取するのが特徴です。

地中海式食事法は、科学的な裏付けからも高く評価され、さらに地産地消や持続可能性の面からもメリットがあるとされています。地産地消や伝統的な面も注目され、2010年にはユネスコの無形文化遺産に認定されました。

また医療や健康に関するランキング記事で有名なU.S. News & World Reportは、地中海式食事法を「世界で最も健康的」と位置づけています。(※1)

世界で認められる地中海式食事法において豆類は、良質なたんぱく源として重要な位置を占めています

2025年のSINUアップデート:1日1回の豆の摂取推奨

2025年5月、イタリア栄養学会(Società Italiana di Nutrizione Umana)は、地中海式食事法の内容を更新。これまで以上に植物性食品の重要性が報告され、肉やお菓子の量を抑えるよう呼びかけられています。

これまでのSINUの指針では週に2~3回の豆の摂取が推奨されていましたが、1日1回へと変更。1日80g以上の豆を食べることが理想とうたっています。(※2)

地中海各地で愛されてきた豆料理の伝統

豆は紀元前6,000年ごろから中近東で栽培が始まり、ヨーロッパに伝わったといわれています。その歴史を示すかのように、旧約聖書にはレンズマメのスープが登場します。

地中海世界では豆は庶民の味方として日常的な食べ物でしたが、中世には豆のスープを好物とする教皇がいたことも記録されています。フランスの太陽王ルイ14世はグリーンピースが大好きで、王様の春の食材として17世紀のフランス宮廷でもてはやされていたのだとか。

近年はヘルシーブームで脚光を浴びるようになった豆は地中海の伝統的な食材で、レシピもバラエティに富んでいます。

豆のパワーを大解剖!期待できる効能

なぜ豆の摂取がこれほど推奨されているのでしょうか。まずは理由のひとつ、栄養面でのメリットを紹介します。

豆に含まれる2大栄養素

豆にはさまざまな種類がありますが、共通している特徴は2つの栄養素の含有量が豊富であること。その2つとは、たんぱく質と食物繊維です。

ベジタリアンの食生活を実践する場合不足しがちなたんぱく質は、豆の摂取で補えます。また豆には現代人に不足しがちな食物繊維も豊富に含まれています。

豆を率先して食べることで、健康維持に不可欠の2つの栄養素を取り入れることができます。

豆の種類別に見る主な栄養

地中海の料理によく使われる豆は、レンズマメ、ヒヨコマメ、ソラマメ、ウズラマメなど。それぞれの豆に含まれる栄養素を比べてみましょう。乾燥の状態100gあたりの数値です。(※3)

  カロリー たんぱく質 食物繊維 その他の栄養に関する特徴
レンズマメ 313kcal 23.2g 16.7g 鉄分が豊富
ヒヨコマメ 336kcal 20.0g 16.3g 良質な脂質、葉酸が豊富
ソラマメ 323kcal 26.0g 9.3g ビタミンのバランスがよい
ウズラマメ 280kcal 22.1g 19.6g ポリフェノールが豊富
グリーンピース 310kcal 21.7g 17.4g ビタミンKが豊富

参考までに記しておくと、成人女性1日当たりの推奨摂取量、たんぱく質は50g、食物繊維は18g以上。豆を食べることで、かなりの量をカバーできます。(※4)

豆の栄養から期待できる効能

豆には豊富な栄養が含まれていますが、実際にどのような効能が期待できるのでしょうか。(※5・6)

1.腸活

豆類は種類にかかわらず豊富な食物繊維量が特徴。腸まで届いて便秘を解消する不溶性食物繊維だけではなく、善玉菌の増殖に役立つ水溶性食物繊維も含まれています。腸活には最適な食材といえるでしょう。

2.生活習慣病の予防

動脈硬化や高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防にも、豆は大役立ち。水溶性食物繊維によってコレステロール値が下がるため、血管がきれいになります。結果、動脈硬化や心筋梗塞の予防につながるのです。

また、カルシウムやマグネシウムなどの豊富なミネラルは血圧をコントロール。高血圧を防いでくれます。近年の研究ではレンズマメを食べることで、糖尿病の発症率が下がることもわかっています。

3.美肌効果

腸活によって腸の調子が整うと、美肌などの美容効果が期待できることも。また豆類の多くはビタミンやミネラルが豊富で、バランスのよい食生活のための一助となってくれます。栄養のバランスがよくなることで、健康と美容、どちらにもよい結果をもたらします。

