後続のクライマーに追いつかれた時の対処
クライミングの世界でいうところの後続とは、後から登り始めたクライマーのことを指します。
後続のパーティーに追いつかれたクライマーがどうするのか、クライミングの世界では厳密な決まり事はありません。
登山では「追いつかれた」ということは、そのまま能力の差としてとらえられ、追いつかれた登山者は追いついた登山者よりも登山能力が低いので、道を譲る事で登山道における登山者の流れの効率化を図ります。
しかし、クライミングの場合はビレイステーションが狭いため、ルートを2パーティー以上が同時に登るとロープがこすれて危険になってしまったり、また片方のパーティーが墜落した場合もう片方のパーティーも巻き込まれてしまう危険性があり、登山のようにはっきりとしたルールを言いきれない、という側面があります。
クライミングの世界でも、マルチピッチクライミングやアルパインクライミングは特にコミュニケーションが大切です。
コミュニケーション能力の低さが、時には命の危険まで引き起こしてしまうからです。
もし後続のパーティーに追いつかれてしまった場合は、「こうしなければならない」とは考えずに、コミュニケーションを大切に、譲りあって登りましょう。
落石には細心の注意をはらおう
クライミングにおいて、完全な安全というものは存在しません。
しかし、だからといって危険なことを避けずにクライミングをしてしまっては、あまりにもリスクが大きく、クライミングとして成立しません。
落石の問題もこうした事と同じで、落石を落とさない事や、落石に当たらない事は、たとえ100%防ぐことはできないとしても、できうる限りの努力をして落石に起因する事故を防ぐようにしましょう。
特に後続のパーティーがいる際は、神経質なほどに気を付けて登りたいところです。
後続のパーティーが熟練者であれば、先行しているパーティーの行動に合わせて危険のないように動いてくれますが、後続しているパーティーが経験値の少ないクライマーだけで構成されていた場合は、先行しているパーティーの能力を判断する時間的余裕も経験値もありません。
この場合は、先行パーティーが後続のパーティーの動きにあわせて行動します。
例えば、どう登っても多少の落石は引き起こしてしまうような傾斜の緩い細かな石の堆積するピッチでは、後続のパーティーがビレイステーションに集まるまで待ってから登る、などです。
クライミングの現場では臨機応変な行動が大切です。
懸垂下降の際に注意すること
日本の岩場では特に多い懸垂下降ですが、基本的に懸垂下降というのは緊急時の脱出の為の技術のひとつです。そういった意味では、セルフレスキューの部類に入るのかもしれません。
二子山にある有名なマルチピッチクライミングのルート二子山中央稜など、クライミングが終わった後は一般登山道を歩いて下降できるルートがあるにも関わらず、同ルートを懸垂下降で降りてくるパーティーが時々いますが、非常に危険です。
講習会などで懸垂下降を習ったばかりのクライマーや、まだ初めて間もないクライマーは積極的に懸垂下降を行いたがる傾向がありますが、懸垂下降はあくまで緊急時の技術であるということを忘れないようにしてください。
先に書いた二子山中央稜は日本の石灰岩のクライミングエリアの特性ともいえますが、ピッチによってはとても脆く、懸垂下降終了後にロープを引き抜くときにどうしても落石を引き起こしてしまう場合があります。
独立した岩峰のように懸垂下降以外の方法では下降できない場合を除き、同ルートの懸垂下降は止めましょう。
迷惑なだけでなく、場合によっては登っているクライマーを墜落させてしまう原因になりかねません。
スタートはなるべく早く
クライミングだけに関わらず、山岳スポーツ全般に言える事ですが、山での行動は素早く、日が落ちる前に行動を終える事が原則です。
アメリカのヨセミテ国立公園にあるようなビッグウォールを登る時も同じことがいえます。上級者などはヘッドライトを点灯しながらクライミングを行う事もありますが、一般的ではありません。
それ相応の訓練を受ければ夜間でも行動できますが、当然リスクは上がります。
マルチピッチクライミングでは、どんなに短いルートのクライミングであってもヘッドライトは必ず持ち歩きましょう。
家を出る前に点灯テストを行う事も大切です。
ヘッドライトを持っているからと言って油断するのは好ましくありませんが、精神衛生上よい環境となる事で行動への落ち着きも出てきて、判断力も上がります。
また、行動が早いと目的のルートを最初に登り始められる可能性が上がります。
まだ誰も先行パーティーがいないルートを登るのは気持ちの良い事ですし、安全性も先行パーティーがいる時に比べたら格段に上がります。
目的のクライミングエリアが遠い場所にある場合は、前夜泊の予定を立てるなど、早いスタートを切る工夫をしましょう。