「海外旅行に行きたいけれど、旅費が高すぎる」と、諦めたことはありませんか?そんなときに頼りになるのが、リーズナブルなホステルやドミトリーです。宿泊費を抑えつつ、旅人同士の交流や食材シェア、省エネにつながる相部屋など、“安さ以上の魅力”があります。旅のなかで得たこうした体験は、食材をムダにしない意識や省エネの工夫といったかたちで、日常生活にも広がっていきます。この記事では、筆者自身の体験談を交えながらその魅力や注意点、旅から暮らしへつながる気づきを紹介します。

ホステル、ドミトリーとは?

海外ホステル&ドミトリー

「ホステルやドミトリーって、若者ばかりで気後れしそう…」そう思う人もいるかもしれません。けれど実際に利用してみると、ひとり旅の学生や年配の人、友人同士のグループ、子連れの家族、シニアの夫婦まで、いろいろな人たちが同じ屋根の下に集まっています。

まずは、その成り立ちや特徴をのぞいてみましょう。

ホステルの起源と特徴

ホステルは1909年、ドイツで生まれました。都会で暮らす子どもたちに「自然の中で学び、旅をしてほしい」と願った教師が、学校の一室を宿泊場所として開放したのがはじまりとされています。

ベッドと簡単な食事を用意し、子どもたちが安全に安く泊まれる場所ー。この仕組みがやがて「だれでも泊まれる共同宿泊施設=ホステル」として定着。今では世界中に広がり、幅広い世代が気軽に利用できる場所になっています。

ホステルとユースホステルの違い

ホステル(Hostel)とユースホステル(Youth Hostel)は、どちらも低価格で泊まれて、共有スペースが充実している点は共通しています。ただ、ユースホステルはもともと青少年の健全な旅を目的に生まれ、今も国際的なネットワークを通じて運営されているのが特徴です。

一方ホステルは、年齢や性別を問わずだれでも利用でき、旅行者同士の交流に特化している傾向があります。施設の形態も多様で、デザイン性の高いものから素朴でシンプルなものまで幅広く存在しています。

この記事では、より幅広い意味を持つ「ホステル」を中心に、その魅力や体験を紹介していきます。

ドミトリーの基本と魅力

ホステルは「ホテルよりもカジュアルで安価、交流を重視した宿泊施設」を指します。その中で、部屋タイプとして大きく分かれるのがプライベートルーム(個室)とドミトリー(相部屋)です。

ドミトリーは、二段ベッドなどが並ぶ共同寝室スタイル。ベッド単位で泊まるので、一般的なホテルのように「部屋をまるごと借りる」のではなく、「自分のベッドを確保する」感覚に近いと言えばイメージしやすいでしょう。

ゲストハウスと呼ばれる宿も、ホステルと同じく安価で交流を重視する宿泊施設ですが、小規模でオーナーが住み込み運営していることが多いのが特徴。その中にも個室とドミトリーがあり、規模感や雰囲気で区別されることが多いです。

ただし実際には、ホステルとゲストハウスの線引きは国や施設によって曖昧で、呼び方が混ざっていることもよくあります。大事なのは分類よりも、その場所でどんな体験ができるかです。

ホテルや民泊との違い

ホテルはプライバシー重視、民泊は現地の暮らしを体験できるスタイル。ホステルやドミトリーは“交流”と“共有”が前提です。

キッチンで鍋を並べ、相部屋で眠り、翌朝「おはよう」と声をかけ合う。そんな小さなやりとりが旅の記憶をより鮮やかにしてくれます。

旅費を賢く使う:ホステル、ドミトリーの相場

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ラトビア・リガのドミトリー。おしゃれなラウンジは居心地抜群でした。

こうした宿の大きな魅力は、なんといっても費用を抑えられることです。ヨーロッパのドミトリーなら一泊 €10〜30(約1,600〜5,000円)、個室でも €40〜80(約6,400〜12,800円)が相場。同じ町のホテルに泊まろうとすると倍以上になることも珍しくありません。

さらに国や地域によって価格差があり、タイやベトナムなど東南アジアではワンコイン程度(数百円〜1,000円台)で泊まれることも。世界中の旅人がこのスタイルを選ぶのは、こういった手頃さも大きな理由のひとつです。

