高校は人生における最初の分岐点
ー後編も、まずは自己紹介からお願いします。
平野英樹です。年齢は28歳です。新潟県の村上市出身で、スノーボードとスケートボードのどちらもプロとして活動していました。その経歴を活かして、現在はコーチとスクール業をしています。2018年から開志国際高校のヘッドコーチを務めています。
ー平野さんはスクールと部活の両方で指導されています。一般的なスケートスクールと高校の部活では、技術的な指導内容に違いはありますか?
イメージ的には部活の方が専門的ですね。そこには、専門的でなくてはいけないと思う自分もいますが。スクールに関しては教えるレベルで変わってきます。例えばそれが初心者向けなら、スケートボードの楽しさを知るきっかけを作ることを意識しています。
部活については前編でお話したように、将来の事も含めて、シビアなところにも触れなければいけません。そこが決定的な違いだと思います。
ー高校生になると、例えスキルはバラバラでも人生の分岐点に立たされます。将来を考えることが必須ですね。
はい。しかも競技としてのスケートボードは年齢層が低めです。高校生にもなると、ある程度、自分の立ち位置みたいなものが見えてきます。
例えば、入学する時にはある程度のスポンサーが付いているとか、AJSA(日本スケートボード協会)のプロ資格があるといった要素です。他には、在学中も国内ランキング上位に入って世界で活躍するとか、各年代でゴールがある程度固まっています。
もちろんそれが全てではありませんが、人生における最初の分岐点が高校であるといっても過言ではありません。はっきり言って、かなりシビアな世界です。今の高校生達の悩みを聞くと、難しい問題がいっぱいありますよ。
高校で勉強もする意味
ーだからこそ平野さんのようなキャリアを持つ人が必要とされているのですね。話は変わりますが、全日制高校にスケートボード部があるメリットは何だと思いますか?
基本的に学校をないがしろにしやすい傾向が、アスリートにはあると思います。ところが開志国際では、学校の勉強もできて、プラス部活としてスケボーの時間もとれる、すごく貴重な環境です。
ー将来にどう役立つのでしょう?
アスリートは、メダルを取るくらいのレベルに近づくほど、その後の人生で社会に出るのが怖くなります。社会人デビューが、すごく辛い人生経験になる人もいます。
仮にプロの一流アスリートを目指していた人が、大ケガによって志半ばで諦めざるを得なくなったとします。その時に初めて、学校を捨ててアスリート一本でいくことの意味に気づきます。
「俺、社会に出たら何もできないんだ……」って。そこからの一歩が踏み出せなくなる人もいるんですよね。
―開志国際高校のような全日制高校なら、その心配が軽減されますね。
スケートボードをしながら、しっかり学校にも行けます。社会に出るためのベースとなる勉強もきちんとできる。実はこれは本当に恵まれたことです。
例えば他のスポーツを見てみると、サッカー日本代表の三笘薫選手は大卒です。勉強することが、必ずしもアスリート生活にマイナスではないことが分かります。
学校・部活として取り組むべきこと
ー部活の生徒を募るにあたって、何か工夫していることはありますか? 有望選手のスカウトなどもしているのでしょうか?
特にしていません。ときどき、パークで滑っていて上手くなってきた子から相談が来る程度で、自分からアプローチをかけることはないです。仮にあったとしても学校側からになると思います。
ーこうしたら良いのにと思うことは何かありますか?
自分としては、中学生の呼び込みだけではなく、大学にスケートボードで推薦入学できるルートも開拓してくれたら嬉しいですね。そうすれば、もっといろいろな部員が入部してくれるし、校内はもちろん社会における立ち位置も上がっていくと思います。
もちろん、言うほど簡単ではないことは承知しています。でも、卒業後のルートが見える部活になれば、東京五輪後に爆発的に増えた小学生のキッズスケーターや、その親御さん達の将来にすごく良いことです。
今後、競技人口が増えていけばいくほど、スケートボードに関わる仕事の量も種類も増えていきます。その進路におけるひとつのサンプルになれたら、成長過程で環境がなくて辞めてしまう生徒が減るのではないでしょうか。
ースケートボード部の将来について展望を教えてください。
今後取り組むべきなのは、部活からスケートボードを始めたいという人に向けた環境作りです。これからは、そういう人が絶対に出てくると思うので、そこで気持ちよくスタートできるようにしてあげたいなと。
大人になると、どんなスポーツをやっていましたか?と聞かれることがありますが、学生時代の運動部だけと答える人も多い思います。自分はそこにスケートボードが加わっていけば、業界の底辺拡大の一助にもなると考えています。
例えスケートボードでなくても、将来の道標を部活から見つけてくれたら嬉しいですよね。
ーそうなれば人数が増えていくと?
