国内最大級のヒルクライムイベント「Mt.富士ヒルクライム」。前編では、家族と楽しむ前泊キャンプや、75分切りのシルバーリング獲得を目指した1年間の準備について紹介しました。後編では、いよいよレース当日の様子をお届けします。チームの仲間と組んだトレイン走行、新しい自転車の相棒「S-Works Tarmac SL8」の走り、そして74分04秒で念願のシルバーリングを手にするまでのリアルな舞台裏を振り返ります。
前泊キャンプやエキスポなど、「走る」だけではない富士ヒルクライムをさらに楽しむコツは、こちらの記事で紹介しています。
チームで走ることで見えた富士ヒルの新たな楽しさ

富士ヒルで、筆者の価値観を大きく変えたのは「チーム」の存在です。
今回は、ヒルクライムレースに詳しい仲間が多数所属するチームに加入。トレーニングや補給、本番のペース配分などを学び、このチームの仲間たちと富士スバルラインに挑みました。
一人ではなく仲間とスタートラインへ

前回は、富士ヒル限定の選抜チームである「BIORACER DREAM TEAM」のメンバーとして参加しました。大会へ向けて仲間と切磋琢磨し合えたのが大きなメリットでしたが、走力はバラバラのため、本番のレースでは基本的に単独で走りました。
しかし、今回は隣を見れば同じ目標をもち同じく緊張しているチームメンバーがいます。お互いに「いこう!」と言葉を交わし、一人ではなくチームでスタートラインに立てたことで、恐怖心は消え、最高の集中力と適度な緊張感のなか出走できました。
トレインがもたらした安心感と一体感
今回は、信頼できる仲間と「トレイン(一列の集団)」を組んで走りました。トレインとは、一列に並んで走ることで空気抵抗を減らし、効率よく進む走り方です。
斜度の緩やかな区間や平坦では、一人が風よけとなり、交互に先頭を交代(ローテーション)しながら走ることで、一人きりで走るよりも圧倒的に体力を温存しながら高い速度を維持できるといわれています。
また、単独で登っていた昨年と違い、目の前には仲間の背中があります。「離れないようについていこう」ただそれだけに集中できたことで、苦しさよりも安心感や楽しさのほうが大きく感じられました。
苦しい場面で背中を押してくれた仲間の存在
トレイン走行であっても、心肺や身体が苦しいことに変わりありません。呼吸は激しく、心拍も限界。そんなとき、トレインの前を走る仲間からの「力抜いて」「あと30分もないよ!」と力強い声掛けが響きました。
みんなも頑張っていると思うと、不思議と下がっていたパワーがもう一度ペダルに宿ります。単独走行だったら心が折れていたかもしれない局面を、仲間たちの存在が力強く引っ張り上げてくれました。
74分間で感じた、チームだからこそのドラマ

初めてチームで挑んだ富士スバルラインでは、走ること以上に得られる経験が多かったです。
仲間の離脱に、心が揺れた
レース序盤は想定どおりのペースで進み、「今日は調子がいい」と感じるほど脚も軽く、呼吸にも余裕がありました。しかし、中盤で予想外の出来事が。
同じくらいの走力だと考えていた仲間が、トレインから離れていったのです。「大丈夫かな」「このまま行っていいのかな」一瞬、頭のなかでさまざまな思いがよぎりました。それでもレースは止まりません。
後ろを振り返ることはできないからこそ、自分にできるのは目の前の仲間を信じて走り続けることだけでした。レースは個人競技ですが、仲間がいるからこそ生まれる葛藤もある。今回あらためてそう感じた瞬間でした。
「苦しい」より「楽しい」が勝っていた
富士ヒルは心拍も脚も限界まで追い込むレースです。本来なら「苦しい」という感情が勝っていてもおかしくありません。
しかし今回、不思議なくらい「楽しい」という気持ちが最後まで消えませんでした。仲間から聞こえる「いいペース!」「シルバーいける」という声。隣には憧れだった強い選手たちがいて、チームの一員として走れているという高揚感。「今、自分はこんな贅沢な場所で走っているんだ」そんな気持ちでいっぱいでした。
苦しさを共有できる仲間がいるだけで、レースの景色はここまで変わるのかと驚いたほどです。
トレインだからこそ、自分以上の力を引き出せた
今回改めて感じたのは、トレインの価値は空気抵抗を減らすだけではないということです。私は単独で走ると、どうしても序盤からオーバーペースになりがちなタイプ。最初に踏みすぎてしまい、後半で失速する経験も少なくありませんでした。
しかし今回は、経験豊富な仲間が一定のペースを刻んでくれたことで、終始落ち着いて走ることができました。「今日は驚くほど調子がいい。」そんな感覚のまま最後まで身体・心肺機能の余力を残し、74分04秒という目標タイムでフィニッシュ。
一人では難しかったかもしれないレースマネジメントで 、仲間が自然に導いてくれたのは大きな経験になりました。
富士ヒルはタイム以上の価値を教えてくれる

74分04秒でのゴール。それは間違いなく、人生のなかでも最高の瞬間でした。しかし、今心に深く残っているのはタイムという数字以外の部分でもあります。
74分04秒でゴールした瞬間
フィニッシュラインを駆け抜け、サイクルコンピューターの「74:04」という数字を見た瞬間、肺の痛みも忘れて、うれしさなのかつらさなのかわからない声が。
1年前、あと少し届かなかったシルバーリング。その悔しさを知っているからこそ、「本当に取れたんだ」という実感がなかなか湧きません。気づけば笑いながら涙が流れていました。
レースの最終局面では、トレインを離れてそれぞれが最大限の力を振り絞りスパートをかけるため、最終的に誰が何分でゴールしたのかはわかりません。
筆者がゴールして周りを見渡すと、同じく目標達成した笑顔、あるいは悔し涙を流しながらお互いを称え合うサイクリストたちの姿。誰もが自分自身の限界に挑みきった特別な空間に自分がいることが誇らしく、胸がいっぱいになりました。
家族や仲間に結果を報告したときの気持ち

ゴール後、うれしさでいっぱいのなか頭に浮かんだのは、家族や仲間の顔。それぞれに報告できたとき、「ああ、この挑戦をみんなに支えられて走りきれて、本当によかったな」と、タイム以上の幸せが込み上げてきました。
富士ヒルに挑戦する人へ伝えたいこと
富士ヒルは、速い人だけのイベントではありません。初めて完走を目指す人も、自己ベストを狙う人も、それぞれが自分だけの物語をもってスタートラインに立っています。タイムを狙うひともそうでないひとも、ゴールしたときに見える景色は、きっと想像以上です。
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ライター
yomec(よめしー)
自然豊かな新潟県在住、夫婦でロードバイクを楽しんでいる自転車ライター。子育てしながらトレーニングする方法を日々模索中です。今ではヒルクライムを中心としたレースが家族旅行に。愛車はSPECIALIZEDとBROMPTON。夫婦での所有スポーツバイクはなんと8台。ファミリーでも楽しめる自転車の魅力を発信します。