私がスコットランドでホテルとホステルの両方を利用したときも、ホテルは快適でしたが宿泊費だけでその日の予算が大きく削られました。ホステルに泊まったときは費用を半分以下に抑えられ、浮いた分で現地ツアーに参加したり、ちょっと贅沢な食事を楽しんだりできました。

“安いから仕方なく泊まる”のではなく、“節約した分で旅を豊かにできる”。この“旅を広げる余白”こそ、ホステルやドミトリーの魅力だと思います。

サステナブルな宿泊の仕組み

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共有スペースのキッチン。作った料理をシェアする楽しさもホステルならでは。

「リーズナブル」だけじゃないのがホステルやドミトリーのすごいところ。日常の延長のような仕組みが、実はとてもエコなんです。

共有キッチンと食材シェアでフードロスを削減

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インヴァネス(スコットランド)のホステルの冷蔵庫には“Free Food”と書かれた棚が。卵やバター、調味料が並び、旅立つ宿泊者が“次の人に”と置いていったものです。

私はオリーブオイルを借りてパスタを作り、余った塩を置いてきました。まるで食材のリレー。ゴミを出さず、人のやさしさを感じられる瞬間でした。

本や服のリユース文化

不要になった服や読み終えた本を置いていけるスペースが用意されてることも。次に訪れる旅人が使ったり読んだりできる仕組みで、モノがムダにならないだけでなく、小さな「おすそわけの連鎖」が生まれます。

私も旅先で本棚からガイドブックを手に取り、次の行き先を決めたことがあります。ページには前の持ち主の書き込みが。置いていった人の旅の足跡をたどるようで、宝探しに似た楽しさがありました。

相部屋だからこその省エネ

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ホステルの相部屋では、暖房や照明を数人でシェアするのが基本。ホテルの個室なら一人で消費するエネルギーを、ここではみんなで分け合います。

私が泊まったヘルシンキ(フィンランド)のホステルでも同じで、旅をしているだけでエコな行動につながるのを実感。ちょっと誇らしい気持ちになりました。

リビングで広がるコミュニティ

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エジンバラ(スコットランド)のあるホステルのドミトリーに宿泊した夜のこと。リビングには旅人が次々集まり、地図を広げて明日の計画を立てたり、余ったパンを配ったり。

国籍も年齢も違うのに、なぜか居心地がいい。だれかと「旅を共有する時間」は、ホテルではなかなか得られないものです。

宿泊体験で広がった出会いと交流の魅力

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頭で仕組みを理解するより、実際に泊まってみると“ホステルやドミトリーってこんなにおもしろいんだ!”と感じられるはず。ここでは、数ある経験のなかでもとくに印象に残っているエピソードを紹介します。

インヴァネスで、余った卵を分け合った朝食

スコットランド・インヴァネスのホステルのキッチン。「卵が余ってるけど使う?」と声をかけられました。オムレツを作っているとそ自然に人が集まってきたのです。テーブルを囲む見知らぬ旅人たち。気づけば小さな朝食会になっていました。

初対面の旅人たちと笑い合いながら食べたその時間は、ホテルのビュッフェよりずっと温かく記憶に残っています。

リガで、夏至祭の情報をもらった夜

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北欧やバルト三国では太陽が最も長くなる夏至を祝い、かがり火を焚いて歌や踊りで楽しむ。

ラトビア・リガのドミトリーで、同室の旅人から「今日は夏至祭だよ!」と教えてもらい便乗。おかげで焚き火を囲み、地元の人と夜通し歌い踊ることに。

まさにガイドブックには載らない偶然の出会い。旅人ネットワークの力を実感しました。

エジンバラで、ハイキング仲間と出会った日

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スコットランド・エジンバラのドミトリーでは、「明日ハイランドを歩くんだけど、一緒にどう?」と声をかけられ、気づけば丸一日のハイキングへ。

同じ部屋にいただけの見知らぬ旅人が、山を越えるころには仲間に。そんな魔法のような出会いがあるのも、ホステルやドミトリーの魅力です。

ホステル&ドミトリーを利用するときの注意点

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ホステルやドミトリーは魅力がたくさんある一方で、ちょっとしたコツを知っておくと滞在がもっと快適になります。私自身、最初は戸惑ったこともありましたが、工夫ひとつで過ごしやすさは大きく変わりました。