自分が見ている部活でいうと、これからどんどん未来の可能性をもつ子が入ってくると思います。ただ今は少しスキルにフォーカスしすぎていると感じていて。それだと「上手くなきゃ入れないんでしょ」と考えてしまう子も多いのではないかと。
ー確かにいま在籍している部員の顔ぶれを見ると、興味はあってもそう考える人が多くなってしまいますね。
開志国際高校にはオープンスクールといって、部活の様子を見学し一緒に体験してから入学するかを決める催しがあります。そこに「スケボーやってみたい!」という子が何人か来るんです。
でもそこで、松本浬璃や甲斐穂澄の滑りを見ると、上手すぎて萎縮してしまうのか「これは自分には無理だ……」となることもあります。もちろん彼らが悪いわけではないのですが。
これはスケートパークで「こんな上手い人たちのところになんて入れないよ」という感覚と同じで、もう少し工夫が必要だと考えています。
ー具体的にはどうすれば良いのでしょうか?
大学のサークルのような感じで、フランクに話せるきっかけ作りをする必要があるかと。というのもスケーターはルックスからして、爽やかなスポーツマンというよりも、グレーゾーンにいて怖そうなイメージをもつ人がたくさんいると思います。
何も知らない人はそのイメージから距離を置いてしまい、入部しづらい原因にも繋がるのではと思います。もちろん実際は怖くはありません。その前の入り口に、もう一歩踏み込んだものがあれば、もっと良い方向に進むのではと考えています。
どの道を選んでも不正解ではない
ースケートボード部の設立を考えている全国の学校施設に向けて、ヘッドコーチとしてのアドバイスはありますか?
その学校が通信制なのか全日制なのか、私立か公立かにもよりますが、段階的なプロセスとして必要なのが、第一に施設があることです。パークがなければ部活が成り立ちません。
あとは自分のように、技術的な部分を教えられる指導者がいること、学校側から担当する顧問の先生をつけてもらうことです。この3つが揃っていることが、最低条件だと思います。
ー他にも何かありますか?
今の日本のスケートボードシーンには、AJSA(日本スケートボード協会)や、FLAKE CUP(日本最大級のキッズ・スケートボードコンテスト)といった、地区大会から全国大会までシステム化できている組織があります。
僕がどうこうできるレベルの話ではないのですが、まずはそういったところをベースにして見習いつつ、他のスポーツでいうインターハイのような、世間的認知度がある大会ができていけば、もっと作り易くなるのではないかと思います。
ー子供の進路を考えている親御さんへのメッセージがあればお願いします。
今はいろいろな選択肢があります。どこで悩んでいるかにもよりますが、究極をいうと、学校に行くか行かないかになると思います。
学校に行かないでスケートボード一筋でいくのか、または高校くらいはしっかり勉強しながらやるのか。高校に行くにしても、通信制、定時制、あるいは全日制など選択肢も多い。
でもひとつだけ言えることは、どの道に進んでも不正解ではありません。それぞれの悩みを親子でしっかり話し合って、自分の意思で決めるべきだと思います。親の一存で、子供の将来を決めることだけはしてほしくないですね。
本気で向き合う人の選択肢のひとつに
ー自分で決めたことなら腹を括れますね。
はい。例えそれがスケートボードだけの人生でも、それはそれで得られる経験は貴重です。でも仮に失敗してしまったら、子どもが一人で抱えられるキャパを超えてしまいます。そのときは、親が寄り添って最後まで付き合うべきだと思います。
そこも考慮して、勉強も大事だと判断して高校に行くのであれば、スケートボードだけの子たちよりは、バランスの取れた形で進んでいくことができます。
ただそこで大切なのは、もしスケートボードだけの人生を選んだライバルたちが先に行っても焦らず、社会というものを理解していくことです。
ー学校に行くことにも大きな意味があります。
学校に行けば、当たり前のことが当たり前に分かるようになります。オリンピックまで行くとなると、確かに尖っているほうが強い場合もあります。
でもここでしっかり悩んで、中途半端な気持ちではなく、まっすぐ突き進んでいけば、きっといい結果に繋がります。
ー最後に伝えたいことがあればお願いします。
どの道も決して楽ではないし、どちらを選んでも本気で向き合わなくてはなりません。その中で言えることがあるとしたら、開志国際高校はひとつの新たな選択肢になるということです。僕もいるので、何かあれば遠慮なく聞いてほしいなと思います。
自分は今後こういった部活化は進んでいくと考えています。今回の事例を知ってもらうことで、いろいろなところが動き出すきっかけになってくれたら嬉しいです。どうもありがとうございました。
Photo by Yoshio Yoshida
ライター
吉田 佳央
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本も監修。フォトグラファー兼ジャーナリストとして、ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。