ライフセービングクラブはどうやって運営されている?
—国内のライフセービング界の仕組みを教えてください。
まず、1番大きな組織の日本ライフセービング協会があります。
その下に、神奈川県、沖縄・九州・中部にライフセービング連盟があって、そこに地域クラブが加入しているという感じです。
まだ進んではいませんが、ゆくゆくは47都道府県に県のライフセービング連盟ができて、その下に地域クラブが配属する流れを目指していると思います。
地域クラブは、各々のパトロールだったり、競技会への参加であったり、ジュニアライフセービングだったり、そういう事業を各クラブで行っています。
—各地域のクラブの事業と、協会から協力をゆだねられる事業、2つの事業活動が存在するんですね。事業収益を確保しているクラブもあるのですか?
NPO法人で活動しているクラブが多いです。どこのクラブも、ひとつの事業から収入を得るということはほとんどない状態で活動しています。
あるとしたら、パトロールに対して、市町村だったり、西浜なら江ノ島海水浴場の協同組合から委託金というかたちでお金をもらい、それをメンバーに給与として割り振るということがありますね。
その残りがクラブの運営費になります。
それから、ジュニアライフセービング教室で月謝をいただき、サッカーや水泳のように多くはないですが、クラブ運営のための収益を確保しています。
競技会やビーチクリーンなどのイベントは収益はもちろんゼロなので、うちのクラブは主にその2つで運営しています。
時期によってイベントパトロールというものがあって、オープンウォーターのスイムガードであったり、トライアスロンであったり、スポーツイベントのガードをして収益を得ることもあります。しかしメインの収益は、だいたいパトロールとジュニアライフセービングの収益です。
—マリンスポーツ大会のサポートで、認知度の高いイベントにはどのようなものがありますか?
うちのメンバーが行っているのは、宮古島トライアスロンや横浜の追浜トライアスロンというイベントなどです。
—地域への依存度は低く、いろんなところに出向いて活動するということですね。
そうですね。イベントごとに委託されて活動を行うことが多いです。その繋がりで追浜は毎年やらせてもらっています。
湘南オープンウォータースイムというイベントでは、逗子から江ノ島まで10kmのオープンウォーターと、東浜から江ノ島までの800mの遠泳のガードなどもしています。
ライフセーバーで活躍しているのはどんな人?
—ライフセービングをしている人の主な職業は?
公務員が多いです。なかでも多いのは消防士、最近は教員も増えてきました。なかなか時間がとれなくてあまり来れないけれど、警察官もいます。
それから自営業の方も多いです。
—消防など、公務員が副業としてライフセービングをしてもいいんですか?
公務員は公務員法があって副業収入があってはいけないので、ボランティアです。ホントに100%ボランティアなんですよ!お弁当が出るだけです(笑)
—ライフセービングは、まだ日本ではごく限られた人の選択肢だと感じます。職業にするのは難しいのでしょうか。
ライフセービングだけで生活を成り立たせるのは、現状ではなかなか厳しいと思います。
ベースの仕事があって、趣味のひとつとしてライフセービング活動をしている、という人がほとんどです。
職種はいろいろですが、時間が作りやすく、ライフセービング活動がしやすい公務員が多いですね。私も教員です。
一般企業に勤めながら活動をしようとすると、帰りの時間が不規則になることも多いので、体が持たなくなってしまうんです。
ライフセービングをライフスタイルにしていきたいという思いがある人は、一般企業や職種のなかでも、活動の時間が作りやすい会社や職種を選択して活動を続けている人が多いです。
大学生の場合、就職活動の時期になると、ほとんどは自分が入りたい企業や、やりたい仕事のほうへ行きます。残るのは半分くらいでしょうか。
あとは、ちょっとでもライフセービングに関われるようにと、公務員を目指したり、ライフセービングがきっかけで人命救助を意識して、消防士になったりする人もいます。
それから、ライフセービングという過去の経験を軸に、海上保安庁に入って、現在の自分の仕事で生き生きと活躍している人もいますよ。
—ジュニアクラブや大学で経験がある人がライフセーバーになるイメージですが、それ以外の道筋からライフセービングに関わる人はいるのでしょうか?
うちは社会人から始める方もけっこういらっしゃるんですよ。
オープンウォーターでスイムの経験があり、その企画を運営しているところでライフセービングに出会って興味を持った方とか。
インターネットでライフセービング始めようかなって調べて、資格を取ってから「クラブでやりたいんです」と連絡をしてくれた方もいます。
それでもやはり、学生時代からライフセービングをやってきたという方は多いですね。
社会人ライフセーバーがフィールドに出る頻度は?
—社会人ライフセーバーがフィールドに入る頻度は?
ひと夏に数時間の人もいますし、50~60日近い人もいます。私は社会人になって9年目ですが、年間30日以上入ってます。
学校を卒業してまだ就職先が決まっていない場合、ひと夏みっちりライフセービングをやり通して就職する、なんていう人もいますよ。
—有給やお休みはどのように活用していますか?
私は横浜市の教員ですが、横浜市はライフセービング活動を教育に活かしましょうという考え方があります。「教員の研修」としてカウントされるため、数日間ではありますが、教員としてライフセービング活動のための時間をもらうことができます。それと有給を組み合わせて、活動の時間をつくっています。
—そういう地域の特性や活動に深い理解のある自治体は他にもありますか?
あまり聞かないですね。他の自治体でもどんどんやっていただけると、日本全体の水辺の事故はもっと減っていくんじゃないかなと思います。
水辺の安全教育はもちろん、日々、レスキュー技術や手技はアップデートされています。最新の技術を学び続けながら、学校教育に活かしていく必要があると思います。
私は養護学校の教員ですが、発作などがある生徒も多数在籍しています。心肺停止状態になったときにいかに素早く救助できるかや、プールでの水泳教育などにも、ライフセービング活動は大いに活かせると思っています。
ライフセービングのさらなる普及のために
—今後日本でライフセービングをもっと普及させるにはどうすればいいのでしょうか。
日本ライフセービング協会としては、ライフセービング活動をまずみんなに知ってもらおうという動きをしています。
競技会など、スポーツ分野でライフセービングをアピールして普及を図っていくとか。
また、職業としてライフセービングが確立している消防や海上保安庁と連携して、手技を見せあう会を開いています。事故を想定したシミュレーションの中で、いかにすばやく消防に引き継ぐかがテーマです。
そういう働きをメディアでもっと取り上げてもらうなどすれば、全国に広まっていくんじゃないかと思います。ライフセービングを見る機会をいかに増やすかが課題になるでしょうね。
それから、学校教育の中で話題にすることもとても重要じゃないかと思います。
私は大阪出身ですが、大阪はあまりライフセービングが普及しておらず、関東に出てきて知ったことなんです。
日本全国にライフセービングが広まっていけば、防災意識も高りますし、悲しい事故も減らしていけるんじゃないかと思っています。
協力:Guard (櫻井興業)
協力:日本ライフセービング協会
ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。