冒険教育とは
冒険教育とは、冒険=アドベンチャーを活用した教育手法で、青少年の人間形成や人間関係づくり、企業研修のチームビルティング、リーダーシップ開発などに用いられる内面の成長を促す手法のことを言います。
ここで言う「冒険=アドベンチャー」とは心理的な冒険のことで、必ずしも「南極横断」のような挑戦的な行為を指すものではありません。
例えば、「大勢の人の前で自分の意見を述べる」ということも一つの冒険と捉えることができます。
下のモデルは、冒険教育の学術研究でしばしば目にするものです。
「Comfort zone=安心していられる状態・居心地の良い状態」の外側に「Growth/learning zone=成長・学習」はあります。
快適な状態にとどまってばかりいるのではなく、そこから一歩踏み出す(つまり冒険=アドベンチャーをする)ことで学習や成長が起こるということを、このモデルは説明しています。
まとめると、冒険教育とは、主体的な一歩を踏み出しやすいように構成されたプログラムで、学習者の内面的な成長を促す教育手法と言えます。
Brown 2008
体験学習理論
冒険教育と一緒によく使われる言葉で「体験学習」というものがあります。体験学習とは文字通り、「体験から学ぶ」学習方法のことです。
教科書から学ぶ概念学習と対比して見るとわかりやすいでしょう。体験学習では「ふりかえり」が大切にされています。
具体的な体験(例えば「ロッククライミング」という具体的な体験)をした後に、体験の中でどんなことが起こっていたのかをふりかえります。
すると、そこには様々な気づきが潜んでいます。例えば、困難な物事に取り組むときの自分の姿勢に気づくことができるかもしれません。
あるいは、いつも言い訳をして逃げ出してばかりの自分だと思っていた人が諦めず粘り強く挑戦する自分もいるのだということに気づくかもしれません。
ロッククライミングのような冒険的な行為(あるいはレジャー目的の活動と言ってもいいかもしれません)を教育たらしめているのは、体験学習理論です。
体験学習理論を用いると、様々な活動が教育の素材になります。
「冒険教育とは」の項で述べた通り、ロッククラミングのような「冒険」でなくても、心理的な冒険を含む活動であれば、冒険教育の学習素材として活用することができます。
冒険教育の実施者
冒険教育を名乗るプログラムは多々ありますが、
「Outward Bound(アウトワード・バウンド:略称OB)」
「Project Adventure(プロジェクト・アドベンチャー):略称PA」
この2団体が2大巨頭と言えます。
日本国内での展開
どちらも世界のあちこちで導入されていますが、日本での展開に触れておきましょう。
アウトワード・バウンド
アウトワード・バウンドは公益財団法人日本アウトワード・バウンド協会が国内で展開しています。
1988年に日本に導入され、現在では東京、長野、兵庫に拠点を持って活動しています。
青少年を対象にした3日〜7日間のプログラムの他、教員免許状更新講習、冒険教育指導者養成プログラム等を行なっています。
プロジェクト・アドベンチャー
プロジェクト・アドベンチャーは株式会社プロジェクト・アドベンチャー・ジャパンが、1995年に設立し、東京を拠点に活動しています。
PAの魅力を体感する体験会や学校教員向けのワークショップ、PA指導者養成プログラム等を行なっています。
どちらも学校プログラムや企業研修を受託事業として行なっています。
歴史
アウトワード・バウンドの歴史
第二次世界大戦中、イギリスの商船がドイツの軍艦に攻撃され、多くの水夫が命を落としました。そんな中、生き残って帰って来るのは若い体力のある水夫よりも、年老いた水夫でした。
創始者クルト・ハーンは、経験と強い意志がなせる業だと考え、これらを育てる学校を作りました。
こうして、船乗りが危機的状況を生き残るためのトレーニングを目的に始まったのがアウトワード・バウンドでした。
やがてその教育プログラムは、都心の若者、犯罪を犯した青少年の更生、企業のチームビルディング等、様々な対象に効果があることが認められ、広まって行きました。
また、厳しい自然環境だけでなく、教室や都会のような環境でも提供されるようになりました。現在イギリスでは、ボーイスカウトと共に青少年の社会教育三本柱といわれています。
アウトワード・バウンドの語源
上記のように「アウトワード・バウンド」の起源は海にあります。
外洋航海の準備を整えた船が、「出港準備完了」であることを示すために船尾に掲げる旗のことを「アウトワード・バウンド」旗と言います。
「アウトワード・バウンド」には青少年が社会という大海原に出港していくための準備をするための学校という意味が込められています。
プロジェクト・アドベンチャーの歴史
アウトワード・バウンド・ミネソタ校創設者の息子であり、高校教師だったJ.ペイは、青少年教育に効果を示していたOBに関心を持っていました。