 女性は女性専用ルームを選ぶと落ち着ける

多くの施設には女性専用ルームがあります。ヘルシンキのドミトリーを利用したとき、同室は母娘の旅行者とシニアの女性2人。世代は違っても安心感があり、夜には「明日はどこに行くの?」と自然に会話が生まれました。

 シャワー・トイレは共同、混雑時間を避ける

ドミトリーはもちろん、ホステルの個室であっても、シャワーは共同の場合がほとんど。時間帯によっては列ができることもしばしばあります。

私もエジンバラのドミトリーで、朝のシャワー待ちの列に20分並んだこともあります。それ以来、ピークを避けて30分〜1時間ほどずらすようにしたら、ほとんど並ばずに使えるようになりました。

貴重品管理はロッカーや鍵付きバッグで

共有スペースが多いホステルやドミトリーでは、ちょっとした防犯の工夫があると安心です。まずは、宿泊先に鍵付きロッカーがあるか事前に確認しておくとよいでしょう。バックパックに小さな南京錠をつけたり、貴重品はセキュリティポーチに入れて常に身につけておくと落ち着いて過ごせます。

私も初めてのドミトリー泊は「大丈夫かな?」と少し心配でしたが、こうしたシンプルな対策をすることで、気持ちに余裕をもって滞在を楽しめました。

耳栓やアイマスクでぐっすり眠る

夜更かしする人もいれば、早朝に出発する人もいます。エジンバラの宿では、深夜2時に同室の旅人が荷造りを始め、私はカサカサ音で目が覚めました。

それからはどんな環境でも自分のリズムで眠れるように、耳栓とアイマスクを常備しています。

海外の宿泊体験が日常の意識を変えたこと

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ホステルやドミトリーでの体験は、そのときだけの思い出で終わりません。日本に帰ってからも、気づけば日常のあちこちに染み込んでいました。

 食材を無駄にしない習慣

インヴァネスのキッチンで見た“Free Food”の棚。だれかが置いた卵やバターが次の人に引き継がれていく。その循環を体験してからは、冷蔵庫を前に「さて、これで何を作ろう?」と考えるようになりました。

残った野菜でスープを作ったり、半端な卵でパンケーキを焼いたり。余った食材とのにらめっこが、ちょっと楽しい時間になりました。

エネルギーを分け合う感覚

数人で暖房や明かりをシェアして過ごすホステルやドミトリー。「ひとりで広い部屋を使うのは、エネルギー的にちょっともったいない」と感じたことが心に残っています。

だから家でも、なるべく必要な場所だけ電気をつけるようにしています。寒い日は猫と一緒に毛布にくるまり、エアコンは少し我慢。猫が湯たんぽ代わりになってくれるんです。旅先で覚えた「省エネは工夫次第」、今もわが家で続いています。

シェアする心地よさ

リガのドミトリーでパンを分け合い、夏至祭の情報を教えてもらった夜。「分け合うことで広がる豊かさ」は、いまも暮らしに息づいています。

友人に余ったおかずを届けたり、ご近所さんから野菜を分けてもらったり。以前より素直に「ありがとう」と言えるようになりました。シェアは節約や合理性だけじゃなく、人との距離を縮める魔法みたいなものだと感じています。

ホステルやドミトリーは、単なる「安い宿泊施設」ではありません。フードロスを減らし、省エネにつながり、人との出会いを生むサステナブルな旅のスタイルです。しかも若者だけでなく、幅広い世代に開かれています。次の旅ではホステルやドミトリーを選択肢に加えてみませんか?旅の景色も、人とのつながりも、もっと豊かに広がっていくはずです。

Ryoko

ライター

Ryoko

ひとり海外旅行と海外トレッキングを愛し、自然や文化に触れる旅をライフワークにするライター&エディター。猫と音楽にも目がなく、心惹かれる音や風景を文章で切り取るのが得意。国内外のフィールドで得た体験を、読者と共有することを楽しみにしている。