アウトドアで自然を満喫しているとき、ゴミが目についたけれど拾うのをためらった経験はありませんか?山のゴミはやがて海にまで行き着き、海洋汚染の原因となっています。今回は、地球のためにも、自分のためにも、ゴミ拾いをおすすめしたい理由をお伝えします。
フィールドで目につくゴミの例
山の中のトレイル、歩道わきの斜面、川原のやぶや街中の公園に至るまで、野外でゴミを目にすることは少なくありません。
正しく分別されてゴミ収集で回収されていれば、野外にはゴミはないはずです。これらのゴミは、どのように発生するのでしょう。大きく下記の3つに分けてみました。
意図せず落としてしまったもの
うっかり落としたり忘れたりして、ゴミを発生させてしまうことが誰にでもあります。
歩きながら飴などのお菓子を口にするのはよくあること。個包装の袋を開けてゴミをポケットにしまったつもりで、小さな切れ端を落としてしまうこともあり得ます。また、マスクやアウトドア用品の小さなカバーも落としがちです。
川原でバーベキューのゴミを見ると、酔って気持ちよくなり忘れてしまったのか、茂った草に紛れてしまったのか、と想像しながら残念な気持ちになります。
意図的に捨てられたもの
一部の心ない人、または生活が追いつめられている人が、意図的に捨てたと考えられるゴミもあります。
人目につかない所では、処理に費用がかかる家電や粗大ごみ、猫のトイレの砂やペットフードの空き缶などが、まとめて捨てられていることもありました。特に橋の下にビニール袋に入ったゴミが散乱しているのは、橋の上から投げ捨てられたものと考えられます。
不法投棄には罰則が課されることが多いですが、誰も見ていないからといって捨ててしまう人が一定数いるのが現実です。
風や動物によって運ばれたもの
きちんと始末したつもりのゴミも、意図せず処理ルートから外れてしまうことがあります。
強風の日にビニール袋などが空を舞っているのは、よく見る光景です。ゴミ収集に出された袋から、カラスや猫が食べられそうなものをひっぱり出している現場に出くわすこともあるでしょう。
風や動物などで散らかされないように、収集日には一工夫してゴミ出しすることが必要です。
フィールドのゴミの行き先は?
山や街に放置されたゴミは雨水と一緒に川に集まり、やがて海まで流れていきます。いくらなんでも数十キロも離れた海までたどり着くはずがない、と疑問に思うかもしれません。
しかし、地表を流れる雨水の力で山のゴミも低いほうへと流れ、川に集まっていきます。特に大雨で増水し流速が増した水の力はすさまじく、巨大な岩も流すほどです。
通常ならば草木や岩などにひっかかるゴミも、増水時には一気に下流へと押し流されてしまいます。水が引いたあとの河川敷は、大小さまざまなゴミだらけ。ガードレールやコンクリートの塊が川原に転がっていることもありました。
海洋ゴミの7〜8割は、街で発生したゴミが河川を伝って海に流出したものだったという調査結果もあります。海と山は川でつながっているため、内陸のゴミも海まで運ばれてしまうのです。
海洋プラスチック問題とは何か
海に流れていったゴミのうち、分解されないプラスチックは野生生物に直接的な被害を及ぼします。世界では年間約800万トンのプラスチックが海に流出し、2050年までに海のプラスチックゴミの総重量が海の魚の総重量を上回る可能性があるといわれています。
ある調査では、プラスチックゴミを事故的に摂取している野生生物は少なくとも1,500種にのぼることがわかりました。えさと間違ってゴミを飲みこみ消化されずに体内に蓄積したり、ゴミに絡まって動けなくなったりすれば、餓死してしまいます。
また、近年注目されているのがマイクロプラスチックです。マイクロプラスチックとは、直径5mm以下のプラスチック片のことで、海に流出したプラスチックが太陽光や波風によって劣化し細かくなることで生じます。
私たちが口にする水道水やペットボトル飲料水、食品からもマイクロプラスチックが検出されており、人は1週間に平均約5gのプラスチックを摂取しているとのこと。
マイクロプラスチックが生物にどんな影響を与えるかは、現時点ではっきりしていません。しかし、マイクロプラスチックは有害化学物質を吸着しやすいため、食物連鎖を通じて濃縮されれば、病気のリスクが増すかもしれません。
一人当たりのプラスチック廃棄量を各国で比べると、日本は世界第2位。アジア各国は、海洋プラスチックゴミの発生量ランキングで上位に位置しています。
少しでもプラスチックゴミを減らすことが、海の環境を守ることに直結し、私たちの健康を守ることにつながるのです。
ゴミを拾うだけで海洋プラスチックを減らせる!
野外で気になった1つを拾うだけでも、海に行き着くゴミを確実に1つ減らせます。一人ひとりの積み重ねが集まれば、ウミガメやアザラシの命を救えるかもしれないのです。
アウトドア活動中に気付いたゴミを拾うという行為は、それほど大変なことではありません。全部拾おうと思えばきりがありませんが、1つでも2つでも可能な範囲でいいのです。
拾ったゴミを持ち歩くために、ゴミ袋をバッグに常備しておくといいでしょう。自治体でボランティア用に無料のゴミ袋を配布している場合もあります。
また、全国で展開されているゴミ拾いのイベントに参加するのもおすすめです。イベントでは、ゴミ拾いは宝探しのようなもの。
特に子どもたちにとっては、ゲーム感覚かもしれません。埋まったゴミや急斜面のゴミなど回収が難しいゴミを見つけるとやる気がアップして「ここにもあった!」「やっと取れた!」とうれしそうに集めてくれます。
野外で目にするゴミの発生源と行き着く先、海洋プラスチックゴミの影響、ゴミ拾いの意義について紹介しました。大人がゴミを拾う姿を子どもも見ています。ゴミを拾える子どもは、ゴミをポイ捨てするような大人にはならないでしょう。たかがゴミ拾い。されどゴミ拾い。気軽にゴミを拾える人が増えれば、山の環境も海の環境もよくなるはず。地球のために、ちょこっとだけでもゴミを拾ってみませんか?
参照記事:
海ごみの流出原因調査で分かったモラルでは解決できない問題|日本財団ジャーナル
海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは | MIRAI Times|SDGsを伝える記事が満載|千葉商科大学
ペットボトル入りミネラルウォーターの9割にプラスチック粒子が|ニューズウィーク日本版
先週食べたのはクレジットカード、今週も食べるとペン?|(公財)世界自然保護基金ジャパン
プラスチックごみ、生物の摂取深刻 世界1500種で確認|日本経済新聞
ライター
曽我部倫子
東京都在住。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、小さなお子さんや保護者を対象に、自然に直接触れる体験を提供している。
子ども × 環境教育の活動経歴は20年ほど。谷津田の保全に関わり、生きもの探しが大好き。また、Webライターとして環境問題やSDGs、GXなどをテーマに執筆している。三児の母。