しかしOBは、内容の厳しさや費用、期間等コスト面で青少年にとってハードルが高いものでした。J.ペイはOBのエッセンスを学校制度に馴染む形で導入するプロジェクトを立ち上げました。
これがプロジェクト・アドベンチャーの始まりです。
プロジェクト・アドベンチャーの語源
上述したように、アウトワード・バウンドという言葉には、ウィルダネス(「荒野」と訳される厳しい自然環境)で行われるプログラムのイメージが強いため、あえてこの名を使わず、
「アドベンチャー」という言葉を使ってプロジェクトを立ち上げました。
世界の動き | 国内の動き |
1941年最初のアウトワード・バウンド・スクール設立。
1970年アウトワード・バウンドの考え方を学校教育に応用するためのプロジェクト「プロジェクト・アドベンチャー」がアメリカで立ち上がる。 1981年Project Adventure, Inc.が法人として設立。 |
1989年日本アウトワード・バウンド協会設立
1995年株式会社プロジェクト・アドベンチャー・ジャパン設立 |
教育内容
アウトワード・バウンドの教育内容
アウトワード・バウンドの理念
創始者クルト・ハーンの教育理念に立脚しています。教育者としてOB以外にも種々の教育活動に取り組んできた彼の考察一つ一つにはここでは触れません。
OB世界共通の理念として、To serve, To strive, Not to yield(奉仕、努力、不屈)があります。
実際にやること・活動内容
ウィルダネスと呼ばれる厳しい自然環境を舞台に、3日間から長いものでは10日以上に及ぶ合宿型のプログラムを基本としています。
10名弱の参加者がグループを組んで、ロッククライミングやカヌー、登山遠征、帆船航海などに挑戦します。
プロジェクト・アドベンチャーの教育内容
プロジェクト・アドベンチャーの理念
プロジェクト・アドベンチャーは、「学校制度の中にOBを取り入れる」というそもそものコンセプトがあります。
場所的な制約、学校の大人数に対応できるように、OBと比べて人の手による様々な工夫と発明がされています。
- フルバリュー・コントラクト
「一人ひとりを最大限に尊重する」という意味で、PAのプログラムの根幹を為す概念です。
- チャレンジ・バイ・チョイス
チャンスはまた巡ってくる。挑戦しないという決定であっても自己決定することが大切だという立場をとっています。
実際にやること・活動内容
ロープスコースやアクティビティ
ロープスコースは、アスレチックのような構造物のことを言います。
高さが10m程あって命綱を使うハイエレメントと命綱を使わないローエレメントがあります。
レジャー目的のアスレチックと異なるのは、これに取り組むことで気づきや学びが起こるように意図的に設計され運用されている点です。
その他にも、教室で実施可能な種々のゲームが用意されています。
緊張を解す為のもの、仲間との信頼を必要とするもの、課題解決型のもの、気持ちをオープンにしていくもの等様々です。鬼ごっこもゲームの一つです。
共通点と相違点
歴史を見るとわかるように、アウトワード・バウンドとプロジェクト・アドベンチャーは共通する理念を持っています。
OBはフィールドをウィルダネス(日本語では「荒野」と訳されます)と呼ばれる厳しい自然環境で行うことを基本にしており、PAは教室で行われることを基本にしています。
アウトワード・バウンド | プロジェクト・アドベンチャー | |
場所 | ウィルダネスと呼ばれる厳しい自然環境 | 教室 |
日数 | 3日〜合宿型 | 数時間〜1日のプログラムを学校生活の中に継続的に取り入れる |
指導者:参加者 | 2:8 | 1:15 |
対象者 | 子どもから大人まで | 学校に通う生徒 |
活動内容 | ロッククライミング
登山 カヌー 帆船など |
ローエレメント
ハイエレメント 種々のゲーム |
大切にしている理念 | To serve,
To strive, Not to yield |
Full value contract
Challenge by choice |
学習理論 | コンフォートゾーン
体験学習 |
コンフォートゾーン
体験学習 |
実際には、アウトワード・バウンドが学校との連携によって教室で展開されていたり、プロジェクト・アドベンチャーが一般を対象にしたプログラムや企業研修を実施していたりと必ずしもこの表の限りではありません。
現代の社会的ニーズや地域の環境など種々の条件によって、行なっていることは様々であるため、あくまで概念としての区分であることを付け加えておきます。
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ライター
Greenfield編集部
【自然と学び 遊ぶをつなぐ】
日本のアウトドア・レジャースポーツ産業の発展を促進する事を目的に掲げ記事を配信をするGreenfield編集部。これからアウトドア・レジャースポーツにチャレンジする方、初級者から中級者の方々をサポートいたします。