おいしくてサステナブル!豆料理で未来を変える

イタリア栄養学会がより多くの野菜や豆の摂取を勧める理由は、私たちの健康のためだけではありません。たんぱく源を肉から豆に移行することで、持続可能な社会につながると報告されています。

なぜ豆は地球に優しい?水・土地・温室効果ガスの観点から

豆の栽培は、畜産に比べると環境への負荷が少ないといわれています。EUの報告では、マメ科の植物は空気中の窒素を取り込む性質があり、化学肥料の使用を抑えられることが判明しました。化学肥料の製造は大量の二酸化炭素を排出するといわれ、温室効果ガスの発生にも関連しています。

EUから資金援助を受けた研究プロジェクト「Legumes Translated」は、農家や専門家と最新の研究情報を共有しながら、豆類の栽培面積の拡充に努めています。人々の健康だけではなく、土壌や空気、地球の健全性を守るために豆類は栽培の面から注目されているのです。(※7・8・9)

地中海料理から知る豆のおいしい食べ方

イタリア栄養学会では、1日80gほどの豆類を食べましょうと呼びかけています。とはいえ、EUの報告書では「豆はおいしくない」と敬遠する人が多いことも判明。なかなか日常の食生活に定着しない現状を伝えています。

一方、地中海式食事法では、子どもたちも喜ぶ豆のメニューがいくつかあります。

たとえばイタリアの「パスタ・エ・ファジョーリ」。ウズラマメやシロインゲンマメとパスタの煮込みで、小学校の給食にも登場します。玉ねぎ、にんじん、セロリのみじん切りをオリーブオイルで炒めたソフリットをベースにして、煮込んだ豆に好きな形のパスタを加えた料理。地域や家庭によってレシピが異なりますが、とくに冬には体の芯から温まるメニューです。

夏にはサラダ風に楽しむ家庭もたくさんあります。茹でた豆類を、トマトやツナ、生野菜やバジルと混ぜて、たっぷりのオリーブオイルをかけたシンプルな一品。

中近東の豆料理として有名なフムスはヒヨコマメのペーストですが、イタリアでも豆が食べにくいと思ったらフードプロセッサーで粉砕し、パテのように楽しむことも。レモンを絞ったりイタリアンパセリを加えると、夏でも楽しめる豆料理になります。

豆を食べるときの注意点

栄養たっぷり、地球にも優しい豆ですが、注意点もあります。

豆はしっかりと噛んで食べる必要があります。食物繊維が多いため、場合によってはお腹の張りを覚えるケースも。消化しやすいよう、咀嚼して食べるようにしましょう。こうすることで、より満腹感を感じやすくなるというメリットもあります。(※10)

日本では大豆を食べるとアレルギー症状が出るケースがありますが、イタリアでもソラマメのアレルギーがよく知られています。豆を食べる場合は体調や体質にも注意するようにしましょう。

健康によいだけではなく地球環境を守ることにもつながる豆の摂取。たんぱく質と食物繊維を豊富に含んだ豆は、ぜひ日常的に食べたい食材です。豆の食文化を持つ地中海のレシピも参考に、おいしくてサステナブルな豆のメニューを定番にしてみてください。
 

参照元:

※1.U.S. News & World Report「Best Diets Overall 2025」
※2.SINU「DIETA MEDITERRANEA: SINU, LA NUOVA PIRAMIDE ALIMENTARE PER FAVORIRE UNA MAGGIORE ADERENZA」
※3.文部科学省「食品成分データベース」
※4.厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)
※5.Fondazione Veronesi「I legumi: buoni, sani e… trascurati」
※6.National Library of Medicine「Legume consumption is inversely associated with type 2 diabetes incidence in adults: A prospective assessment from the PREDIMED study」
※7.公益財団法人日本豆類協会「豆の主な機能性成分」
※8.European Commission「Più legumi, salute e ambiente migliori」
※9.Legumes Translated
※10.農林水産省「ゆっくりよく噛んで食べていますか?」

cucciola

ライター

cucciola

ヨーロッパの片田舎で家族と3人暮らし。

学生時代に都会の生活で心を病んで以降、スローライフとスローフードで心身の健康を維持。気が向くまま、思いつくまま、風まかせの旅行が多数。

アートと書籍を愛するビブリオフィリアで1人の時間が大好き。