風や海流の影響を受けて、大海原からうねりは伝わってくる
波の章、第2回目では、波の速さについて、群速度などの基本知識をご紹介しました.
実際の波・うねりは、風や海流などの影響を受けて、もっと複雑に伝わってきます。
伝わってくるうねりのもとは風波なので、その典型である台風を例にして解説していきます。
台風が生むうねりのメカニズム
台風が生み出すうねりは、まず台風の中心から放射状の同心円に広がっていきます。ただし台風の風は巨大な反時計回りの渦を巻いているため、中心の東側は南風、西側は北風と正反対です。
この風の影響を受けて、うねりの方向も東側は南から北へ、西側は北から南へ進みます。うねりは決して台風の中心から真っ直ぐ伝わってくるわけではないのです。
また、風の影響を受ける場合は向かい風か追い風かによっても変わり、風ではなく海流の影響を受けて方向がシフトすることもあります。
うねりが伝わり波がブレイクするまで
さらに、うねりが伝わってくる途中で別の低気圧や前線に遭遇するとその影響を受けることから、うねりが乱れたり消えたりすることも多く起こります。
うねりが伝わってくるコース上に何があり、どんな気象状況か、もともとのうねりのエネルギーがどのぐらいの大きさなのかなど、さまざまな海況が関連しながら海岸に近づきます。
近づいたうねりは、水深が浅くなるにつれて海底の地形の影響が大きくなり、さらに海岸に打ち寄せる最終段階になると、海底だけではなく陸上の地形の影響も加わります。
そして、ブレイクの形状やパターン、幅、速さなどの特徴を生み出すのです。
波・うねりの基本的な3大性質を知る
水の波に限らず、波動という物理現象にはいくつかの基本的な性質があります。なかでも代表的なのは
- 曲がる=屈折
- 回りこむ=回折
- 跳ね返る=反射
上記3つの性質です。この基本性質について、ここで少し触れておくことにします。
波の性質:屈折
沖で生まれる波やうねりは、さまざまな方向からやってきます。また、ビーチの向きも一定ではありません。
にもかかわらず、最終的に海岸に打ち寄せる波は正面からやってきます。この現象を生んでいるのが、波の屈折です。
水深が浅くなるにつれて起こる波の屈折は、専門的には浅水変形と呼ばれ、海底との摩擦によるスピード低下によるものです。
なぜ正面から波が来るのか
まっすぐな海岸線を持つ遠浅のビーチに、波が右斜めから一直線になって入ってきたケースを例にすると、波の右端が先に水深が浅くなり、左側になるほど長い時間にわたり深いところを進みます。
早く浅くなる右側は、先に海底との摩擦でスピードが低下します。
左側はスピードが維持されることになるため、波は次第に屈折して、波打ち際の近辺では海岸線と平行になるため、正面から波が来るのです。
波のパワーにも影響を与える屈折
波が崩れる方向は、右から左へと進みます。屈折は波の方向だけではなくパワーにも影響を及ぼします。
弓状の湾の場合、直線で入って来た波が最終的にはビーチの形と同じく弓状に広がります。とくに最深部では、エネルギーが分散されるためパワーは減少します。
逆に、岬のように海に突き出た地形の場合、そこに波が前から来ると集中が起こり、エネルギーは強くなるのです。
波の性質:回折
回折とは、障害物があったときにそれを波がまわり込むことを指します。たとえば沖に突き出た突堤に右横から波が訪れた場合、波は左内側にまわり込んでいきます。
また、航路だけを開けて港を両側から閉じるような漁港の防波堤に、もし直角に正面から波が訪れた場合、開口部から内側に入った波は、放射状に広がって内側全体にまわり込んで行きます。
この性質を回折と呼び、これによって波のエネルギーは減少するのです。
波の性質:反射
波が曲がったり、まわり込んだりするのではなく、跳ね返る現象が反射です。これは、光の反射と同じ現象です。
海岸付近は波にとっては障害物だらけで、ときには他方向からの波も障害物となるため、海岸付近で反射は頻繁に発生します。
反射の最も典型的な例が、岸壁や防波堤などの構造物に波が当たったとき。正面から直角に当たれば、正面に対して直角に反射し、その他の角度でも入射角=反射角の原理にしたがって反射します。
ただし、実際は摩擦や粒子の回転などさまざなな要素が関係するため、この限りではありません。
波は基本的に規則正しい動きの現象ですが、この反射の性質は、海岸沿いの波を複雑なものに変貌させます。
波がやってくる方向や大きさ、強さ、形、パターンなど、それまでとはくまったくことなる性質の波を発生させるため、油断は禁物です。周囲に障害物が多い海岸ではじゅうぶんに注意が必要です。
さらに、地震によって引き起こされる津波では、大きな島や大陸レベルの地形に反射することから、過ぎ去った津波が再び襲ってきたり、大洋全体に広がってしまうことも起こるのです。
千波に一波の巨大波、そしてそれが重なる「一発大波」
波の高さはすべて違い、ひとつとして同じ波形のものはありませんが、ばらつきながらもその5本、その10本で、ほぼ同じ高さの範囲に収まることも事実です。
しかし気象状況によっては、100本に1本は今までよりも大きな波が打ち寄せるのです。
たとえば台風が近くにいるなど、波が発生する条件がさらに整った気象状況になると、1,000本に1本はさらなる大波=巨大波が押し寄せることがあります。
巨大な波の発生
波には、突然大きな波が発生する性質があります。このような性質は、それまでマリンスポーツのベテランだけが知っている知識でしたが、最近では台風接近時の天気予報などでも、この性質を解説するようになり、一般の人たちにも周知されることとなりました。
もし、まだ知らないという場合は、ぜひ覚えておいてください。ちなみに、海の上では1,000本に1本の巨大波同士でさえ重なり合う現象も起こります。
一発大波、ログウェイブ、フリークウェイブなどと呼ばれる想像を絶するような大波となり、それは大型船の海難事故の原因になるほどなのです。